天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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盤上の影なる戦い

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 よくできた策。

 4つの盤を机に並べる。

 愛や恋に飢えたユクドールには女性。お金や珍しいものに目がないシザリアには商売。エイルシアには大事にしている娘。ハキムは足止めの季節を利用したもの。

 揺さぶりをかけられているとみていい。それとも私達の出方を待っている?

 フェイロン帝国にいる師匠はやっかいね。私達の性格を知っているだけに。

「リアン王妃様、何を楽しそうにゲームしていらっしゃったのですか?」

「これ新しい盤なのよ。こっちがシェザル王国からもらった手作りの駒。精巧な出来で惚れ惚れしてたのよ」

 木彫りの丁寧な職人の仕事を見せる。ニコニコとアナベルは笑っている。

「アナベル、お茶が飲みたいわ」

 はい。リアン王妃様。そう返事をし、いつものようにお茶を淹れてくれる。

「クロエ王女様の縁談はどうなさるのですか?」

 私はクッションに顎をのせて、だらだらし、そうねぇとつぶやく。

「どうしようかしら?」

「驚かなかったのですか?やけに落ち着いているではありませんか?」

「そう?」

 お茶を受け取り、カップに口をつける。

「クロエ王女様にとってもよいお話ではありませんか?東の大国であると聞きましたけれど……」

「そうかしらねぇ?」

 私はカップを置く。そしてアナベルを見た。

「それで、アナベル?やけに質問をするけど、どうしたのかしら?お茶の温度も温すぎるし、あなたが失敗なんて珍しいわ」

 アナベルが私を゙見て、無言でニコニコしている。

「口調も王妃様とか王女様とか、ご丁寧な言い方ねぇ?」
  
 そこまで言われてもニコニコとしている。私は魔力の塊をアナベルにぶつけた。吹っ飛び、壁に体を打ちつける。ドンッとぶつかる音も悲鳴も聞こえない。壁に当たったアナベルの体は消え、ヒラヒラと人型の紙人形が、床に落ちていく。

 私はそれを拾った。この魔法はこのあたりの地域のものではない。東の国で使われているものに似ている。

「……きゃっ!」

 私は小さく悲鳴をあげて、紙人形から手を離した。熱くない青い炎が燃え上がり、紙を燃やしていく。そして跡形もなくなる。

 部屋には私、一人。何事もなかったかのように……。

 仕掛けた相手はすぐ思い当たった。

「やっとウィルが落ち着いて、冷静になったのに、こんな騒ぎがおきたら、またイライラするじゃないの。それに先生ったら……覗き見なんて無粋よ」

 私とウィルの反応を知りたかったのかしら。それにしても紙人形を送りつけるとは面倒なことをしてくれるわ。

 私は怠惰な王妃として演じれていた?とりあえず合格かしら?

 腕組みをし、数分前の自分を思い出して、よしと頷く。チェスをして遊び、クッションに囲まれてゴロゴロと怠惰に……あくまでも演じているのよ!危ない危ない。最近、それが普通になってる気がしたわ。

「リアン様ー?お茶をそろそろ淹れましょうか?」

 アナベルが入ってきた。私の視線を受け止めて、首を傾げる。

「どうしました?じーっと人の顔なんてみて?リアン様のお気に入りのアップルパイをクロエ様が焼いたので、どうですか?」

「クロエが!?」

 中のリンゴは口に入れると甘酸っぱくてトロリとし、カスタードクリームと合うくらいのちょうどいい甘さ。パイ生地はサクサクし、端っこがカリッとしている。かなり美味しい。

「ふふふ。謹慎しすぎて暇だわ!こうなったらお菓子作りをマスターするわ!って言っていたらしいですよ。リンゴの品種選びから凝っていたとか」

 暇を持て余しているらしい。クロエがこだわりだすと、何かの研究なの?と思うくらい突き詰めるのよね。

 昨日、お祖父様のところへ行きたいなと強請られたが、あきらめたらしい。まぁ、あの子はたまに我慢することも覚えないとだめよね。

 クロエには頭ごなしに言うとムキになるから、結婚の話は穏やかにいきましょ!というのが私とウィルの出した答えだった。

 賢いけど難しい娘に頭をつかうことになるなんて私の小さい時も両親は苦労してたのかしら……なんとなく私のお父様やお母様、クラーク家のみんなに申し訳ない気持ちになったのだった。
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