黒と堕天使

成瀬 海兎

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噂話-Rumors-

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 なんやかんやで村を襲った上級悪魔の件は片付いてしまった。あっさりと。
「いやー、ミカヤさんは強いねー。どうしたらあんな魔法使えるのか…。」
「貴様があんな無茶をしなければこんな余計な魔力使うこともなかったんだ。少しは自重したまえよ。」
ミカヤが呆れた顔をして言う。
「はいはい。気を付けまーす。」
ところで、と割り込むアイク。
「この弱っちぃガキたちはどうするつもりだ?ミカヤ。」
「あぁ。私はギルドに入れるのに賛成だ。お前はどうだ?」
ミカヤはアユムを見つめる。
「ギルド入っていいんすか…?いやそりゃ俺は帰る場所もないし一文無しだしで好都合だけど…。」
「てなことだ、アイク。」
はぁ、と呆れたため息を吐くアイク。
「そこの盗賊少年。名はなんという?」
あっ、はい。とおどおどしながら話し始める。
「い、イルっていいます。あの…その初級職なんで…その色々迷惑かけちゃうかもしれ…」
イルの前に人差し指を立て話を止めるアユム。
「誰だって最初は1レベだろ?気にすんなって」
(昔読んだ漫画の主人公が言ってたセリフ丸パクりだけど…決まった感じ?)
「かっこつけたいのはわかるが1レベどころか無職のお前に言われてもな…。」
同調する一同。
「む、無職!?俺職業無いの?」
「何をそんなに驚いているんだ。まさか自分の職業状態も理解していないのか?」
(嘘だろ、異世界転生したのに無職な上、能力なしなんて…。)
「呆れたものだな。どこから教えればいい?」
「できれば…全部?」
ぺしっ。
「いてっ。」
ミカヤはアユムを叩く。
「仕方がない。説明は夜にするからとりあえず宿に入っててくれ。」
と言いミカヤはアジトの中の宿を案内した。
「ここが部屋だ。あまり広くないが悪く思わないでくれ。」
(十分すぎるスペース…。)
「ところでミカヤさん。色々教えてほしいんだけど…。」
「あぁわかってる。座ってくれ。」
ミカヤはいくつか本を書庫から取り出し。
「まずは職業からだな…。」
1時間後…。
「アユムの読み込みが早いお陰で意外にも早く終わったよ。」
「あ、あぁ。」
(やべぇ。全然もといた世界と違う…。当たり前か…。)
「そういえばアユム…君は幾つなんだ?」
唐突な質問に少し戸惑う。
「俺は…16です…」
「私のが少し年上だが…まぁほぼ変わらないな…」
「………えぇ!?」
一瞬理解するのに時間がかかった。
「ミカヤさん…10代なn」
「見た目より老けて見えるとか言ったら殺す…!」
「いえ…なんでもないですよ…」
「なら…私の事はさん付けしないで気軽に呼んでくれ…堅苦しいのはあまり好きじゃない…」
「あ、うん!わかったよミカヤ…」
「あ、そろそろ集会だ。アユムも参加してくれ。」
「集会?」
「あぁ。状況報告みたいなものだ。一応ということでな。」
連れられるがままにいくと大広間に何人か座っている。 
(あれ?思ったより人数が少ないな。ざっと20人ってとこか?)
するとミカヤが前に立ち。
「皆の者。これから集会を始める。まずは1番隊。」
(1番隊?そんな大所帯じゃないよな…。)
「はっ!今日の見回りで何やら冥界側に不審な動きが見られました。」
「と、言うと?」
ミカヤが聞き返す。
「えぇ。なんでも見慣れない服装の少年が魔界の門を開け、大量に魔物が放出されたそうで…。」
一斉に回りがアユムを見る。
「え?俺?」
アユムが困惑しているとミカヤは笑いながら。
「おいおい。コイツはゴブリンに襲われていた奴だぞ?そんなこと出来るはずないよ。」
「ミカヤさん。この男が騙しているだけでは無いのですか…?」
「そ、それは…。」
一気に疑いをかけられるアユム。
「ちょ、ちょっと待って。俺は今日この地に来たんだよ。」
「旅人だというのは聞いている。だがその服装。悪いが見慣れないものだ。」
(えー!?ミカヤさんさっきジャージのこと知ってたじゃん!?)
「疑うのも解るが俺はホントに何も知らない。」
アユムが必死に弁明していると。
「まぁお前らも。コイツがここまで言ってんだから信じてやろうぜ。」
奥にいた男が出てきた。
「俺はドージだ。よろしくな新入り!」
と、笑顔でてをさしのべるその男はバンダナを額に巻き温厚そうだ。
「おう!ありがとな。ドージさん!」
「おいおい。いくらなんでもお人好しなんでレベルじゃあないぞ。ドージ。」
割って入ってきたのは長身の金髪の男だった。
「カイル。俺はコイツが悪いヤツじゃないと思うぜ。」
カイルと呼ばれたその男は呆れた表情をして。
「はぁ。なんかあったら責任とってくださいよ。ミカヤさん。」
「わかっている。すまないが私もそんな事があったなんて知らなかったからな…。」
続けてミカヤが…。
「この少年は私が面倒を見るから皆も安心してほしい。どうか信じてやってくれ。」
さっきまでとは変わり賛同の声も上がってきた。
ドージはアユムに自己紹介をするように指示する。
「あ、俺はアユムっていいます。どうやらまだ無職らしくて…。記憶も何もないので色々教えて頂けると嬉しい…です。」
任せておけ、とアユムを応援する声が聞こえ少しホッとする。
「では、これで集会を終わりたいと思う。」
部屋に戻ったアユムはさっきの事を思い出して。
(俺意外にもこの世界に連れてこられたヤツがいるのか?)
「アユム…入っても…いいか?」
ドアの外からミカヤの声が聞こえる。
「はい。今いきます!」
ガチャ
ドアを開けるとさっきまでとは違う私服姿のミカヤが立っていた。
(か、可愛い!!)
「どうした?私に何かついているか?」
「いや、なんでも…」
「そうか。少し話がしたくてな…いいか?」


 「それで…話というのは?」
「魔術…のことなんだが。」
魔術…俺は使えるのか?
「うちの団員がお前を魔力可視したところ、アユムは魔素の匂いがするらしい。」
「ま、魔素の?」
「あぁ。普通は上級悪魔の特級魔族のみが放つと言われるものなんだが…。」
(特級魔族…!?俺は何者なんだ!?)
「ミカヤさん…俺…どうすれば…?」
少し暗い表情をする。
「わ、私はアユムを信じてるからな。」
「おそらくまだ疑いはかけられるだろうし…。大事になるようなら俺はここを去るよ…。」
アユムは言い切る。
するとミカヤは少し笑いながら。
「そんな気負わなくて大丈夫だ。ゆっくりとアユムが危険じゃないことを証明していけば良い。」
「ありがとう…。」
じゃあ…とミカヤは部屋から出ていった。




翌朝になった。
「色々気になって夜も寝れなかった…。」
そっとミカヤが部屋に入ってきた。
「あ、アユム。起きてたか。」
「はい…。」
「大収穫クエストに行くんだが来るか?」
「大収穫…?」
大収穫クエストとは、村などを襲う魔物たちの巣窟を潰すクエストのこと。
「俺は何も出来ないんだけど…。」
「君には初級職に就いてもらわないとだからな。」
職業…。
「つけるのか!?」
「なに言ってるんだ。まさか…一生無職のまま生きるつもりだったのか?」
あははと笑うミカヤ。
(とうとう来ましたか能力解放!)
「それでそれで…。どうやって職貰うんだ?」
「あぁ。クエストでの成果を見て王政から直接与えられる。」
(オウセイカラチョクセツ?)
「つまりはこの''大収穫クエスト''で頑張ってくれ…という訳なんだが。」
「ま、まぁとりあえず行ってみるよ…。」
(成果って言っても何も出来ないんだけど…。)
「じゃあ支度したら集会に来てくれ…。」
ミカヤが部屋を出た。
「はぁ…どうしようか…。」



                                                      ---濡れ衣 -----
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