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第十六章 冷たくて寒くてCになっちゃう…

第十六話 氷のダンジョンって寒くて冷たくてイヤなんですよね……「私のアイディアで何とかなります!」

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 エイミアの|≪女神の抱擁≫《ゴー・トゥー・ヘヴン》のおかげで、妙な本の呪いは解くことができた。けど……。

「お、お前らあああっ! ギルドを吹っ飛ばすとは、どういう了見だあああああっ!!」

 余波で粉々になったギルドの中心で、ヤケクソな悲鳴を叫ぶケダモノがいた。

「いやあ、不幸な事故でしたなあ、お互いに……はっはっは」

「はっはっは……じゃねえ! どうしてくれるんだと聞いてるんだ!」

「どうしてくれるも何も……元はと言えば、あんたが『今年の氷河の城壁アイスキャッスルの傾向と対策』なんて呪い本を売るからいけないんでしょ!?」

「うぐっ!? そ、それは……」

 私はちゃーんと見てたのよ。こいつが私達を眺めてニタニタ笑ってたのをね!
 つまり、確信犯だったわけだ。

「そんな呪われアイテムを、ギルドの職員が売ってたなんてバレたら……どうなるかしらね~♪」

「お、お前、俺を脅迫するつもりか!?」

「つもりも何も脅迫してんのよ! 今回のことをギルド本部にバラされたくなければ、ギルドの爆発の件は黙殺しなさい!」

 これ以上手痛い出費を、強いられてたまりますかってーの。

「お、俺を脅迫すると痛い目を見るのはお前らだぞ!? 俺の一族にはギルドマスターが多いんだぞ!?」

 げっ!?
 こいつってスーモサカの変態ギルマスの一族!?

「ふん! どうせスーモサカのギルマスの兄弟か何かでしょ!」

「再従兄弟だ!」

 めっちゃ微妙な繋がりだな!

「あ、あーら残念ねぇ~……。スーモサカのギルマスはね……このエイミアに首ったけなのよ!」

「何ぃ!?」

 急に慌てだしたおっさんに見えないように、エイミアが私の腕をつついた。

 (……何よ)

 (何で変態ギルマスが私に首ったけなんですか!? お願いですから取り消してくださいよ!)

 (何言ってんのよ!! このギルドを吹っ飛ばしたのはあんたでしょ!?)

 (うっ!)

 半分は私の責任だけど。

 (だから、ね? ちょっとだけだから)

 (ちょっとだけとかいう問題じゃないんですけど!)

 違いない。

「……うぐぅぅ~~っ……わかった! これは持ち込まれた呪われアイテムの暴走で起きたんだ! それでいいだろ!」

「わかったわ。なら私達も『今年の氷河の城壁アイスキャッスルの傾向と対策』なんて本は知らない。これでいいわね?」

「……わかったよ……クソ、ついてねぇ。まさかスーモサカのギルマスの愛人・・が来てるとは……」

「愛……! ちょっと待っうぐっ!?」

「ん? 何だ?」

「な、何でもありませんわ……お~っほっほっほ! では失礼致します……そそくさ」

 私はエイミアの口を塞いだまま、急いで戦略的撤退をした。


「……よし、ここまで来れば大丈夫いってえええっ!?」

 エイミア、噛みつきやがった!

「な、何すんのよエイミア!」

「何すんのよじゃありませんよ! あのままじゃ、私は変態ギルマスの愛人だ、なんて誤解が広まっちゃうじゃないですか!」

 別に~~私のことじゃないし~~。

「……サーチ?」

「ちょちょちょい待ち! 何とかなるから釘棍棒を片付けなさい!」

「何とかなるって……どういう事ですか?」

「あのバカは私達以外にもあの本を売ってたわけよ。だから私達が告発しなくても……」

「……他にあの本を買った人が告発するのを待つんですか?」

 まさか。そんな悠長なマネ、してる暇ないし。

「無論、偽名を使って告発するに決まってるじゃない」

「……やっぱサーチは悪党だわ」
「……笑ってる姿は既に裏社会のドン」
「そんな黒いサーチも素敵です……うふふ」

「悪党とか裏社会のドンとか失礼ね! ていうかヴィーの反応は毎回何なのよ!!」

「いいじゃねえか、嫌われてるんじゃないんだし」

「………」

「で? 何でエイミアはムスッとしてるんだ?」

「……してません」

「そう意地になるなよ。素直になったほうがいいぜぶごっ!」

「余計なお世話です! フンだ!」

 鳩尾に膝を入れられて踞るリル。そりゃ蹴られるわよ……。

「ヴィー、頼むから回復してくれ……」

「……リル、口は災いの元ですよ」

「だな。気をつけるさ……からかうのはヴィーだけにしとくへぐぅ!」

「……回復したいのなら、薬草でもかじって下さい」

 あーあ。ヴィーまで怒らせちゃって……。

「……あんた、マジでバカじゃないの?」

「う、うぅ……言い返せない……」

 最近リルの立ち位置が、お笑い担当になりつつあるような気がする……。


「……話は逸れたけど、あの本に書いてあったこと自体はウソじゃないみたいだから……明日、氷河の城壁アイスキャッスルへ行くわよ」

「わかりました。今から準備を?」

「そうね……相手は氷属性のモンスターだから、対策は万全にしとかないとね」

「別に簡易護符シンプルアミュレットで大丈夫なんじゃねえか?」

「……ごめん、言い足りなかったわ。防御面じゃなくて攻撃面での対策ね」

「そうだな……スノーフットやアイスエレメントは、普通に攻撃しても再生しちまうからな……。属性攻撃ができるヴィーとリジーにばっかり負担がかかるな」

「ねえ、サーチ。この間投げてた炸裂弾でしたっけ? あれは火属性じゃないんですか?」

「……ああ、あれ? 中身は炎熱石だから当然火属性よ」

「なら、炸裂弾を量産していっぱい持っていけば……」

「あんなバンバン破裂するヤツ持ってったら、雪崩がどんだけ起きるかわかんないわよ!」

 ていうか逆に私達が危険。

「……ならサーチ姉、破裂するんじゃなく、ただ燃えるだけのモノに改良しては?」

「できるわよ。だけど氷から溶けだした水で消されるのがオチよ……」

 氷のダンジョンって結構厄介なのよね……。

「なら氷を物理的に破壊しちゃえば」

「……あのね~、エイミア。私達は氷属性モンスター対策の話をしてるの。物理的に破壊しても再生しちゃうモンスターの話をね!」

「で、でもダンジョンそのモノを・・・・・・・・・・破壊しちゃえば、モンスターの回復を妨げる事もできませんか?」

 ……?
 回復を妨げるって……?

「……確かにそうですね。氷属性モンスターが再生する場合、供給源となる大量の氷が近くにないと無理ですから……」

 そ、そうなんだ。エイミアが言ってたことも、あながち間違ってない……ん? エイミアが言ってたこと……ダンジョンそのモノを破壊する……?

「そ、そうか! そうだわ! 何で気づかなかったんだろ……!」

「サーチ、何か妙案が浮かんだのですか?」

「そうよ! 我ながらナイスアイデアだわ……! お願い、みんなで手分けして、炎熱石をありったけ集めて!」

「「「「え、炎熱石を?」」」」

 そうよ……! そうだわ!
 氷のダンジョンなんだから……まるごと破壊しちゃえばいいのよ!


 この時、私は例のギルドのおっさんのことをすっかり忘れていた。
 ……結果、エイミアの「変態ギルマスの愛人説」が広まることになる……。
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