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第二章 揺れるにはBくらいないと

第十話 ついにビキニアーマー…ですよね…

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野外演習のあった日の夜。

 「うーん…うーん…」

 私は悩んでいた。
 演習中にレッドキャップが現れるなんて前代未聞だ。
 今回は私が偶々いたから良かったものの(自慢!)普通の駆け出し冒険者が相手だったら瞬殺だろう。
 女性だったら…飽きるまで犯されて殺されるか、運が良くても苗床だろう。
まあ、そんな事はギルマスが悩めばいいことだからどうでもいい。
 今の私に重要なのはこの革のビキニアーマーだ。

 昨日のレッドキャップのドロップアイテムだ。
 当然、着たい。今すぐ装備したい。
でも、深刻な問題が二つ。

 一、恥ずかしい。
 二、サイズが微妙(特に胸)

一は…何故か今頃になって踏ん切りがつかない。
あー、着たいのに!着たいのに!
 心の底にある「羞恥心」という邪魔者が…手強い!
……まあ、それより先にサイズという根本的な問題をなんとかしますか。

とりあえず、一度装備。
 人前に出ない限りは問題ない。

 「ウエストとヒップは問題ないんだけど…やっぱりバストかあ…」

 悲しいくらいがばがばだ。

 「うえすと?ひっぷ?」

 「ウエストは腰のう…ぎゃああああ!」

いつからいたのかエイミアが不思議そうに立っていた。

 「あ、あんた何時からいたの!?」

 「うーん、うーんのあたり」

 「……?……!!一番最初じゃない!」

すぱーん

「いったーい!」

かなり八つ当たり気味にスリッパが唸った。


かなりご機嫌斜めになったエイミアを宥めるのに結構苦労した。

 「ごめんごめん。ボケとつっこみっていうじゃない」

 「言わないわよ!なによ、ボケって!失礼じゃない」

 「…ボケって言われて反応するってことは…自覚あったんだ」

ボソッと言ったつもりだったけど…。

 「…サーチ~…!」

 「え…ちょっと、何してんの?静電気チャージして…髪の毛逆立ってる…ちょっと、やめてよ冗談じゃなあばばばばばばば」




しばらくお待ちください。




 「エイミア…」

 「すいません、少し興奮しました」

なんでエイミアといると話が脱線するんだろう?

 「…ここまでくればどうでもいいか。エイミア、私ビキニアーマーが着てみたいの。どう思う?」

うーん、と唸りながら小首を傾げ。

 「露出狂?」

なんで疑問系?

 「でも…『素早さ』が低い重装戦士には軽くていい装備ですね」

…軽い…か。

 「エイミアが知ってる限りでいいけど、重装戦士の装備品で軽いものってある?」

 「軽い装備…革製品か…ビキニアーマーくらいですね」

…うん。やっぱりそうだよね。
……。

 「よし!ナイス建前論発見!」

 「え?建前?」

 「私はビキニアーマーを着たくて着るわけじゃない!持ち前の『素早さ』を生かすためにし・か・た・な・く着るのよ!」

 「それは建前でなく本音ですね」

 「本音があるから建前が必要なのよ」

 「ビキニアーマー着たいの認めましたね」

あ。


それからどうやって着るか試行錯誤し。
 最終的に「詰め物」で落ち着いた。

 「私ならちょうどピッタリなんでしょうか」

ほう…?

 「な、何か悪寒が…」

 「あ~ら、悪寒だなんて…風邪でもひいたのかしらねえ、エイミアさん?」

 「え、あ、いえいえ。ビキニアーマーみたいに肌を露出させてるわけじゃないですから…」

だらだら冷や汗をかくエイミア。ちょっと脅しすぎたかな。

 「はう~、汗でびっしょりです。ビキニアーマーなら汗をかいても風通しがいいですから乾きますね」

 「そうね、風通しが…」

…ん?
 風通しが…いい?
 風通しがいいってことは…。
………。

 「?…サーチ?どうかしましたか?」

しばらく私は考えこんでいた。


 夜半過ぎ。
 危険な時間帯に私は森にいた。
 辺りは真っ暗闇。足元さえ覚束無い。
ベテランの冒険者でも普通は避けるであろう状況。
そんな場所に私は訓練のためにいた。
 右手には“不殺の黒剣”アンチキル
 左手には≪偽物≫イミテーションで作り出した針。
そして…鎧はビキニアーマー。

その装備のまま三時間。

 朝になり。
 太陽が登り始め、辺りの暗闇が消えていく。

そこには。
 真っ赤な鮮血に染まったまま立ち尽くす私と。
おびただしい数のモンスターの死体が転がっていた。

 「…これだ」

 私の、理想のかたち。
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