クール令嬢、ヤンデレ弟に無理やり結婚させられる

ぺこ

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あらがえぬ提案

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 頭が重い。靄がかかったようにぼんやりする頭にうめきながら、シャルロットは薄く目を開く。目の前には白い天井が見え、背中には清潔で柔らかなベッドの感触。自室ではないことにみぞおちのあたりがひやりとして、慌てて起き上がった。広い部屋の真ん中に置かれたベッドに、自分は横たわっていた。そして視線の先には椅子に腰掛け本を読んでいる弟の姿があった。彼は目を覚ましたシャルロットに気づき、破顔する。どんな令嬢もうっとりしてしまいそうな美しい笑顔だった。

「おはよう姉さん。ゆっくり眠れたようでよかったよ」
「どういうつもり?ここは一体どこなの」
「そんなに怖い顔しないでよ。お察しの通り僕の部屋だ。」
「あなた、私に何を飲ませたの」
「心配しないで、身体に害はないよ。ただの入眠を促す薬だから。」

 やはりそうだ、あのお茶に薬が混ぜられていた。でなきゃ突然意識が遠のくなんておかしい。じゃあシャルロットの部屋を訪ねてきた時から、そのつもりでお茶に誘ったのだろうか。シャルロットは訝しげな視線をルイに向けた。

 彼がシャルロットに危害を加えるような男だとは思っていない。だが、わざわざ眠らせて自室に運ぶなんて、一体何が目的なのだろうか。警戒の滲む彼女の視線に応えるように、彼は立ち上がると近づいてきた。びくりと肩を跳ねさせたシャルロットを安心させるように微笑むと、椅子をベッド脇まで引っ張ってきてそこに腰掛ける。そして笑顔を浮かべたまま話を切り出した。

「昨晩の話の続きをしようか。姉さんに改めて言うよ、結婚してほしい。僕は姉さんを愛している」
「……悪いけれど、その気持ちには応えられないわ。あなたのことは大切よ、かけがえのない存在だと思ってる。けど、やっぱりあなたは弟なの、結婚はできないわ」
「そう、か……」

 彼の瞳にはっきりと落胆が見えた。だがそこには初めからわかっていたような、諦念も見えた気がして、シャルロットは罪悪感にじわりと胸を焼かれた。けれどこれは仕方のないことだ。分かってくれたろうか、とおずおずと視線を上げる。

「まぁ、そうだろうね。想定の範囲内だ。……本当は穏やかに事を進めたかったけど、仕方ないね、交渉の仕方を変えよう。」
「なに、言ってるの?」

 ルイは淡々と抑揚のない声でそう紡ぐと、シャルロットの問いには答えず机から書類の束を持ってくる。そしてハリのある声でとんでもないことを滔々と語り始めた。

「これはここ10年間の財政状況だ。おかしいと思っていたよ、火の車だとは聞いていたが、あまりにも詳細が不明な出費が多すぎる。そこで明細を調べようと当時の経理担当や勤務歴の長い執事や侍女に聞き込みをした。」

 話の流れからして嫌な予感を感じ取ってシャルロットは押し黙ったまま微動だにしなかった。言い訳にしかならないが、家を継いだばかりの頃、シャルロットも支出が尋常でないことには気づいていた。だが詳細に調べを入れる暇もなく、目の前の業務に忙殺されていたのだ。だがルイは抜かりない男だった。相変わらずの整った顔に笑みを浮かべて種明かしをする。

「はじめは手こずったよ、何しろ誰も口を割らないんだから。そこで数年の間待ってね、僕の味方を増やして、屋敷の中で立場を確立できる時を待った。ようやく最近のことかな。金を握らせて、娘はいいところに嫁がせてやるよう計らう、息子は屋敷でとりたててやるから、と長いこと口説き続けてね。ようやく話してくれた。」

 アメジストの瞳がぬらりと鈍い光を返す。じっとシャルロットを射抜いたまま彼は口を開いた。

「母さんだよ。前領主……夫が亡くなった時期から、ありえない頻度で宝石や靴など高額な服飾品の購入を繰り返していた。相手の商人からも証言をもらったから間違いない。まぁ、領民から巻き上げた金で私腹を肥やしていたわけだから、しかも夜通し必死に働く姉さんを尻目にね。これだけでも公表されれば暴動になりかねないと思うけど……一番重要なのはそこじゃない」

 シャルロットはぐったりと体中が脱力するのを感じた。反対に手先はかたかたと震えが止まらない。目の前に突きつけられた実母の所業はとても受け入れがたいものだった。

「懇意にしていた宝石店にね、多額の援助をしていた上に……もちろん、公費の名目でね。その宝石店の店主が持つ物件や土地の査定額にまで手を加えていたらしい。まぁつまり……脱税の幇助だ。これも裏付けがとれている。これは噂の域を出ないが、その宝石店の店主と母さんは懇ろらしいね」

 シャルロットはルイと顔を合わせることさえできなかった。震える手を指先が白くなるほど握りしめて涙をこらえる。衝撃が先に来て脳をグラグラと揺らし、次に情けなくてたまらなくなってくる。何も気づいていなかったこと、いや、忙しさにかまけて疑わしきものも放置していたこと。目を潤ませてじっと激情に耐えるシャルロットを、ルイは気遣わしげに見つめて、そっと抱き寄せた。そして落ち着かせるように背中をさすりながら優しい声色で言う。

「可哀想に。姉さんはきっと責任感が強いから、自分を責めてしまってるんだろう。けれど、今回の件に全く姉さんは関わってない。姉さんのせいじゃないんだよ。何も気にしなくたっていい。ただ……」

 ルイはトーンを落として、穏やかな低音で囁いた。

「母さんのやったことは犯罪だからね。本当は法の裁きを受けて、罪を償うべきだ。けれどね、僕個人としては、できるだけそうはしたくない。姉さんが罪悪感を感じて自分を責めてしまうのが心苦しいし……何より、母さんが罪に問われたことで、その実子である姉さんにまで矛先がいくだろう。該当の期間に実質財政を担っていたのは姉さんだから、姉さんのところまで調べが入るだろうことは明白だし、姉さんが無関係でも、領民がそう思うかは怪しい」

 そこへきてシャルロットはようやく気づく。彼の言葉は甘く優しい響きをしていたが、実際のところは脅迫に近い。結婚してくれなければ、母親の罪を暴く。つまりはそういうことだった。

「けれど姉さんが望むならこのことは墓場まで持っていくよ。もう、とうに昔から姉さんに全てを捧げるって決めてたんだ。……姉さん、改めて"お願い"だ。結婚してほしい」

 シャルロットは自分の愚かさを呪った。だが心の中でどう思おうとも、やはり彼の言葉に頷くしかないのだった。


 差し出された書面にざっと目を通す。結婚誓約書だ。婚姻の際の決め事は夫婦で決めることが可能となっているが、初めから記入されている。きっとルイが考えたのだろう。数行読んでシャルロットは目を見張った。

『1. 離縁を申し出ることは生涯認められない』
『2. 業務や社交的行事以外での異性との会話、文通を禁じる。また、手紙等の個人的な郵便物は全て夫婦間で共有とし、要望があれば公開する』
『3. 性行為は原則毎日、互いが満足するまで行う。』

 財産分与の件や離婚後の条件などを書くのが普通だが、こんな相手を縛り付けるような内容の誓約書を見たのは生まれて初めてだった。思わずルイを睨みつけるものの、彼は何も言わずじっと涼しげな視線をシャルロットに注いでいる。シャルロットは生涯を束縛するような内容のそれにしばらくの間躊躇したが、自分にはサインする以外の選択肢はないことを思い出す。ペン先が震え、書き損じそうになりながらもサインを終えた。ルイは満足そうに誓約書を取り上げると丁寧に丸めて紐飾りで結び、金庫の中に仕舞い込んだ。

「ねぇ、帰っていいかしら」

 そう言うと、ルイは信じられないものでも見るような目でこちらを見た。そしてくすくすと笑いながらシャルロットに近寄り、ジャケットを脱ぐとベッドに腰を下ろす。

「何言ってるの姉さん。ようやく婚姻が成立したんだよ。これで晴れて僕たちは夫婦だ。早速愛し合おう」

 彼の手が背中に伸び、思いの外器用にドレスを脱がせていく。コルセットの紐をほどいて床に落とすと、白く薄地のシュミーズだけになったシャルロットを、ゆっくりとベッドに押し倒した。
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