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第一章 花嫁試験編
13. ローブ・コンクール(3)
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ローブ・コンクールが行われる大広間には、既にマントを来た令嬢たちが集まっていた。名前を呼ばれた順に壇上へ上がり、マントを脱いで衣装を披露するという趣向だ。広間の片側には椅子が並べられ、試験官のオクレール女官長とフォルタン公爵夫人、女官たちが座っている。
「アレクサンドラ様、ごきげんよう。ご準備は万端ですの?」
「ごきげんよう、デルフィーヌ様。ええ、勿論ですわ」
「デュヴィラール家のご令嬢ともなれば、さぞや斬新なドレスをご用意されているのでしょうね。楽しみですわ~」
おほほほほ、と高笑いしながらデルフィーヌは去っていった。相変わらずのイヤミだが、どうにも言い方がひっかかる。
(……こちらのトラブルを知っている?もしや、彼女の妨害工作?)
「それではこれよりローブ・コンクールを始めます。一番、リゼット・ルヌヴィエ様」
女官に名前を呼ばれた令嬢が壇上に上がり、マントを脱いで衣装を披露した。スカートを大きく広げたタイプのドレスで、多段に重ねたフリルが目を引く。首元や袖にも同じフリルがあしらわれており、髪にも同じ色のリボンを結んでいるのがなかなか洒落ている。
「まあ、可愛らしいこと!リゼット様によくお似合いですわ」
「ちょっと色味が地味ではございませんこと?」
壇下の令嬢たちは口々に感想を言い合っている。ひと回り歩いたあとにお辞儀をした彼女に、観衆はぱらぱらと拍手をした。
呼ばれた順に、令嬢たちは次々とドレス姿を披露していく。15人ほど回った後にディアナの番がやってきた。
パニエで膨らまさないシュミーズ・ドレスだ。上には丈の短いジャケットを羽織っている。ジャケットの襟を彩るふわりとした白い布は胸元で絞られて花のようになっており、控えめなスカートと絶妙なバランスを保っていた。
「シュミーズドレスなんて、古臭くございません?」
「田舎育ちだけありますわねえ。流行に疎いのでしょう」
「でも、あのジャケットのデザインは今風ですわよ」
「そうね、レトロなドレスとの組み合わせはなかなか洒脱ですわ」
ディアナの堂々とした態度も良かったのだろう。令嬢たちからはまあまあ好評の様子だ。
さらに数人後に、フェリーチェが呼ばれた。人気デザイナーの娘だ、さぞや素晴らしいドレスであろうと令嬢たちは興味津々である。
フェリーチェのドレスは、軽く膨らんだスカートに、派手な黄色の帯で腰を締めているものだった。大胆に開けた胸元は、ファーのついた襟で彩られている。自分のスタイルを最大限に引き出して魅せる形を選んでいるのは、さすがといったところか。観衆からは驚きとと共に盛大な拍手があがった。
「あのような襟は見たことがありませんわ」
「さすがはフェリーチェ様!色味も斬新ですこと」
「やはりお母様がデザインなさったのかしら?」
「いいえ、フェリーチェが自分でデザインから裁縫まで行ったのよ」
普段なら聞き流すところだが、アレクサンドラは思わず指摘してしまった。確かに母親の七光りはあるだろうが、あれはフェリーチェ自身の努力の成果だ。だが、指摘された娘たちはふうん、という反応だった。半信半疑なのだろう。
ほとんどの令嬢が披露を済ませた後、デルフィーヌが呼ばれた。満を持しての登場である。彼女がマントを脱ぐと、観衆からは「まあ……!」と嘆息する声が上がった。
髪を夜会風に巻き上げ、マーメイドラインのドレスを纏った彼女は異国の姫君のような美しさだ。ドレスの上からひざ元まで垂らした薄緑のショールが、キラキラとした光を放っている。おそらく、希少なランド糸を織り込んだ布だろう。ドレスからネックレス、靴に至るまで最高級素材であることは一目瞭然だ。
「さすがはシュペルヴィユ家のご息女ですわ。最高級の素材をああも惜しげなく使って……」
「素材だけでなくドレスや装飾品のセンスも素晴らしいですわね」
「ええ、しかもそれを自然に着こなしていらっしゃる」
観客の大絶賛に気を良くしたのか、デルフィーヌは鼻を膨らまして自慢げな顔をした。その目線は、明らかにこちらへ向けられている。アレクサンドラは気付かないふりでやり過ごした。
ラストはアレクサンドラだ。デルフィーヌと入れ替わりに壇上へ上がると、ゆっくりとマントを脱ぐ。
ドレスの後ろが膨らんだ、バッスルタイプのドレスだった。装飾は青みがかったサテンをしてあり、歩くと流水のような模様をサラサラと描く。さらに、特筆すべきは髪飾りにあしらわれている光沢のある鉱物だ。青緑色に見えるが、光の加減によって赤色に輝く。デュヴィラール領でしか入手できない、ディアマンドレイクの鱗である。ディアマンドレイクは美しい鱗を持つことで有名であるが、また気性が荒いことでも有名な魔物だ。当然、大変に希少価値が高いのである。
「あのサテンのあしらい、アレクサンドラ様の栗色の髪とよく合っていますわね」
「まあ!髪飾りはディアマンドレイクの鱗ではございませんこと!?」
「アレクサンドラ様の瞳の色と同じですわね。素晴らしいセンスですわ」
ウォークを終えてお辞儀をすると、先ほどにも増して盛大な拍手が上がる。顔を上げると、一瞬だけデルフィーヌと目があった。アレクサンドラを褒め称える観客たちの中で彼女だけが悔しそうな顔をしていた。
大盛況の中でローブ・コンクールは終了した。
「お疲れさまでした、お嬢様。結果は如何でしたか?」
「優勝したわよ」
「それは良うございました」
自室でキャスに入れてもらったお茶を飲みながら、アレクサンドラはコンクールの様子を話した。途中であくびが出てしまい、慌てて扇子で口元を隠す。
「あら、私としたことがはしたない」
「お疲れでしょう。ベッドの支度は整えておりますので、お休みされては如何ですか?」
「……そうね。ひと休みましょうか。夕食前には起こしてちょうだい。そういえば、カヴァスはどうしてるのかしら」
「まだ寝ております。そろそろ起こしましょうか」
「いえ、構わないわ。このまま寝かしておいてあげましょう。起きたら、あの子の好きな肉料理でも食べさせてやって」
「かしこまりました」
今日は久しぶりにゆっくりできそうだ、と考えながら横になる。疲れがたまっていたのだろう。アレクサンドラはあっという間に眠りに落ちた。
「アレクサンドラ様、ごきげんよう。ご準備は万端ですの?」
「ごきげんよう、デルフィーヌ様。ええ、勿論ですわ」
「デュヴィラール家のご令嬢ともなれば、さぞや斬新なドレスをご用意されているのでしょうね。楽しみですわ~」
おほほほほ、と高笑いしながらデルフィーヌは去っていった。相変わらずのイヤミだが、どうにも言い方がひっかかる。
(……こちらのトラブルを知っている?もしや、彼女の妨害工作?)
「それではこれよりローブ・コンクールを始めます。一番、リゼット・ルヌヴィエ様」
女官に名前を呼ばれた令嬢が壇上に上がり、マントを脱いで衣装を披露した。スカートを大きく広げたタイプのドレスで、多段に重ねたフリルが目を引く。首元や袖にも同じフリルがあしらわれており、髪にも同じ色のリボンを結んでいるのがなかなか洒落ている。
「まあ、可愛らしいこと!リゼット様によくお似合いですわ」
「ちょっと色味が地味ではございませんこと?」
壇下の令嬢たちは口々に感想を言い合っている。ひと回り歩いたあとにお辞儀をした彼女に、観衆はぱらぱらと拍手をした。
呼ばれた順に、令嬢たちは次々とドレス姿を披露していく。15人ほど回った後にディアナの番がやってきた。
パニエで膨らまさないシュミーズ・ドレスだ。上には丈の短いジャケットを羽織っている。ジャケットの襟を彩るふわりとした白い布は胸元で絞られて花のようになっており、控えめなスカートと絶妙なバランスを保っていた。
「シュミーズドレスなんて、古臭くございません?」
「田舎育ちだけありますわねえ。流行に疎いのでしょう」
「でも、あのジャケットのデザインは今風ですわよ」
「そうね、レトロなドレスとの組み合わせはなかなか洒脱ですわ」
ディアナの堂々とした態度も良かったのだろう。令嬢たちからはまあまあ好評の様子だ。
さらに数人後に、フェリーチェが呼ばれた。人気デザイナーの娘だ、さぞや素晴らしいドレスであろうと令嬢たちは興味津々である。
フェリーチェのドレスは、軽く膨らんだスカートに、派手な黄色の帯で腰を締めているものだった。大胆に開けた胸元は、ファーのついた襟で彩られている。自分のスタイルを最大限に引き出して魅せる形を選んでいるのは、さすがといったところか。観衆からは驚きとと共に盛大な拍手があがった。
「あのような襟は見たことがありませんわ」
「さすがはフェリーチェ様!色味も斬新ですこと」
「やはりお母様がデザインなさったのかしら?」
「いいえ、フェリーチェが自分でデザインから裁縫まで行ったのよ」
普段なら聞き流すところだが、アレクサンドラは思わず指摘してしまった。確かに母親の七光りはあるだろうが、あれはフェリーチェ自身の努力の成果だ。だが、指摘された娘たちはふうん、という反応だった。半信半疑なのだろう。
ほとんどの令嬢が披露を済ませた後、デルフィーヌが呼ばれた。満を持しての登場である。彼女がマントを脱ぐと、観衆からは「まあ……!」と嘆息する声が上がった。
髪を夜会風に巻き上げ、マーメイドラインのドレスを纏った彼女は異国の姫君のような美しさだ。ドレスの上からひざ元まで垂らした薄緑のショールが、キラキラとした光を放っている。おそらく、希少なランド糸を織り込んだ布だろう。ドレスからネックレス、靴に至るまで最高級素材であることは一目瞭然だ。
「さすがはシュペルヴィユ家のご息女ですわ。最高級の素材をああも惜しげなく使って……」
「素材だけでなくドレスや装飾品のセンスも素晴らしいですわね」
「ええ、しかもそれを自然に着こなしていらっしゃる」
観客の大絶賛に気を良くしたのか、デルフィーヌは鼻を膨らまして自慢げな顔をした。その目線は、明らかにこちらへ向けられている。アレクサンドラは気付かないふりでやり過ごした。
ラストはアレクサンドラだ。デルフィーヌと入れ替わりに壇上へ上がると、ゆっくりとマントを脱ぐ。
ドレスの後ろが膨らんだ、バッスルタイプのドレスだった。装飾は青みがかったサテンをしてあり、歩くと流水のような模様をサラサラと描く。さらに、特筆すべきは髪飾りにあしらわれている光沢のある鉱物だ。青緑色に見えるが、光の加減によって赤色に輝く。デュヴィラール領でしか入手できない、ディアマンドレイクの鱗である。ディアマンドレイクは美しい鱗を持つことで有名であるが、また気性が荒いことでも有名な魔物だ。当然、大変に希少価値が高いのである。
「あのサテンのあしらい、アレクサンドラ様の栗色の髪とよく合っていますわね」
「まあ!髪飾りはディアマンドレイクの鱗ではございませんこと!?」
「アレクサンドラ様の瞳の色と同じですわね。素晴らしいセンスですわ」
ウォークを終えてお辞儀をすると、先ほどにも増して盛大な拍手が上がる。顔を上げると、一瞬だけデルフィーヌと目があった。アレクサンドラを褒め称える観客たちの中で彼女だけが悔しそうな顔をしていた。
大盛況の中でローブ・コンクールは終了した。
「お疲れさまでした、お嬢様。結果は如何でしたか?」
「優勝したわよ」
「それは良うございました」
自室でキャスに入れてもらったお茶を飲みながら、アレクサンドラはコンクールの様子を話した。途中であくびが出てしまい、慌てて扇子で口元を隠す。
「あら、私としたことがはしたない」
「お疲れでしょう。ベッドの支度は整えておりますので、お休みされては如何ですか?」
「……そうね。ひと休みましょうか。夕食前には起こしてちょうだい。そういえば、カヴァスはどうしてるのかしら」
「まだ寝ております。そろそろ起こしましょうか」
「いえ、構わないわ。このまま寝かしておいてあげましょう。起きたら、あの子の好きな肉料理でも食べさせてやって」
「かしこまりました」
今日は久しぶりにゆっくりできそうだ、と考えながら横になる。疲れがたまっていたのだろう。アレクサンドラはあっという間に眠りに落ちた。
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