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第一章 花嫁試験編

17. ノーヘッド・ノーラン(1)

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 次の課外試験の日、花嫁候補たちは魔王城の墓地に集まっていた。離宮からさらに奥まった位置にあるこの墓場は、魔王家の累代の遺体が納められているらしい。

「ここはクローヴィス二世陛下の時代に作られた墓地でございます。この地下にある祭壇まで到達すれば試験合格となります。今回は複数名で行動なさっても構いません」

 令嬢たちは、ある者は仲良し同士で、ある者は単独で、次々と墓地へ進んでいった。我らが主人公はいつもの三名での行動である。
 墓地の入り口は小さな建屋だ。その中に地下へ降りる階段がある。階段を下りた先は細い通路になっており、両側には髑髏や棺桶のぎっしり詰まった小部屋が並んでいた。

「今回は試験というより課外授業だな」
「でも、お二人と一緒で良かったです~。こんなところを一人で歩くの、私は無理です」
「あらそう?」
「アレク様、何だか生き生きとしてらっしゃいますね」
「わたくしはアンデッドですから、こういう場所は身体に合いますの。ほら、お肌なんてツヤツヤですわ」

 アレクサンドラは顔をぴちぴちと叩いて見せる。墓場に漂う空気が肌に潤いを与えてくれるので、いつもより数段に調子が良いのだ。

「逆に強い太陽の下だと、肌が荒れてしまうのが困るのですけれどね」
「難儀な体質だな」

 通路は行く先々に分岐があり、迷路のようだ。何度か行き止まりにぶっつかって戻る羽目になった三人は、簡易な地図を書きながら進むことにした。

「また分岐ですねえ」
「右側の通路は床がガタガタですわ。崩れるかもしれませんわね」
「とすると、左が正解か?」

 どちらに進むか話し合っていた、その時。

「ばあ!」

 突然、声と共に人影が落ちてきた。
 アレクサンドラは咄嗟に、逆さまにぶら下がるソレへ正拳をぶち込んだ。人影は壁まで吹っ飛んだが、ふわりと回転して戻ってくる。その姿には見覚えがあった。

「あら、トムじゃありませんか」
「またお前デスか!いきなり何するんデス!」
「不審者にはとりあえず一発入れておくものでしょう」
「発想が蛮族デース!」
「なぜ貴方がこんな所にいるんですの?」
「亡霊は墓場と相場が決まってるでショ」
「正論ですわね。それはそれとして……」そう答えながら扇を取り出す。

「邪魔なので退去して下さいまし!」

 またも扇がクリーンヒットした亡霊は、「理不尽~!」と叫びながら飛ばされていった。

 
 しばらく行ったり来たりしているうちに、円形状の大きな空間に出た。奥には首のない巨像八体に囲まれた祭壇が見える。どうやらここがゴールのようだ。

「あ~らアレクサンドラ様、お早いご到着ですこと」

 既に到着していたデルフィーヌが開口一番、嫌み砲をぶつけてくる。

「よう、デルっち」
「変な略称で呼ばないで下さる?」
「んじゃルフィちゃん」
「○賊王になる気はございませんわ!」

 どう返してくれようかと逡巡していたのだが、フェリーチェのからかいに憤慨する姿が小気味良いので何も言わないことにした。プンプンしているデルフィーヌをスルーして祭壇へ向かう。
 そこには両手で収まるサイズの魔石が安置してあった。魔石は綺麗な八面体にカットされており、白い光を帯びている。それに触れると、アレクサンドラの名前が浮かんだ。

「なるほど。これが祭壇へ到達した証になるのですね」

 続いてフェリーチェとディアナも魔石に触れた。これで三人とも合格である。フェリーチェは魔石に触れた後も、しげしげと祭壇を眺めていた。

「ふうん。これ、ペルケ産、いやケルボー産の石材かな?面白い作りだなあ」
「フェリ、そろそろ帰りますわよ」
「まあまあ、もう合格したんだから急がなくてもいいだろ」

 職人気質全開となっている彼女は聞く耳を持ちそうにない。感化されたのか、ディアナまで祭壇の周りをうろうろし始める。やれやれと思いながらしばらく付き合うことにした。

「あら?フェリ様、ここ、何か変じゃないですか?」

 奥に顔を突っ込んでいたディアナが声を上げた。アレクサンドラもつられて除き込む。祭壇の組み石の中に、一個だけ出っ張ったものがあり、表面には文字らしきものが書かれていた。かすれているため解読は困難そうだ。

「元始前の古文字かしら?」
「ここ、押せるんじゃないか?」
「お待ちになって!訳の分からない仕掛けを触るのは危険……」

 アレクサンドラの叫びもむなしく、フェリーチェが組み石をポチッと押した。ゴゴゴゴという地響きと共に地面が揺れる。
 
「な、何ですの!?」

 揺れの正体はすぐに判明した。あの八体の巨像が動き出したのだ。真っ直ぐにこちらへ向かってくる巨像に、三人は慌てて逃げ出した。
 
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