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1. 破れた初恋
「この先、俺が君を愛することは決して無い」
ラウルが婚約者へそう告げると、彼女は呆然とした表情になった。
「君と閨を共にする気はない。跡継ぎは親類から養子を迎える。君は愛人でもなんでも好きに作るといい。但し、子が出来てもアシュバートン家の籍には入れないからそのつもりで」
「なっ……何よ、それ……。貴方、どこまで私を馬鹿にする気なの!?」
怒りだした彼女に全く臆することなく、ラウルは続ける。
「分かっていないようだから、ハッキリ言おう。貴族令嬢として君の価値はゼロどころかマイナスだ。その証拠に、縁談の申し込みは全て断られたのだろう?そんな女を貰ってやるんだから、感謝して欲しいくらいだよ」
◇ ◇ ◇
ラウル・アシュバートン子爵令息にとってこの世の全ては二種類に分別される。
自分にとって得であるか、損であるか。それだけだ。
「平素から損得勘定を以って物事を見る目を養うのだ。それが商人にとって最も必要な事だからな」
アシュバートン商会長である父の教えだ。
ラウルは小さな商会だったアシュバートンを大商会へと躍進させた父を尊敬しており、その言葉を金言として胸に刻んでいる。
「賭場?そんな所へ行って俺に何の利があるんだ」
品行方正なラウルを「ちょっと遊ぶくらい、良いだろ」と悪い遊びに引き込もうとした相手にそう言い放つ。
「その指輪はチリアの宝石だね。最近は品質が悪化して値が下がっている。自分の価値を下げたくなければ、社交場に着けていくのは止めた方がいい」
見合いの場で要らない事を口にして、相手を怒らせてしまう。当然のことながら縁談の話は無くなった。
ラウルの見目は悪くないし、アシュバートン子爵家は裕福だ。人前では社交的に振る舞う甲斐性もある。
しかしある程度馴染んでくると表面化するこの性格が災いして、親しい人間は極端に少ない。友人と言えるのは同級生数人だ。
しかし二学年に上がってから、彼はこの損得という概念を根本から覆される経験をした。
クリスティン・ノーランド伯爵令嬢と出会ったのである。
光そのものを纏っているかのように美しい金色の髪。青い瞳は澄んだ湖のように美しく、薔薇色の唇から零れる澄んだ声は聴く者を魅了する。
クリスティンの美しさは学園中の誰もが認めるところであり、いつだって彼女は令息たちに囲まれていた。
それなのに彼女は下位貴族であるラウルにも気さくに接する。親しくなってみれば、表情豊かなごく普通の女の子だ。
高嶺の花と思っていた女性の、飾らない笑顔。そのギャップに、ラウルはすっかり魅了されてしまったのである。
「ラウル!この宿題で分からない所があるの。一緒にやらない?」
「中央劇場で新作の『アデラとヴァジル』が公開されるんですって。アシュバートン商会のボックス席を使わせて貰えないかしら?」
クリスティンの頼みなら、とラウルは何でも聞いた。彼女が喜んでくれるなら、少々の手間くらいどうってことない。
「ノーランド伯爵令嬢は、高位貴族の令息ばかり侍らせてる女狐だって噂だ。距離を取った方がいい」と見兼ねた友人が窘めたが。
「そんなのはデマだ。噂が本当なら、彼女は子爵家の俺と親しくしないだろう」
「お前はいいように使われてるだけだって分からないのか?」
「彼女はそんな人じゃない。いいんだ、俺がやりたくてやってるだけなんだから」
「どうしちゃったんだよ、お前……。利益の無い行動はしないって、いつも言っていたじゃないか」
友人の言葉は、ラウルの耳を素通りしていった。
クリスティンにはたくさんの求婚者がいるのに、何故婚約者を決めないのかと尋ねたことがある。
「私は自分の力を試してみたいの。私自身で何かを成し遂げたい。だから、まだ結婚する気にならないの」
自信にあふれた彼女の瞳は引き込まれそうなくらい美しかった。
そんなクリスティンが、男を侍らせて喜んでいるわけはない。魅力的な女性だから、勝手に男が寄ってくるだけだろうと思っていた。
「お前あてに釣り書きが届いている。まだ次の見合いをする気にならないのか?」
最近、父が度々縁談を勧めてくるようになった。
いずれは家にとって利の有る相手と結婚しなければならないのは分かっている。
遅くなればなるほど、良い相手は売れてしまう。早く決めなければならないのに、ラウルにはどうしてもその気になれなかった。
クリスティンは無理だ。ノーランド伯爵は王家の傍系でもある由緒正しい貴族。しかも高位貴族から数多の求婚を受けている彼女が、ラウルを選ぶわけはない。
それが分かっていても、今は他の女性の事なんて考えられなかった。
この理不尽で不条理で、そして甘美な感情。これが恋というものなのだ。
「わあ、素敵!」
その週末、ラウルはクリスティンを実家の商会へ連れて行った。
アシュバートン商会は各国に輸入ルートを持ち、国内には無い品を扱うことで人気を得ている。ちょうどトアルース公国からの輸入品が届いたところで、売り出す前に見せて欲しいとクリスティンに頼まれたのだ。
店の奥には取り寄せた品々が並んでいた。トアルースは美術に造詣の深い国で、美しい装飾が売りの品が多い。
特殊な織り模様を組み込んだ絹織物、豪奢な装飾を施した鏡台やチェスト――。
「これ、懐中時計?綺麗ね」
「ああ。画家ティツィアーノに頼んで、彫刻を施して貰ったんだ」
「ティツィアーノ!」
クリスティンが目を輝かせる。ティツィアーノは世界的に有名な画家で、この国にもファンが多い。
「ねえ。私、これ買うわ。父の誕生日プレゼントにしたいの」
「うーん……俺の父の許可を貰えば売るのは構わないけれど。かなり値が張るよ」
有名画家が直に手掛けたものだ、令嬢とはいえ気軽に買える値段ではない。
「手持ちが足りないわ。金貨三十枚しか持ってきていないの……」
おねだりするような表情で見上げてくるクリスティン。何とかしてあげたいが、値引きは父から禁止されている。
誰かを特別扱いしてしまえば、不公平だからだ。どこからかその噂が漏れれば「自分も」と言い出す輩が必ず出てくる。
お得意様や商品の宣伝を請け負っている女優に対しては、年間契約を結んだ上で値引きしているが、それは商会にとってメリットのある相手だからだ。
「じゃあ、不足分は俺が立て替えるよ。後で返してもらえればいいから」
「本当?ラウル、ありがとう!」
借用書にクリスティンのサインを貰った上で、ラウルは自分の小遣いから足りない分を足した。『友人だろうが親族だろうが、金の貸し借りは証書を残せ』が父の教えなのだ。
サインを求めるとクリスティンは「友達なのに信用してくれないの……?」と渋る。彼女の哀しそうな表情に胸が痛んだが、そこだけは商人として譲れないと説得した。
その数週間後、ノーランド伯爵令嬢とエドワード王太子殿下が恋仲になったという噂が流れた。
どうせまたデマだろうと、ラウルは思っていた。
しかし昼休みに中庭で見た光景に、嫌でも信じざるを得なかった。
クリスティンとエドワードが、噴水のほとりで親し気に話している。その距離の近さが、二人の関係を物語っていた。
「エドワード殿下が相手なら仕方ないよな」と、クリスティンに群がっていた令息たちは肩を落とした。
エドワード王太子は金髪碧眼の端正な顔立ちに王族らしい気品の持ち主であり、令嬢にとても人気がある。
容姿に優れた二人が並んでいる様子は、まるで絵画のようで。お似合いだと、ラウルも認めざるを得ない。
しかしある日、ラウルは聞き捨てならない会話を耳にした。
「この懐中時計、何度眺めても飽きないな。流石はティツィアーノ、素晴らしい装飾だ」
「ふふ。殿下に贈ろうと、特別に取り寄せましたのよ」
「俺の為にそこまで……嬉しいよ、クリスティン」
エドワードの胸元に光る懐中時計は、間違いなくクリスティンがあの日購入したものだった。
「クリスティン!」
「あら、ラウル。何かしら?」
「あの懐中時計のこと、だけど。エドワード殿下が持ってたよね。御父上への誕生日プレゼントじゃなかったのか?」
「あ、ええ。よく考えたら、父よりもっと若い人が持っていた方が似合うかと思ったの」
嘘だということは、すぐに分かった。
クリスティンは相変わらず美しい笑顔を浮かべながらも、ラウルと目を合わせないからだ。
「……分かった。それと、立て替えたお金はなるべく早く返してくれると有難い。俺もすっからかんになっちゃったから」
「何を言っているの?貴方、あの時計を割引してくれたじゃない」
「君こそ何を言っているんだ。割引は断ったはずで」
「酷いわ!!」と突然、クリスティンが大声で叫んだ。
「私がエドワード殿下とお付き合いしているのが気に喰わないからって、そんな嘘を言うなんて」
「どうした、クリスティン!」
騒ぎを聞きつけたのか、エドワード王子がやってきた。涙目のクリスティンを見て、彼はラウルをキッと睨む。
「ラウルが、私がお金を借りたっていうの。そんなことしていないのに」
「貴様、クリスティンから金を騙し取ろうというのか!?」
「違います!ちゃんと借用書だって」
「どうせ偽物だろ。それともクリスティンを脅して書かせたのか?嘘まで吐いて金を巻き上げようとは、見下げ果てた奴だ。二度とクリスティンに近づくな!」
ドンっとラウルを突き飛ばし、エドワードは泣くクリスティンの肩を抱いて去っていった。
ラウルは呆然と立ち尽くした。ショックで頭の中はぐちゃぐちゃだ。
辛いのは失恋したからじゃない。
クリスティンがエドワードに本気で恋をしたのなら、それは構わない。
彼の気を引くためにあの懐中時計が欲しかったのなら、そう言ってくれれば良かったのだ。
クリスティンが望むなら、なんだってしてあげたのに。
だけど彼女は最悪の方法でラウルを傷つけた。
初恋の相手が、罪もない相手を騙し貶めるような人間だったということ。その事実が酷くラウルを苦しめた。
ラウルが婚約者へそう告げると、彼女は呆然とした表情になった。
「君と閨を共にする気はない。跡継ぎは親類から養子を迎える。君は愛人でもなんでも好きに作るといい。但し、子が出来てもアシュバートン家の籍には入れないからそのつもりで」
「なっ……何よ、それ……。貴方、どこまで私を馬鹿にする気なの!?」
怒りだした彼女に全く臆することなく、ラウルは続ける。
「分かっていないようだから、ハッキリ言おう。貴族令嬢として君の価値はゼロどころかマイナスだ。その証拠に、縁談の申し込みは全て断られたのだろう?そんな女を貰ってやるんだから、感謝して欲しいくらいだよ」
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自分にとって得であるか、損であるか。それだけだ。
「平素から損得勘定を以って物事を見る目を養うのだ。それが商人にとって最も必要な事だからな」
アシュバートン商会長である父の教えだ。
ラウルは小さな商会だったアシュバートンを大商会へと躍進させた父を尊敬しており、その言葉を金言として胸に刻んでいる。
「賭場?そんな所へ行って俺に何の利があるんだ」
品行方正なラウルを「ちょっと遊ぶくらい、良いだろ」と悪い遊びに引き込もうとした相手にそう言い放つ。
「その指輪はチリアの宝石だね。最近は品質が悪化して値が下がっている。自分の価値を下げたくなければ、社交場に着けていくのは止めた方がいい」
見合いの場で要らない事を口にして、相手を怒らせてしまう。当然のことながら縁談の話は無くなった。
ラウルの見目は悪くないし、アシュバートン子爵家は裕福だ。人前では社交的に振る舞う甲斐性もある。
しかしある程度馴染んでくると表面化するこの性格が災いして、親しい人間は極端に少ない。友人と言えるのは同級生数人だ。
しかし二学年に上がってから、彼はこの損得という概念を根本から覆される経験をした。
クリスティン・ノーランド伯爵令嬢と出会ったのである。
光そのものを纏っているかのように美しい金色の髪。青い瞳は澄んだ湖のように美しく、薔薇色の唇から零れる澄んだ声は聴く者を魅了する。
クリスティンの美しさは学園中の誰もが認めるところであり、いつだって彼女は令息たちに囲まれていた。
それなのに彼女は下位貴族であるラウルにも気さくに接する。親しくなってみれば、表情豊かなごく普通の女の子だ。
高嶺の花と思っていた女性の、飾らない笑顔。そのギャップに、ラウルはすっかり魅了されてしまったのである。
「ラウル!この宿題で分からない所があるの。一緒にやらない?」
「中央劇場で新作の『アデラとヴァジル』が公開されるんですって。アシュバートン商会のボックス席を使わせて貰えないかしら?」
クリスティンの頼みなら、とラウルは何でも聞いた。彼女が喜んでくれるなら、少々の手間くらいどうってことない。
「ノーランド伯爵令嬢は、高位貴族の令息ばかり侍らせてる女狐だって噂だ。距離を取った方がいい」と見兼ねた友人が窘めたが。
「そんなのはデマだ。噂が本当なら、彼女は子爵家の俺と親しくしないだろう」
「お前はいいように使われてるだけだって分からないのか?」
「彼女はそんな人じゃない。いいんだ、俺がやりたくてやってるだけなんだから」
「どうしちゃったんだよ、お前……。利益の無い行動はしないって、いつも言っていたじゃないか」
友人の言葉は、ラウルの耳を素通りしていった。
クリスティンにはたくさんの求婚者がいるのに、何故婚約者を決めないのかと尋ねたことがある。
「私は自分の力を試してみたいの。私自身で何かを成し遂げたい。だから、まだ結婚する気にならないの」
自信にあふれた彼女の瞳は引き込まれそうなくらい美しかった。
そんなクリスティンが、男を侍らせて喜んでいるわけはない。魅力的な女性だから、勝手に男が寄ってくるだけだろうと思っていた。
「お前あてに釣り書きが届いている。まだ次の見合いをする気にならないのか?」
最近、父が度々縁談を勧めてくるようになった。
いずれは家にとって利の有る相手と結婚しなければならないのは分かっている。
遅くなればなるほど、良い相手は売れてしまう。早く決めなければならないのに、ラウルにはどうしてもその気になれなかった。
クリスティンは無理だ。ノーランド伯爵は王家の傍系でもある由緒正しい貴族。しかも高位貴族から数多の求婚を受けている彼女が、ラウルを選ぶわけはない。
それが分かっていても、今は他の女性の事なんて考えられなかった。
この理不尽で不条理で、そして甘美な感情。これが恋というものなのだ。
「わあ、素敵!」
その週末、ラウルはクリスティンを実家の商会へ連れて行った。
アシュバートン商会は各国に輸入ルートを持ち、国内には無い品を扱うことで人気を得ている。ちょうどトアルース公国からの輸入品が届いたところで、売り出す前に見せて欲しいとクリスティンに頼まれたのだ。
店の奥には取り寄せた品々が並んでいた。トアルースは美術に造詣の深い国で、美しい装飾が売りの品が多い。
特殊な織り模様を組み込んだ絹織物、豪奢な装飾を施した鏡台やチェスト――。
「これ、懐中時計?綺麗ね」
「ああ。画家ティツィアーノに頼んで、彫刻を施して貰ったんだ」
「ティツィアーノ!」
クリスティンが目を輝かせる。ティツィアーノは世界的に有名な画家で、この国にもファンが多い。
「ねえ。私、これ買うわ。父の誕生日プレゼントにしたいの」
「うーん……俺の父の許可を貰えば売るのは構わないけれど。かなり値が張るよ」
有名画家が直に手掛けたものだ、令嬢とはいえ気軽に買える値段ではない。
「手持ちが足りないわ。金貨三十枚しか持ってきていないの……」
おねだりするような表情で見上げてくるクリスティン。何とかしてあげたいが、値引きは父から禁止されている。
誰かを特別扱いしてしまえば、不公平だからだ。どこからかその噂が漏れれば「自分も」と言い出す輩が必ず出てくる。
お得意様や商品の宣伝を請け負っている女優に対しては、年間契約を結んだ上で値引きしているが、それは商会にとってメリットのある相手だからだ。
「じゃあ、不足分は俺が立て替えるよ。後で返してもらえればいいから」
「本当?ラウル、ありがとう!」
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サインを求めるとクリスティンは「友達なのに信用してくれないの……?」と渋る。彼女の哀しそうな表情に胸が痛んだが、そこだけは商人として譲れないと説得した。
その数週間後、ノーランド伯爵令嬢とエドワード王太子殿下が恋仲になったという噂が流れた。
どうせまたデマだろうと、ラウルは思っていた。
しかし昼休みに中庭で見た光景に、嫌でも信じざるを得なかった。
クリスティンとエドワードが、噴水のほとりで親し気に話している。その距離の近さが、二人の関係を物語っていた。
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エドワード王太子は金髪碧眼の端正な顔立ちに王族らしい気品の持ち主であり、令嬢にとても人気がある。
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しかしある日、ラウルは聞き捨てならない会話を耳にした。
「この懐中時計、何度眺めても飽きないな。流石はティツィアーノ、素晴らしい装飾だ」
「ふふ。殿下に贈ろうと、特別に取り寄せましたのよ」
「俺の為にそこまで……嬉しいよ、クリスティン」
エドワードの胸元に光る懐中時計は、間違いなくクリスティンがあの日購入したものだった。
「クリスティン!」
「あら、ラウル。何かしら?」
「あの懐中時計のこと、だけど。エドワード殿下が持ってたよね。御父上への誕生日プレゼントじゃなかったのか?」
「あ、ええ。よく考えたら、父よりもっと若い人が持っていた方が似合うかと思ったの」
嘘だということは、すぐに分かった。
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「……分かった。それと、立て替えたお金はなるべく早く返してくれると有難い。俺もすっからかんになっちゃったから」
「何を言っているの?貴方、あの時計を割引してくれたじゃない」
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「酷いわ!!」と突然、クリスティンが大声で叫んだ。
「私がエドワード殿下とお付き合いしているのが気に喰わないからって、そんな嘘を言うなんて」
「どうした、クリスティン!」
騒ぎを聞きつけたのか、エドワード王子がやってきた。涙目のクリスティンを見て、彼はラウルをキッと睨む。
「ラウルが、私がお金を借りたっていうの。そんなことしていないのに」
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「違います!ちゃんと借用書だって」
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