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2. 君を愛することは無い
「聞いたか、ラウル!エドワード殿下が廃嫡されたらしいぞ」
学院中がその噂でもちきりだった。
エドワード王太子が突然オトゥール侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡し、クリスティンと結婚すると宣言したらしい。
王命を勝手に破った息子に激怒した国王陛下は、エドワードを廃嫡し第二王子を跡継ぎにと決定した。
クリスティンも厳しい取り調べを受けたが、彼女が婚約破棄を唆したのではないとの結論になり、放免となったそうだ。
「ふうん」
「はは。気にもならないか」
友人は笑ってラウルの肩をぽんと叩いた。
本当に、全くもって興味が湧かない。
今のラウルは学院に通いながら父の仕事を手伝い、経験を積んでいる所だ。次の取引の準備、新しい事業の立案にコーデリアとの結婚式の準備もある。そんなことに思考を割く暇はないのだ。
「婚約を白紙……!?」
卒業も近づいたある日、コーデリアから突然に「婚約を解消したい」との手紙が来た。
訳が分からなかった。父にも問い詰められたが、怒らせたり仲違いするようなことをした覚えはない。
すぐにバークリー男爵邸へと訪れたが彼女に会うことは出来ず、男爵に「娘の事は諦めて欲しい」と言われ追い出された。
「実は先月、ノーランド伯爵令嬢から縁談の申し込みがあった。ラウルには既に婚約者がいると断ったのだが」
「は?クリスティンが、ですか?父上、何故それを教えてくれなかったのですか」
「お前とコーデリア嬢の仲は順調と聞いていたからな。今さらあの女の事など耳に入れる必要はないと判断した」
国王陛下はクリスティンの処分をノーランド伯爵家に任せると通告した。
ノーランド伯爵夫妻は領地の一部返上と隠居を決め、長男ハインツに爵位を譲って領地へ隠遁した。
しかし肝心のクリスティンは学院の退学及び自宅での謹慎処分のみ。
甘すぎる。
陛下が処分を伯爵に任せたのは、長年忠節を尽くした臣下への最後の温情だろう。ここでクリスティンを切り捨てれば、爵位だけは何とか保てただろうに。
もはやノーランド伯爵家に関わっても益はないのだ。即座に切り捨てたアシュバートン子爵の判断は間違っていない。
「では、クリスティンが」
「ノーランド伯爵かもしれん。確証はないが、タイミングが良すぎる」
父は伯爵の仕業と考えているようだが、ラウルはクリスティンだと確信していた。
彼女がコーデリアに何かをしたのだ。
「ラウル!久しぶりね」
顔合わせの場に現れたクリスティンは相変わらず美しかった。豪奢なドレスで着飾っている様は、とても謹慎中とは思えない。
「まさか君から婚約が申し込まれるとは思わなかった」
「あの時のこと、怒っているわよね?父に、あの懐中時計を使って王太子殿下の気を引けばいいって言われたの。本当にごめんなさい」
「じゃあ、その後悪評を広げたのは?」
「それはエドワード殿下なの!私も止めたけれど、逆らうことは出来なくて……ね、許して?」
白々しい嘘だ。嘘をついてラウルを貶めたのは、彼女自身なのに。
「私にはもうラウルしかいないの」と潤んだ瞳で見つめながら、クリスティンはラウルの手を握る。
以前のラウルなら、嘘だと分かっていても喜んで騙されただろう。
握られた手に胸を高鳴らせて、顔を赤くしただろう。
しかし今は何も感じない。彼女への恋は、もう終わったのだから。
そしてラウルは、初恋の女性へと告げた。
「婚約はしてやるよ。だけどこの先、俺が君を愛することは決して無い」
学院中がその噂でもちきりだった。
エドワード王太子が突然オトゥール侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡し、クリスティンと結婚すると宣言したらしい。
王命を勝手に破った息子に激怒した国王陛下は、エドワードを廃嫡し第二王子を跡継ぎにと決定した。
クリスティンも厳しい取り調べを受けたが、彼女が婚約破棄を唆したのではないとの結論になり、放免となったそうだ。
「ふうん」
「はは。気にもならないか」
友人は笑ってラウルの肩をぽんと叩いた。
本当に、全くもって興味が湧かない。
今のラウルは学院に通いながら父の仕事を手伝い、経験を積んでいる所だ。次の取引の準備、新しい事業の立案にコーデリアとの結婚式の準備もある。そんなことに思考を割く暇はないのだ。
「婚約を白紙……!?」
卒業も近づいたある日、コーデリアから突然に「婚約を解消したい」との手紙が来た。
訳が分からなかった。父にも問い詰められたが、怒らせたり仲違いするようなことをした覚えはない。
すぐにバークリー男爵邸へと訪れたが彼女に会うことは出来ず、男爵に「娘の事は諦めて欲しい」と言われ追い出された。
「実は先月、ノーランド伯爵令嬢から縁談の申し込みがあった。ラウルには既に婚約者がいると断ったのだが」
「は?クリスティンが、ですか?父上、何故それを教えてくれなかったのですか」
「お前とコーデリア嬢の仲は順調と聞いていたからな。今さらあの女の事など耳に入れる必要はないと判断した」
国王陛下はクリスティンの処分をノーランド伯爵家に任せると通告した。
ノーランド伯爵夫妻は領地の一部返上と隠居を決め、長男ハインツに爵位を譲って領地へ隠遁した。
しかし肝心のクリスティンは学院の退学及び自宅での謹慎処分のみ。
甘すぎる。
陛下が処分を伯爵に任せたのは、長年忠節を尽くした臣下への最後の温情だろう。ここでクリスティンを切り捨てれば、爵位だけは何とか保てただろうに。
もはやノーランド伯爵家に関わっても益はないのだ。即座に切り捨てたアシュバートン子爵の判断は間違っていない。
「では、クリスティンが」
「ノーランド伯爵かもしれん。確証はないが、タイミングが良すぎる」
父は伯爵の仕業と考えているようだが、ラウルはクリスティンだと確信していた。
彼女がコーデリアに何かをしたのだ。
「ラウル!久しぶりね」
顔合わせの場に現れたクリスティンは相変わらず美しかった。豪奢なドレスで着飾っている様は、とても謹慎中とは思えない。
「まさか君から婚約が申し込まれるとは思わなかった」
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「じゃあ、その後悪評を広げたのは?」
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白々しい嘘だ。嘘をついてラウルを貶めたのは、彼女自身なのに。
「私にはもうラウルしかいないの」と潤んだ瞳で見つめながら、クリスティンはラウルの手を握る。
以前のラウルなら、嘘だと分かっていても喜んで騙されただろう。
握られた手に胸を高鳴らせて、顔を赤くしただろう。
しかし今は何も感じない。彼女への恋は、もう終わったのだから。
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