すれ違う恋の行方〈大学編〉

秋 夕紀

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第6章 梅枝七海(18歳)=立松千宙(18歳)

§2もどかしい関係

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 七海は寮の先輩に誘われ、千里大とのインカレサークルに入っていた。イベントの企画開催を名目に、コンパや合宿での交流が主な活動だった。いわば女子大生にとっては出会いの場で、七海は乗り気ではなかったが、付き合いで籍を置いていた。連休明けの日曜日、新入生歓迎のバーベキューが開かれ、20名余りが集った。聖海女子大からは寮の学生がほとんどで、七海も仕方なく参加していた。
 千宙君が通っているのも千里大で、私はもしやと思って見回したが期待は外れた。まさかそんな都合の良い事がある訳がないと思い直し、バーベキューを楽しむ事にした。先週は千宙君とようやく会えたのに、肝心な事は話せなかった。今、彼に彼女がいなければ、もう一度付き合いたいと思っていたのに言い出せなかった。また会う約束はしたものの、いつ会えるのかも分からずもどかしかった。

 七海が千宙に思いをせている所へ、一人の男子学生が話し掛けてきた。
「僕は情報学部3年の黄川田きかわだと言います。さっきから考え事をしているようで、気になっていました。こういうの、あまり楽しくはないですか?」
「ごめんなさい!楽しんでます。わたしは文学部で、梅枝七海です。」
 七海に声を掛けてきたのは黄川田はじめで、文学の話で意気投合したものの連絡先を交換する訳でもなく、それ以上の関係にはならなかった。

 千宙とはメールでやり取りをしていたが、きっかけがつかめず進展しなかった。大学とバイトに忙しい彼に、七海は会いたい気持ちを中々伝えられなかった。また、通っている大学も同じ東京とはいえ、都心と多摩地区とでは離れ過ぎていた。
 6月も中旬を過ぎた頃、千宙から「四谷のキャンパスに行くので会わないか」と電話があった。この日はバイトもないので、ゆっくりと話をしたいという事だった。七海は大学の友だちと約束があったが、彼の誘いを優先した。
「突然呼び出したりして、ごめん。何か用事があったんじゃない?」
「全然気にしないで!やっと会えてうれしい!忙しそうだね。」
 私は会いたかった事を率直に告げたが、彼は冷静だった。
「2年生になったら四谷に来るんだけど、実家からは通えないから部屋を借りようと思ってるんだ。だから、そのための資金稼ぎで、バイトが忙しくてさ。」
「そうなんだ。千宙君は偉いね!わたしなんか、親のすねをかじってばかりだから。」
「でも、七海は聖女(聖海女子大)だろ?入るのに難しいし、7割は付属からでお嬢様が多いんでしょ!付き合いも大変なんじゃないの?」
 聖女の内部事情にやけに詳しい彼に、いじわるな質問をしてみた。
「よく知ってるわね?私以外に、誰か知ってる子がいるの?付き合ってる子とか?」
「い、いや、前に、ちょっと、聞いたことがあって…。」
 私は「何かあるな」と女の直感が働いたが、それ以上は追及しなかった。
「うちの大学は千里大とインカレがあって、わたしも入ったんだ。」
「インカレって?ナンパ専門のサークルもあるけど、大丈夫なの?」
「うーん、何か怪しいけど大丈夫だよ!寮の先輩に勧誘されて、仕方なくだよ。」
 彼は相変わらずの心配症で、黄川田さんと親しくなった事は伏せておいた。
「七海は今、付き合っている人はいるの?」と突然訊かれ、
「いないけど、千宙君はどうなの?」と訊き返した。
「今はいないよ!でも、正直に言うと、高校の時に交際した事はあるよ。」
「正直な所は、中学の時と変わらないね!安心した。それは思春期だもん、あって当たり前だわ。わたしだって、何人かいたわよ!」
 私は対抗意識を燃やして、言わなくても良い事まで口にしていた。
「文芸部だったんだけど、1年生の時の部長でしょ。それから中学の時の同級生だった男子で、告白されたけど断った。千宙君はどんなだった?」
「七海こそ正直だな!おれも部活の後輩から告られて、ちょっとだけ付き合った。」

 二人はそれぞれの交際の経緯を暴露ばくろし合ったが、七海は大学生の紺野来人とのファーストキスを、千宙は夏目和葉との初めての経験を語る事はしなかった。

 二人はカフェを出て、イタリアンの店に入った。食事をしながら、七海は落ち着かなかった。空白の4年間はお互いにどうであっても、今一緒にこうしている事が嬉しく、もう一度千宙と付き合いたい思いにかき立てられていた。
「千宙君!約束はもう無効なの?」と私は思い切って訊いてみた。
「約束?えーと、それって4年前の手紙のこと?実は中々言い出せなかったんだけど、俺にその資格があるのかな?」
「資格って、どういう意味なの?今までの恋愛のことを言ってるの?それだったらお互い様だし、今どうかが問題で、彼氏彼女がいなくてまだ好きならば…。」
 そこまで言って、私は彼の様子をうかがった。
「七海の事は、ずっと心から離れなかった。ほかの子と付き合っても、気持ちの奥にしまった七海がきっと姿を現すんだよ!それって、まだ好きなんだなと思う。」
「うれしいよ、千宙君!涙が出そうだよ!わたしも同じだよ!男の子と遊んでも、千宙君だったらどうだろうとか、千宙君とこうしたい、ああしたいといつも思ってた。だから、わたしの恋愛は入り口で止まっていたの。今でもずっと好きだよ!」

 二人はお互いの気持ちを吐露とろし合い、付き合う事になった。七海の寮の門限の10時まで、手をつないで歩きながら語り合った。
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