19 / 41
第8章 梅枝七海(19歳)=黄川田肇(21歳)
§4物足りない男
しおりを挟む
七海と黄川田はそれから何度か会い、映画を観たり食事をしたりとデートを重ねた。七海にとっての彼は落ち着く場所であり、自分を包み込んでくれる存在だった。ただ、恋人として考えると、物足りなさを感じていた。
一方、黄川田にとっての七海は一目ぼれした女性であり、初めてデートをする相手であった。彼は中高とゲームヲタクで、女子との交際経験はゼロだった。
「わたしの事を梅枝さんじゃなくて、七海と呼んでください。わたしも肇さんと呼びますから。」と言うと、彼は照れ臭そうに微笑んで、
「呼び付けは良くないよ!相手を尊重して、七海さんと呼ぶ事にするね。」と言った。
「良いですけど、いつかは七海と呼び付けにしてください。今日は、肇さんの恋愛経験を訊かせてほしいな。そしたら、わたしも話しますから。」
私は軽い気持ちで訊いたのに、彼は真剣な表情になって押し黙っていた。
「今まで好きになった子はいないんだ。周りの女子を見ていると、男に媚びを売るような子ばかりで、好きになれないんだよ。」と私は自分の事を言われたようで、
「ごめんなさい!わたしも失格だ!」と謝った。すると彼はあわてて、
「あっ、そうじゃなくて、梅…七海さんは違うよ!しっかりとした考えを持っているし、自分の信念に基づいた行動をしているよ。御両親の教育が行き届いている。」と言い繕っていた。まさか御両親の教育が出て来るとは思わなかった。
「わたしは人に流されやすくて軽率で、肇さんが思っているような良い子じゃありませんよ!両親に逆らったり、人を不快にさせたり、優柔不断なんです。」
落ち込んでいる私を見て、傷付けたと思い込んで弁解を始めた。
「さっきは体裁ぶった言い方をしたけど、本当はモテないだけなんだ。顔も体型も不細工だし、おまけに根暗だから、女の子を好きになっても向こうが嫌がるんだ。」
「そんなに卑下する事はないです。肇さんはやさしくて、思いやりがあります。わたしは嫌がってなんていないし、こうして話していると癒されるんです。」
私たちは反省会のような会話を交わし合い、お互いを理解しようと努めた。私は話をしながら、高校の先輩の赤西亮伍と中学の同級生の白石冬馬の二人を思い出していた。目の前にいる肇さんは、赤西先輩の知的な言動と冬馬君の包容力を兼ね備えている男性だと思った。しかし、先輩のような下心は見えず、冬馬君のような熱烈なラブコールをするタイプではないと感じていた。
3月になって七海の両親が上京し、一緒に食事をしようと赤坂のホテルのロビーで待ち合わせた。そこには両親だけでなく、もう一組の家族が同席していた。
「パパの大学時代の友人の大田黒夫妻と、御子息の駿君だ。駿君は正慶大で司法試験の勉強中だ。」と紹介された。久し振りに親子水入らずで、食事ができると思っていたのに気が乗らず、話しにも加わらず、黙々と出される料理を平らげていた。デザートが終わると両親は、私と駿さんを残して飲みに出掛けてしまった。
「退屈だったでしょ!親同士が親友でも、僕たちは関係ないものね。」
「意図的に仕組まれた気がするんですが、何か聞いてます?」と彼に訊いた。
「お見合いかな?古臭いやり方だけど、僕たちを引き合わせようとしたみたい!」
私はあきれてしまい、何の罪もない彼に食い下がっていた。
駿は七海を気に入ったらしく、否応なしに連絡先を聞き出して別れた。翌日七海は両親に怒りをぶつけたが一蹴され、父親の仙台への転勤を聞かされた。
一方、黄川田にとっての七海は一目ぼれした女性であり、初めてデートをする相手であった。彼は中高とゲームヲタクで、女子との交際経験はゼロだった。
「わたしの事を梅枝さんじゃなくて、七海と呼んでください。わたしも肇さんと呼びますから。」と言うと、彼は照れ臭そうに微笑んで、
「呼び付けは良くないよ!相手を尊重して、七海さんと呼ぶ事にするね。」と言った。
「良いですけど、いつかは七海と呼び付けにしてください。今日は、肇さんの恋愛経験を訊かせてほしいな。そしたら、わたしも話しますから。」
私は軽い気持ちで訊いたのに、彼は真剣な表情になって押し黙っていた。
「今まで好きになった子はいないんだ。周りの女子を見ていると、男に媚びを売るような子ばかりで、好きになれないんだよ。」と私は自分の事を言われたようで、
「ごめんなさい!わたしも失格だ!」と謝った。すると彼はあわてて、
「あっ、そうじゃなくて、梅…七海さんは違うよ!しっかりとした考えを持っているし、自分の信念に基づいた行動をしているよ。御両親の教育が行き届いている。」と言い繕っていた。まさか御両親の教育が出て来るとは思わなかった。
「わたしは人に流されやすくて軽率で、肇さんが思っているような良い子じゃありませんよ!両親に逆らったり、人を不快にさせたり、優柔不断なんです。」
落ち込んでいる私を見て、傷付けたと思い込んで弁解を始めた。
「さっきは体裁ぶった言い方をしたけど、本当はモテないだけなんだ。顔も体型も不細工だし、おまけに根暗だから、女の子を好きになっても向こうが嫌がるんだ。」
「そんなに卑下する事はないです。肇さんはやさしくて、思いやりがあります。わたしは嫌がってなんていないし、こうして話していると癒されるんです。」
私たちは反省会のような会話を交わし合い、お互いを理解しようと努めた。私は話をしながら、高校の先輩の赤西亮伍と中学の同級生の白石冬馬の二人を思い出していた。目の前にいる肇さんは、赤西先輩の知的な言動と冬馬君の包容力を兼ね備えている男性だと思った。しかし、先輩のような下心は見えず、冬馬君のような熱烈なラブコールをするタイプではないと感じていた。
3月になって七海の両親が上京し、一緒に食事をしようと赤坂のホテルのロビーで待ち合わせた。そこには両親だけでなく、もう一組の家族が同席していた。
「パパの大学時代の友人の大田黒夫妻と、御子息の駿君だ。駿君は正慶大で司法試験の勉強中だ。」と紹介された。久し振りに親子水入らずで、食事ができると思っていたのに気が乗らず、話しにも加わらず、黙々と出される料理を平らげていた。デザートが終わると両親は、私と駿さんを残して飲みに出掛けてしまった。
「退屈だったでしょ!親同士が親友でも、僕たちは関係ないものね。」
「意図的に仕組まれた気がするんですが、何か聞いてます?」と彼に訊いた。
「お見合いかな?古臭いやり方だけど、僕たちを引き合わせようとしたみたい!」
私はあきれてしまい、何の罪もない彼に食い下がっていた。
駿は七海を気に入ったらしく、否応なしに連絡先を聞き出して別れた。翌日七海は両親に怒りをぶつけたが一蹴され、父親の仙台への転勤を聞かされた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
清掃員と僕の密やかな情状
MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。
青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。
肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。
44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる