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24歳の櫻子の隠し言

4 大学を卒業して

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 私は看護大学を卒業して、総合病院の産婦人科に勤務して2年目になりました。研修医の政岡猶之なおゆきと交際を始めて半年になります。夜勤明けのある日、猶之さんから食事に誘われたのがきっかけでした。何度か会って話をするうちに、意気投合し距離が縮まりました。
「白石さんは、僕の事をどう思っていますか?僕と付き合って下さい。」と告白されたのは、病院の仮眠室でした。私もその気があったのでその場で承諾すると、彼がキスを求めてきました。
「政岡先生、ダメ!ここは病院だから、そんな事をして見つかったら大変な事になります。先生の気持は分かりましたから、仕事が終わったら待ってます。」とその場は冷静に対応して、正式に交際が始まりました。
 医師と看護士の勤務は不規則で、中々会う機会が持てませんでした。それでも、仕事の帰りや休日が合った時にはデートをしていました。二人とも住んでいる所は病院の近くで、次第にお互いの部屋を行き来するようになりました。部屋で食事を作って待っている私の元へ、消毒の臭いの残る猶之が帰って来て、抱き締められてキスをされるのが好きでした。
 付き合って半年になるこの日、いつものようにソファーにくつろいでキスをしていました。この日は二人でワインを飲んでいて、あまりお酒に強くない猶之はキスだけに留まらずに、私の胸を触ってきました。これまでも触られる事を拒みませんでしたが、この日は部屋着のトレーナーの中へ手を差し伸べ、下着の上から触られました。
「櫻子、愛してる!僕たち、次の段階に進んでも良いんじゃない?」
 彼はそう言いながら、下半身に手を伸ばし、太腿をでてきました。
「猶之さん、ごめんなさい!私も猶之さんの事を愛しているわ!いつか結ばれたいとずっと思っていたけど、まだできそうにないの。」
「できそうにないって、どういう事なの?できれば話してくれないかな?」
 私は5年前にレイプされてトラウマになっている事、自分の軽率な行動を悔いている事を話しました。そうしなければ先に進めないと思ったからです。
「そんな事があったなんて、知らなかった。僕こそ無理に聞き出して、ごめんね!医者の立場から言うと、そういう患者さんを診た事は何回かあるけど、身体のケアよりも心のケアが必要だと分かっている。櫻子が引きっている過去を、僕は共有していくから、時間を掛けてゆっくりと進んで行こう。無理はしなくていいからね。」と優しく抱き留め、背中をしきりにさすってくれました。
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