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第1章 梅枝七海(14歳)=立松千宙(14歳)
§19 別れの手紙
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静岡の金島中学校に転入した七海は、新しいクラスにすぐに馴染んだ。部活動は運動部で頑張る気持ちはなく、英語部に入る事にした。学校に慣れてすぐ、新しい学校の様子や静岡での生活について、千宙に手紙をしたためた。もちろん、彼への熱い思いも書いていた。返事はしばらくして来たが、素気ないものだった。
やっと手紙の返事が来た。相変わらず、サッカーに一生懸命のようだ。3年生で責任もあるらしいが、彼にはのめり込むものがあってうらやましい。それでも、私の熱い気持ちに対して、『忘れないよ』と一言だけ書かれていた。男の子の手紙としては、こんなものかと納得していた。
それから2通目、3通目と手紙を出したが、一向に返事がなかった。七海は変だなと思い、思い切って電話をする事にした。1回目、2回目は留守でつながらず、3回目でようやく話ができた。
「千宙君、元気でいた?手紙の返事をくれないから、どうしたのか心配になって。」
「七海は元気そうだね。手紙のことは謝るけど、七海、俺に何か隠し事はない?」
私は少し考えたが、思い当たる事は浮かばなかった。
「隠し事って何?何のことか、分からないよ!」
「百瀬先輩のことだけど…。」と言われ、忘れかけていた事を思い出した。
「お正月、百瀬先輩と初詣に行ったよね。その時、何かあったんじゃないの?」
「えー?そのこと?忘れてたよ。それに、何もないよ!」と次の言葉を待った。
「陸上部の友だちから聞いたんだけど、先輩がその時に七海とキスしたと振れ回っていたって。俺はそんなことないと否定したんだけど、何かしっくりと来ないんだよ。俺の家にお守りを持って来てくれた、あの日だよね!」
「うん。先輩と初詣に行ったのは本当!でも、キスなんかしてないし、絶対させないよ!ひどい、そんな噂を流すなんて。あの日は千宙君に会いたくなって行ったんだけど、余計な心配をさせたくなくて言い出せなかったの。ごめんなさい!」
私は声を詰まらせて弁解したが、彼は得心していないようだった。
「七海を信じたいけど、俺は心が小さいから、七海のことがよく分からない。」
彼との電話は、そこまでだった。私は悩んだ末に、言い訳になると知りながら、もう一度手紙を書いた。しかし、返事は来ないまま夏休みが近付いていた。
私が隠し事をしたせいで、また彼を傷付けてしまった。その結果、私も傷付いてしまった。彼と遠く離れたのは、距離だけでなく気持ちもそうだ。会って話をすれば分かり合える事も、お互いの声だけではどうにもならない事もある。
夏休み前になって、ようやく千宙からの手紙が届いた。七海は嫌な予感がして、封を開けるのをためらっていた。
『七海へ
返事が遅くなりました。ずっと七海からの手紙を読む気がしなくて、そのままにしていました。七海の手紙で、自分の誤解だと分かりました。誤解というか、君を信じていなかった自分が嫌になりました。会う事ができないないと自分勝手に想像して、考えが悪い方にばかり行きます。遠く離れた人を思い続けるのは、俺には無理だと思います。これから先、君にも好きな人ができるだろうし、俺も分からないし。七海のことを今でも好きなのは変わらないから、好きなままでいたい。お互いに傷付いて別れるくらいなら、今は距離を置こうと思います。それで、未来にまた会えて、まだ好きだったならやり直したい。それまでに、俺は体も心も大きい男になろうと思う。勝手な言い分だけど、どうだろうか。だから、夏休みに会う約束は、白紙にしよう。約束を破って、ごめん。お互いに高校受験頑張ろう。
千宙より』
七海は手紙を読み終わり、幼い恋に終止符を打つ覚悟を決めた。そう決めても、涙は次から次へとあふれ出て、一晩泣き明かした。翌日は目を腫らして学校に行ったが、母親は異変に気付き思いやってくれた。
まだ好きなのに、別れなければならない。彼の手紙は稚拙だが、私への気持ちがいっぱい込められていた。こんな結末を作ってしまったのは私で、彼の言う通りかもしれない。遠距離でも何とかなる、という思いは浅はかだった。
「まだ好きだったなら」という言葉を信じて、私は彼に最後の手紙をつづった。大学は親を説得して絶対に東京へ行くので、その時にお互いに彼氏、彼女がいなくて、好きだったなら会ってほしい。それまでは、別に我慢する必要はないので、好きな人ができたなら仕方がないと思う。再会できる事を楽しみにいている、という内容の手紙を送った。
中学生の千宙と七海の純愛は、それ以上に発展する事なく終わった。
東京と静岡での別々の高校生活が始まり、お互いを思う気持ちを、心の奥底に封じ込めたまま3年間を過ごす。様々な誘惑に惑わされ、異性との関係に悩みながら大人へと成長していく。
『すれ違う恋の行方〈高校編〉』へ続く。近日公開。
やっと手紙の返事が来た。相変わらず、サッカーに一生懸命のようだ。3年生で責任もあるらしいが、彼にはのめり込むものがあってうらやましい。それでも、私の熱い気持ちに対して、『忘れないよ』と一言だけ書かれていた。男の子の手紙としては、こんなものかと納得していた。
それから2通目、3通目と手紙を出したが、一向に返事がなかった。七海は変だなと思い、思い切って電話をする事にした。1回目、2回目は留守でつながらず、3回目でようやく話ができた。
「千宙君、元気でいた?手紙の返事をくれないから、どうしたのか心配になって。」
「七海は元気そうだね。手紙のことは謝るけど、七海、俺に何か隠し事はない?」
私は少し考えたが、思い当たる事は浮かばなかった。
「隠し事って何?何のことか、分からないよ!」
「百瀬先輩のことだけど…。」と言われ、忘れかけていた事を思い出した。
「お正月、百瀬先輩と初詣に行ったよね。その時、何かあったんじゃないの?」
「えー?そのこと?忘れてたよ。それに、何もないよ!」と次の言葉を待った。
「陸上部の友だちから聞いたんだけど、先輩がその時に七海とキスしたと振れ回っていたって。俺はそんなことないと否定したんだけど、何かしっくりと来ないんだよ。俺の家にお守りを持って来てくれた、あの日だよね!」
「うん。先輩と初詣に行ったのは本当!でも、キスなんかしてないし、絶対させないよ!ひどい、そんな噂を流すなんて。あの日は千宙君に会いたくなって行ったんだけど、余計な心配をさせたくなくて言い出せなかったの。ごめんなさい!」
私は声を詰まらせて弁解したが、彼は得心していないようだった。
「七海を信じたいけど、俺は心が小さいから、七海のことがよく分からない。」
彼との電話は、そこまでだった。私は悩んだ末に、言い訳になると知りながら、もう一度手紙を書いた。しかし、返事は来ないまま夏休みが近付いていた。
私が隠し事をしたせいで、また彼を傷付けてしまった。その結果、私も傷付いてしまった。彼と遠く離れたのは、距離だけでなく気持ちもそうだ。会って話をすれば分かり合える事も、お互いの声だけではどうにもならない事もある。
夏休み前になって、ようやく千宙からの手紙が届いた。七海は嫌な予感がして、封を開けるのをためらっていた。
『七海へ
返事が遅くなりました。ずっと七海からの手紙を読む気がしなくて、そのままにしていました。七海の手紙で、自分の誤解だと分かりました。誤解というか、君を信じていなかった自分が嫌になりました。会う事ができないないと自分勝手に想像して、考えが悪い方にばかり行きます。遠く離れた人を思い続けるのは、俺には無理だと思います。これから先、君にも好きな人ができるだろうし、俺も分からないし。七海のことを今でも好きなのは変わらないから、好きなままでいたい。お互いに傷付いて別れるくらいなら、今は距離を置こうと思います。それで、未来にまた会えて、まだ好きだったならやり直したい。それまでに、俺は体も心も大きい男になろうと思う。勝手な言い分だけど、どうだろうか。だから、夏休みに会う約束は、白紙にしよう。約束を破って、ごめん。お互いに高校受験頑張ろう。
千宙より』
七海は手紙を読み終わり、幼い恋に終止符を打つ覚悟を決めた。そう決めても、涙は次から次へとあふれ出て、一晩泣き明かした。翌日は目を腫らして学校に行ったが、母親は異変に気付き思いやってくれた。
まだ好きなのに、別れなければならない。彼の手紙は稚拙だが、私への気持ちがいっぱい込められていた。こんな結末を作ってしまったのは私で、彼の言う通りかもしれない。遠距離でも何とかなる、という思いは浅はかだった。
「まだ好きだったなら」という言葉を信じて、私は彼に最後の手紙をつづった。大学は親を説得して絶対に東京へ行くので、その時にお互いに彼氏、彼女がいなくて、好きだったなら会ってほしい。それまでは、別に我慢する必要はないので、好きな人ができたなら仕方がないと思う。再会できる事を楽しみにいている、という内容の手紙を送った。
中学生の千宙と七海の純愛は、それ以上に発展する事なく終わった。
東京と静岡での別々の高校生活が始まり、お互いを思う気持ちを、心の奥底に封じ込めたまま3年間を過ごす。様々な誘惑に惑わされ、異性との関係に悩みながら大人へと成長していく。
『すれ違う恋の行方〈高校編〉』へ続く。近日公開。
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