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6.Coming of Age Love Song ②
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郡司が見覚えのある男を伴って浩也のところにやってきたのは、成人式から遡ること数日前のことだった。
「よお、久しぶり。いま、郡司から聞いたんだけれど、お前、成人式参加しないんだって?」
お前呼ばわりされるほど親しい仲ではなかったはずだが、と心の中で思いながら浩也は頷いた。
相手は、同じ高校出身の島本だった。
(なんでかつての恋敵を連れて俺の家にやってくる?)
浩也は目で郡司に問いかけたが、郡司にはテレパシーは通じていないようだ。
「偶然街で声かけられてさ、浩也とのこととか話したら、会いたいって言うから連れて来た。」
『浩也のこと』ではなく、『浩也とのこと』という郡司の言い回しが気になった。
一体ナニを話したんだ、と問い詰めたかったが、実際には怖くて聞けなかった。
かつて郡司に惚れていた、ということ以外、浩也と島本の間に接点はない。
そんな島本が浩也に会いに来るといえば、郡司との仲を確認しにきたとか、何かしら腹に考えることがあってのことに違いない。
そもそも、偶然街で会うというところからして怪しいものだ。
「久しぶり。雰囲気、ちょっと変わったんじゃねえ?」
浩也はさりげなく挨拶をした。
「やあ。キミは全然変わらないな。」
島本が髪をかき上げながら、芝居がかった調子で受け答える。
(さっきはお前で今度はキミ?変なやつ。)
島本はちょっとどころか、かなり変わってしまったようだ。
少なくとも高校時代は、もっと一本気な印象で、こんな気障な雰囲気の男ではなかったはずだ。
「KO大学の医学部じゃ、もう女の子に騒がれちゃって大変さ。むさくるしい男子校の頃がなつかしいよ。」
島本は聞いてもいないことを、肩をすくめながら話し始めた。
「へー、そりゃ大変だな。」
「もっとも、ボクは勉強で忙しくて、女に現を抜かしている場合じゃないんだけれどね。」
「ほー、そりゃご苦労さん。」
浩也と島本の会話をよそに、郡司は玄関先で寝そべっている柴犬にちょっかいをかけ始める。
「ポチ、お手」
ワン!
「お代わり」
ワン!
「……ちんちん」
ワン!
(なぜその言葉だけ顔を赤らめて恥ずかしそうに言うのだ、郡司よ。だいたい意味が違うだろ。)
浩也の心中の突っ込みをよそに、ポチは何を言われても「ワン」としか反応しない。
それでも郡司はうれしそうにポチと遊んでいる。
「こういう田舎はほっとするよ。こうやって郡司に笑顔で見つめられると、心が安らぐっていうか。」
「はあ。」
郡司は確かに笑顔を浮かべてはいるが、それはあくまでも犬に対して向けられているものだ。
「3人で昔話に花を咲かせたいって思って、成人式一緒に行こうって誘いに来たんだけれど、行くつもりないなら仕方ないよな。」
「へー、そりゃ悪かったな。」
「そういうわけで、成人式は郡司と二人っきりで過ごす事にしたよ。」
「ほー、そうかい……なに?!」
「じゃあな。」
島本は口の片端だけ吊り上げてニヤリと笑った。
「用事、終わったの?」
郡司が顔を上げる。
「ああ、帰ろうぜ。」
「そう、じゃバイバイ。」
郡司が手を振ったのは、浩也ではなく島本に対してであった。
一瞬、島本がぽかんとする。
「俺、浩也の部屋でしばらく休んでいくから。」
心なし顔を赤らめながら、郡司は上目遣いに浩也を見つめた。
がっくりと肩を落とす島本の後姿を、一抹の同情心を持って見送ったが、それでも宣戦布告をしていった以上、島本がこのままで引き下がるとは思えず、浩也の胸に不安が過ぎった。
「お前、あいつには気をつけろよ。」
「え、どうして?」
浩也は小さくため息を吐いた。
「お前、さっきの俺たちの会話、全然聞いてなかっただろう。」
「うん。それより浩也の部屋に行こうよ。」
まあ、いい、と浩也は思い直した。
郡司だって子供ではない。
むしろ、その手の知識は浩也よりもよほど深く、初心に見えるのは外見だけなのだ。
いつも恥ずかしそうに頬を染めながら、恥ずかしいことを嬉々としてけしかけてくるのは郡司のほうで、突っ込まれてよがろうが、主導権を握っているのは郡司なのだ。
浩也はいわば、郡司に局所をがっちり握られ、下半身を操縦されているようなものだ。
郡司と付き合わなければ、自分もここまでスケベにはならなかっただろう、と思ったりもする。
「なに?どうかした?」
首をかしげて訊ねる郡司を浩也はじっと見詰める。
天然なのか、それとも巧みな計算なのか。
浩也は騙されているような気分になりながら、郡司の頬に唇を寄せた。
「よお、久しぶり。いま、郡司から聞いたんだけれど、お前、成人式参加しないんだって?」
お前呼ばわりされるほど親しい仲ではなかったはずだが、と心の中で思いながら浩也は頷いた。
相手は、同じ高校出身の島本だった。
(なんでかつての恋敵を連れて俺の家にやってくる?)
浩也は目で郡司に問いかけたが、郡司にはテレパシーは通じていないようだ。
「偶然街で声かけられてさ、浩也とのこととか話したら、会いたいって言うから連れて来た。」
『浩也のこと』ではなく、『浩也とのこと』という郡司の言い回しが気になった。
一体ナニを話したんだ、と問い詰めたかったが、実際には怖くて聞けなかった。
かつて郡司に惚れていた、ということ以外、浩也と島本の間に接点はない。
そんな島本が浩也に会いに来るといえば、郡司との仲を確認しにきたとか、何かしら腹に考えることがあってのことに違いない。
そもそも、偶然街で会うというところからして怪しいものだ。
「久しぶり。雰囲気、ちょっと変わったんじゃねえ?」
浩也はさりげなく挨拶をした。
「やあ。キミは全然変わらないな。」
島本が髪をかき上げながら、芝居がかった調子で受け答える。
(さっきはお前で今度はキミ?変なやつ。)
島本はちょっとどころか、かなり変わってしまったようだ。
少なくとも高校時代は、もっと一本気な印象で、こんな気障な雰囲気の男ではなかったはずだ。
「KO大学の医学部じゃ、もう女の子に騒がれちゃって大変さ。むさくるしい男子校の頃がなつかしいよ。」
島本は聞いてもいないことを、肩をすくめながら話し始めた。
「へー、そりゃ大変だな。」
「もっとも、ボクは勉強で忙しくて、女に現を抜かしている場合じゃないんだけれどね。」
「ほー、そりゃご苦労さん。」
浩也と島本の会話をよそに、郡司は玄関先で寝そべっている柴犬にちょっかいをかけ始める。
「ポチ、お手」
ワン!
「お代わり」
ワン!
「……ちんちん」
ワン!
(なぜその言葉だけ顔を赤らめて恥ずかしそうに言うのだ、郡司よ。だいたい意味が違うだろ。)
浩也の心中の突っ込みをよそに、ポチは何を言われても「ワン」としか反応しない。
それでも郡司はうれしそうにポチと遊んでいる。
「こういう田舎はほっとするよ。こうやって郡司に笑顔で見つめられると、心が安らぐっていうか。」
「はあ。」
郡司は確かに笑顔を浮かべてはいるが、それはあくまでも犬に対して向けられているものだ。
「3人で昔話に花を咲かせたいって思って、成人式一緒に行こうって誘いに来たんだけれど、行くつもりないなら仕方ないよな。」
「へー、そりゃ悪かったな。」
「そういうわけで、成人式は郡司と二人っきりで過ごす事にしたよ。」
「ほー、そうかい……なに?!」
「じゃあな。」
島本は口の片端だけ吊り上げてニヤリと笑った。
「用事、終わったの?」
郡司が顔を上げる。
「ああ、帰ろうぜ。」
「そう、じゃバイバイ。」
郡司が手を振ったのは、浩也ではなく島本に対してであった。
一瞬、島本がぽかんとする。
「俺、浩也の部屋でしばらく休んでいくから。」
心なし顔を赤らめながら、郡司は上目遣いに浩也を見つめた。
がっくりと肩を落とす島本の後姿を、一抹の同情心を持って見送ったが、それでも宣戦布告をしていった以上、島本がこのままで引き下がるとは思えず、浩也の胸に不安が過ぎった。
「お前、あいつには気をつけろよ。」
「え、どうして?」
浩也は小さくため息を吐いた。
「お前、さっきの俺たちの会話、全然聞いてなかっただろう。」
「うん。それより浩也の部屋に行こうよ。」
まあ、いい、と浩也は思い直した。
郡司だって子供ではない。
むしろ、その手の知識は浩也よりもよほど深く、初心に見えるのは外見だけなのだ。
いつも恥ずかしそうに頬を染めながら、恥ずかしいことを嬉々としてけしかけてくるのは郡司のほうで、突っ込まれてよがろうが、主導権を握っているのは郡司なのだ。
浩也はいわば、郡司に局所をがっちり握られ、下半身を操縦されているようなものだ。
郡司と付き合わなければ、自分もここまでスケベにはならなかっただろう、と思ったりもする。
「なに?どうかした?」
首をかしげて訊ねる郡司を浩也はじっと見詰める。
天然なのか、それとも巧みな計算なのか。
浩也は騙されているような気分になりながら、郡司の頬に唇を寄せた。
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