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絶望の島と奥手な騎士2
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ドナドナとソロモンの部屋に入る。なんだか俺にはよくわからない薬や薬草の瓶、それを煎じる器具なんかや、綺麗な結晶、古い本が壁一面に並んでいる。立ち止まることなく複雑に入り組んだ通路を抜けて、重々しい扉を開くと、ソロモンが俺を振り返った。
くいっとあごで中を示される。扉を押さえてくれるとか紳士かよ。んで、俺は淑女かよ。
突っ込みたかったけど、ぎろりと睨まれてすごすごと中に入る。
ギ、ギ、ギ、ばたん。音を立てて扉がしまった。金属のすれる音がして、ソロモンが扉に閂をかけてる。閂の閉まる音と同時に暗い部屋にぱっと灯りが灯る。どういう仕組みかはわからないが、ソロモンの魔力に反応して自動的に灯りがつくようになっているらしい。
鍵なんかかけられて、びびるべきかもしれない。けど、この部屋の前の持ち主だったソロモンの師匠がここを使っていた頃から、この部屋にはちょくちょく来ていた。秘密の通路とか知ってるし。もちろん、ソロモンもそのことを知っているから、閉じこめるというか、他のやつの邪魔されないように鍵をかけたんだろうな。まあ、さっきの剣幕じゃ、邪魔しようなんて命知らずはいないだろうけど。
ソロモンの師匠は成金趣味で部屋にびっしり美術品や鉱山で採れる財宝を飾っていたが、ソロモンはこの部屋を受け継いだ時に、そのほとんどを片付けてしまった。立派な寝台や、豪奢な椅子はそのままにしておいたが。
お気に入りの椅子に腰かけると、悠然と足を組んだソロモンがひじかけに頬杖をつく。
「で?」
そう聞かれてたじろぐ。
冴え冴えとした青い瞳が俺を見る。
いや、改めてって言われるとじわじわ緊張するんだけどな。
「ちゅうすればいいんだろう?」
「オレが満足するまで、が、抜けている」
「満足って……どれだけすりゃいいの」
「四の五の言わずに、さっさとしろ、トリスタン」
あ~なんなの、このムードのなさ。
いや、ムードなんか出してもしょうがないな。何度かしてるけど、情熱的なっていうよりは、男同士のおふざけって感じで。さっきみたいに歯が当たるのも珍しくなかったしな。そもそも、童貞同士のキスなんてそんなもんだろう。ぶっちゅ~ってすればいいよな。ぶっちゅ~って。
椅子の背もたれに手をついて、ソロモンに顔を近づける。
日焼けの跡がない陶器みたいな白い肌に、すらりとした鼻、薄くて形のいい唇はうっすら赤い。冴え冴えとした青石みたいな瞳がじっと俺を見ている。見ている、な。
「おい、目くらい閉じろよ」
「何故だ?」
「なんか恥ずかしいだろ」
「恥ずかしいか?」
「見られてると思うと、緊張するんだって」
「お前とオレの仲で何をいまさら」
「恥じらいは大事だろ」
「乙女か」
「童貞です!」
「面倒くさい奴だ」
ふーって息を吐くソロモンに、オレの前髪がはためく。
「い、息をかけるとか、反則だぞ!」
「嫌なのか」
ふうって息が今度は首にかかる。ぞくっとして首を押さえてぷるぷると震えた。
「顔が赤いぞ」
「ソロモンがいやらしい!」
「何をいまさら……」
「いいから、目を閉じろ!」
ソロモンを指さしてぶんぶんと振り回すと、ソロモンがため息をついた。
「処女は本当に面倒だ」
そう言いながらも、ソロモンは目を閉じる。
閉じたのはいいけど、やっぱり緊張するよな。
背もたれをつかむと、ソロモンの顔に顔を寄せる。黒くて長いまつ毛が白い肌の上で微かに震えていた。ほんと、美形だよな。こいつ。あの毒舌さえなければ、惚れる女も続出だろうに、もったいない。うつむき加減だからなのか、うまく唇の位置が合わない。
「まだか」
「ちょ、ちょっと待て」
いらだった声に、ん、んって首をひねる。なんか頭突きしそうだなこれ。うまく唇が合わない。
「ソロモン、顔ちょっとあげてくれ」
ソロモンが顔をあげた途端に唇がふにっと触れる。
「うわ」
びっくりした!いきなりしちゃったぞ。
のけぞった拍子に、おっとと後ろにバランスを崩した。背中がふかふかした布団に触れる。
「わ」
ぼよんと押しかえされる感触に声をあげた。
「おい、これでおしまいか」
「違う、違うけど……」
ぼよんぼよんとはねながら、複雑な天体の軌道が描かれた天蓋の模様を見る。
「全く……無能だな。トリス」
寝台の隣が揺れて、ソロモンが乗って来る。端正な顔には微笑みが乗っていた。その微笑みにぞっく~って悪い予感がする。思わず、寝台を上にずりあがった。
微笑んだままのソロモンが、外套のボタンを外すと背中で手をゆすって脱ぎ捨てた。
ゆったりとした黒いシャツの襟もとから白い喉と鎖骨が見える。
「今のような口づけでは、いつまで経っても満足などできない」
薄い唇の口角が持ち上がって、唇の間を薄く舌がなぞる。
なんかエロいんですけど! お父さんはソロモンをそんな子に育てた覚えはないですよ~~~。お父さんじゃないけど。
「わ、わ、まてまて」
倒れこんで来たソロモンの胸を支える。
「満足という点において、トリスの接吻では満足できないということが証明されたので、ここはオレが接吻しよう。ということなのだが」
「今の、本気じゃなかったから!」
「ふうん?」
首を傾げたソロモンが微笑んだまま、俺をじっと見る。両腕は俺の顔の横にあって、下半身はぴったりくっついている。何か間に熱があるような気がするんだけど、気のせいだよな。気のせい、ドンマイ。動かすな、絶対動かすなよ。どっちの熱なんだかわかんないのが、激しくまずい。
あ~めちゃくちゃ冷や汗が出て来る。たらたら汗の出ている俺を見て、ソロモンが意地悪な微笑みを浮かべた。
「やってみろ、トリス」
青い瞳が閉じられた。いや、そこで閉じられても。いや、やるしかない、やるっきゃない。
緊張に震える手を持ちあげて、そっとソロモンの頬を挟む。ドアップで近づいてくる超美形に心臓がばっくばくです。男同士なのに、なんでときめいちゃってるのか誰か教えて。
がち。
あっ。
俺もソロモンも出っ歯じゃないのに、なんでぶつかるんだ。
ぱちっとソロモンの目が開いた。青い瞳にゆっくりと微笑みが浮かぶ。
「目は閉じるんじゃなかったのか? トリス」
「ああう~」
少し離れた唇の先で、ソロモンが呟いた。あ~目を閉じたい。というか、寝具を突き抜けて穴に埋まりたい。だけど、蛇に睨まれたカエルってこうい状態かな。動けないよなこれ。
ちゅ。ふにっと何かが触れて、小さく吸った。
ちゅ、ちゅ、ちゅ。
あ、ソロモンが俺にちゅうしちゃってる。うわ、うわ。動揺して目をぎゅっと閉じてく歯を食いしばった。
「無粋な奴だな、目を開けろ」
いや、もう無理。俺、いっぱいいっぱいだから。つか、いつもはこれで終わりだったよな?
「も、もうしたからいいだろ?」
「オレは満足していない」
べろんと湿った温かいものが俺の唇を舐める。う、わ。なにそれ。びっくりして口を開くと、くちゅりと音をたてて舌が俺の口の中に入りこんだ。ぬるぬると舌が出たり入ったりして、いろんなところを舐めとっていく。いや、なんだこれ。めちゃくちゃ気持ちいいんだけど。どうにかしてソロモンの舌を押し出そうとしたら、逆に舌を絡められて気持ちよさにびくんびくん身体が跳ねる。
や、まずいでしょこれ。気持ちよすぎ。
くいっとあごで中を示される。扉を押さえてくれるとか紳士かよ。んで、俺は淑女かよ。
突っ込みたかったけど、ぎろりと睨まれてすごすごと中に入る。
ギ、ギ、ギ、ばたん。音を立てて扉がしまった。金属のすれる音がして、ソロモンが扉に閂をかけてる。閂の閉まる音と同時に暗い部屋にぱっと灯りが灯る。どういう仕組みかはわからないが、ソロモンの魔力に反応して自動的に灯りがつくようになっているらしい。
鍵なんかかけられて、びびるべきかもしれない。けど、この部屋の前の持ち主だったソロモンの師匠がここを使っていた頃から、この部屋にはちょくちょく来ていた。秘密の通路とか知ってるし。もちろん、ソロモンもそのことを知っているから、閉じこめるというか、他のやつの邪魔されないように鍵をかけたんだろうな。まあ、さっきの剣幕じゃ、邪魔しようなんて命知らずはいないだろうけど。
ソロモンの師匠は成金趣味で部屋にびっしり美術品や鉱山で採れる財宝を飾っていたが、ソロモンはこの部屋を受け継いだ時に、そのほとんどを片付けてしまった。立派な寝台や、豪奢な椅子はそのままにしておいたが。
お気に入りの椅子に腰かけると、悠然と足を組んだソロモンがひじかけに頬杖をつく。
「で?」
そう聞かれてたじろぐ。
冴え冴えとした青い瞳が俺を見る。
いや、改めてって言われるとじわじわ緊張するんだけどな。
「ちゅうすればいいんだろう?」
「オレが満足するまで、が、抜けている」
「満足って……どれだけすりゃいいの」
「四の五の言わずに、さっさとしろ、トリスタン」
あ~なんなの、このムードのなさ。
いや、ムードなんか出してもしょうがないな。何度かしてるけど、情熱的なっていうよりは、男同士のおふざけって感じで。さっきみたいに歯が当たるのも珍しくなかったしな。そもそも、童貞同士のキスなんてそんなもんだろう。ぶっちゅ~ってすればいいよな。ぶっちゅ~って。
椅子の背もたれに手をついて、ソロモンに顔を近づける。
日焼けの跡がない陶器みたいな白い肌に、すらりとした鼻、薄くて形のいい唇はうっすら赤い。冴え冴えとした青石みたいな瞳がじっと俺を見ている。見ている、な。
「おい、目くらい閉じろよ」
「何故だ?」
「なんか恥ずかしいだろ」
「恥ずかしいか?」
「見られてると思うと、緊張するんだって」
「お前とオレの仲で何をいまさら」
「恥じらいは大事だろ」
「乙女か」
「童貞です!」
「面倒くさい奴だ」
ふーって息を吐くソロモンに、オレの前髪がはためく。
「い、息をかけるとか、反則だぞ!」
「嫌なのか」
ふうって息が今度は首にかかる。ぞくっとして首を押さえてぷるぷると震えた。
「顔が赤いぞ」
「ソロモンがいやらしい!」
「何をいまさら……」
「いいから、目を閉じろ!」
ソロモンを指さしてぶんぶんと振り回すと、ソロモンがため息をついた。
「処女は本当に面倒だ」
そう言いながらも、ソロモンは目を閉じる。
閉じたのはいいけど、やっぱり緊張するよな。
背もたれをつかむと、ソロモンの顔に顔を寄せる。黒くて長いまつ毛が白い肌の上で微かに震えていた。ほんと、美形だよな。こいつ。あの毒舌さえなければ、惚れる女も続出だろうに、もったいない。うつむき加減だからなのか、うまく唇の位置が合わない。
「まだか」
「ちょ、ちょっと待て」
いらだった声に、ん、んって首をひねる。なんか頭突きしそうだなこれ。うまく唇が合わない。
「ソロモン、顔ちょっとあげてくれ」
ソロモンが顔をあげた途端に唇がふにっと触れる。
「うわ」
びっくりした!いきなりしちゃったぞ。
のけぞった拍子に、おっとと後ろにバランスを崩した。背中がふかふかした布団に触れる。
「わ」
ぼよんと押しかえされる感触に声をあげた。
「おい、これでおしまいか」
「違う、違うけど……」
ぼよんぼよんとはねながら、複雑な天体の軌道が描かれた天蓋の模様を見る。
「全く……無能だな。トリス」
寝台の隣が揺れて、ソロモンが乗って来る。端正な顔には微笑みが乗っていた。その微笑みにぞっく~って悪い予感がする。思わず、寝台を上にずりあがった。
微笑んだままのソロモンが、外套のボタンを外すと背中で手をゆすって脱ぎ捨てた。
ゆったりとした黒いシャツの襟もとから白い喉と鎖骨が見える。
「今のような口づけでは、いつまで経っても満足などできない」
薄い唇の口角が持ち上がって、唇の間を薄く舌がなぞる。
なんかエロいんですけど! お父さんはソロモンをそんな子に育てた覚えはないですよ~~~。お父さんじゃないけど。
「わ、わ、まてまて」
倒れこんで来たソロモンの胸を支える。
「満足という点において、トリスの接吻では満足できないということが証明されたので、ここはオレが接吻しよう。ということなのだが」
「今の、本気じゃなかったから!」
「ふうん?」
首を傾げたソロモンが微笑んだまま、俺をじっと見る。両腕は俺の顔の横にあって、下半身はぴったりくっついている。何か間に熱があるような気がするんだけど、気のせいだよな。気のせい、ドンマイ。動かすな、絶対動かすなよ。どっちの熱なんだかわかんないのが、激しくまずい。
あ~めちゃくちゃ冷や汗が出て来る。たらたら汗の出ている俺を見て、ソロモンが意地悪な微笑みを浮かべた。
「やってみろ、トリス」
青い瞳が閉じられた。いや、そこで閉じられても。いや、やるしかない、やるっきゃない。
緊張に震える手を持ちあげて、そっとソロモンの頬を挟む。ドアップで近づいてくる超美形に心臓がばっくばくです。男同士なのに、なんでときめいちゃってるのか誰か教えて。
がち。
あっ。
俺もソロモンも出っ歯じゃないのに、なんでぶつかるんだ。
ぱちっとソロモンの目が開いた。青い瞳にゆっくりと微笑みが浮かぶ。
「目は閉じるんじゃなかったのか? トリス」
「ああう~」
少し離れた唇の先で、ソロモンが呟いた。あ~目を閉じたい。というか、寝具を突き抜けて穴に埋まりたい。だけど、蛇に睨まれたカエルってこうい状態かな。動けないよなこれ。
ちゅ。ふにっと何かが触れて、小さく吸った。
ちゅ、ちゅ、ちゅ。
あ、ソロモンが俺にちゅうしちゃってる。うわ、うわ。動揺して目をぎゅっと閉じてく歯を食いしばった。
「無粋な奴だな、目を開けろ」
いや、もう無理。俺、いっぱいいっぱいだから。つか、いつもはこれで終わりだったよな?
「も、もうしたからいいだろ?」
「オレは満足していない」
べろんと湿った温かいものが俺の唇を舐める。う、わ。なにそれ。びっくりして口を開くと、くちゅりと音をたてて舌が俺の口の中に入りこんだ。ぬるぬると舌が出たり入ったりして、いろんなところを舐めとっていく。いや、なんだこれ。めちゃくちゃ気持ちいいんだけど。どうにかしてソロモンの舌を押し出そうとしたら、逆に舌を絡められて気持ちよさにびくんびくん身体が跳ねる。
や、まずいでしょこれ。気持ちよすぎ。
応援ありがとうございます!
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