エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし

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2.モブ、旅立ちを決意する

2-6.始まりの朝-2

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 菜園を抜けて建物に入り、オレは墓場引きずられるように炊事場の奥へと連れて行かれた。
 煮炊き用の炉の後ろへ回ると、地下へ降りる短い階段がある。半地下の狭い空間は、食料の貯蔵庫になっていた。マイアリーノはあまり整理されているようには見えない棚の奥を探り、小さな袋を取り出す。
「これ。必ず役に立つ」
 マイアリーノは掌に載るサイズのその袋を、オレの手に押しつけてくる。コンビニで売ってる袋入りグミくらいのサイズ感と重さだ。
「何これ? 中に何が入ってるの? お金?」
 袋を持ち上げて振ると、しゃらしゃらといい音がする。お金かな? でもコインにしては軽いんだよな。
「ルチアーノ様に渡して。アキオは見たらダメ。約束!」
 マイアリーノは袋を持ったオレの手を両手で上からギュッと包み込み、真剣な目で見上げてくる。その勢いに気圧されて、オレは無言で頷いた。


 貯蔵庫から炊事場へ戻り、マイアリーノと一緒に朝食の支度をすることにした。
 ジャガイモっぽい見た目の芋の川を、あまり切れ味の良くないナイフでむいていく。芋は皮をむくと里芋っぽい粘りが出てきて扱いにくい。
 今まで料理なんかほとんどやったことがないオレは、大苦戦だ。ナイフを扱う手つきがあまりにも危なっかしいせいで、マイアリーノから白い目を向けられてしまった。

「他のみんなの分は作らなくて良いの?」
 軽蔑の眼差しから逃れようとオレが話を振ると、マイアリーノは「へへへ」と悪戯っぽく笑う。
「朝は昨日の残りのパンだけ。みんなもう食べ終わって、働きに行ったよ。私はお客様係だから、今日は行かないで良い。楽で嬉しい」
「そうなんだ……」
 自分たちだけ特別な食事を用意してもらうことにちょっと申し訳なさを抱きつつ、茹でた芋を潰すのを手伝っていると、階段からカレルが降りてきた。ちゃんと上半身にも服を着ている。寝る時だけ上裸派なのかな、彼は。

「オレも手伝おう」
 カレルはそう言って炊事場に来ようとしたけど、
「いいです。アナタは大きすぎるから、邪魔」
 とマイアリーノに追い払われ、ションボリ背を丸めてベンチに座った。ちょっと可哀想だけど、イケメンがしょぼくれる絵面は面白いな。

 良い感じに芋チーズパンケーキが焼き上がったので、青菜のサラダと一緒に木皿に盛りつけ、テーブルに運ぶ。皿を置いてカレルの向かいに座った途端、
「オレも料理くらいできる」
 と謎のマウントをかましてくるので、オレはとうとう思いっきり笑ってしまった。
「そうかそうか~。じゃあ今度メッチャ広い台所があったら旨いもん作ってくれよ。オレは料理できないからさ。これもほとんどマイアリーノが作ってくれたんだ。冷めないうちに食べようぜ」
 笑いながらパンケーキを口に入れる。ふわもち食感で、チーズの塩気が効いてて旨い。カレルは憮然としたまま一囓りし、驚いたように目を瞬かせた。
「な、旨いよな?」
 オレが聞くとちょっと眉を上げて頷く。

「マイアリーノは食べないの?」
 炊事場に向かって声を掛けると、鍋を洗っていたマイアリーノは
「いいの?」
 と嬉しそうな顔でテーブルの傍にやって来た。
「もちろん。みんなで食べた方が美味しいじゃん」
 彼女が一瞬問いかけるような目を向けると、カレルは無言で椅子を引いてマイアリーノのために場所を作ってやった。
 三人だけの朝食は、この世界に来てから一番平和で幸福な時間だった。




 皿に山積みになっていたパンケーキがほとんどそれぞれの胃に収まった頃、開けっぱなしだった入り口の方がにわかに騒がしくなり、数人の男が姿を現した。胸当てと籠手だけつけて腰に剣を佩いた軽武装の騎士だ。混ざり者ではなくて、全員背の高い人間。
 カレルがすぐに動けるよう腰を上げて構えると、一番年上っぽい騎士が片手を上げてそれを制した。

「我らは騎士団長の命で巡礼候補を迎えに来た」
「ルチアーノの指示? アイツはどうしたんだよ?」
「今日は発願祭の初日だ。団長殿は聖堂から離れられない。我らがそなたらを聖堂まで送り届けるから、すぐに支度をせよ」
 年上っぽいヤツが指示すると、後ろの騎士が持っていた布包みを手近なテーブルに広げた。中身はキレイに折りたたまれた立派な上着とマントだ。
 一番上の服を持ち上げると、詰め襟の学ランみたいな上着だった。裾は膝の上まで届くくらい長い。色は熟れきった柿みたいな渋めのオレンジで、合わせや襟、袖口に芥子色の糸で飾りの刺繍が入っている。生地も滑らかでめちゃ高級そう。
「うぇ? これ着るの?」
 眉を寄せて聞くと、
「下着のままで聖堂に入れると思うのか?」
 と返された。オレが今着てるのペラペラのシャツは下着らしい。道理で寒いと思ったわ。

 指示通り上着を着て、暗い赤色のマントを羽織る。全体的に重いけど温かい。ちゃんと靴もある。全部革でできたショートブーツみたいなヤツ。履くとずっしり重い。
 カレルには針葉樹の葉みたいな深い緑の上着と黒に近い焦げ茶のマントが用意されていた。

「剣は?」
 全部身につけ終えたカレルはリーダーっぽい騎士に向かって手を差し出したけど、それは渡せないと却下された。
 祭りの間は、騎士団と衛兵以外は武器の携行を禁止されているらしい。治安を考えるとそれで正解だよな。
「巡礼期間が始まってから、資金を使って好きな装備を揃えれば良い」
 騎士に言われ、カレルは大人しく頷いて引き下がる。

「では出発しよう。あまり時間がない」
 オレたちが身なりを整え終わると、騎士達はすぐに外へ出た。

 オレはほんのちょっとの間だけお世話になった食堂を振り返る。マイアリーノが祈るように両手を組み合わせて、大きな瞳でオレたちの方をじっと見ていた。
「……ちゃんとアイツに届けるから」
 オレは内ポケットに収めたマイアリーノからの贈り物を上着の上から叩いて頷いてみせる。マイアリーノは何度も頷き、何か言いたそうに何度か口を開きかけたけど、結局
「気をつけて」
 とだけ言った。
「うん、帰ってきたらまた会おう!」
 オレは彼女に手を振って、カレルと一緒に戸口を潜った。


 外に出ると、鞍をつけた馬が三頭のんびりと庭の草を食んでいた。
「ここから大聖堂まで馬で移動してもらう」
 騎士のリーダーっぽいヤツがそう宣言し、番立派な馬の手綱を取って、鞍からぶら下がってる足をかける部品に爪先をかけ、ヒョイと鞍に飛び乗った。

 もう一人の騎士が、オレの前にも一番小さい馬を引いてくる。
「えっ!? オレも乗るの!?」
 オレは鞍のついた馬の前で立ち竦んだ。乗れって言われても、生まれてこの方、馬になんか乗ったことない。どうやって乗るのさ。
「当然だろう。早く乗れ」
 苛立たしそうに言われて焦る。助けを求めてカレルの方を向くと、アイツはさっさともう一頭の馬にまたがってしまっていた。
 オレは覚悟を決め、さっき騎士がやっていたのと同じように飛び乗ろうとしたけど、上がりきれなくて馬の背中に手をかけたままジタバタしてしまう。変に揺すられて怒ったのか、馬は後ろ足を急に跳ね上げた。
「わああっ!」

 オレは吹っ飛ばされて草地にみっともなく転がった。
「馬鹿か! 馬に乗れないなら乗れないと言え!」
 若い騎士の一人がすっ飛んできて暴れる馬を抑え、激しく叱責してきた。

───馬なんか乗れるわけねーだろ! オレ日本人なんだもん! 馬なんか小っさい時に動物園でニンジンやった記憶しかないもん! お前はいきなり日本に来て自転車乗れんのかよっ!? クソがっ!

 心の中で悪態をついていると、いつの間にか馬から下りたカレルが手を差し出してくれていた。
「アキオ、怪我はないか?」
 ううう……有り難いけど、さりげない優しさがオレの惨めな気持ちを加速させてきやがる……。
「だいじょーぶ、ありがと」
 差し出された手を素直に取って立ち上がると、途端に両脇をヒョイと持ち上げられ、馬の背中に乗せられた。
「うぉっ! こわっ! めっちゃ高いっ!」
 生まれて初めて乗る馬は、思ったよりずっと背が高かった。二メートルくらいあるんじゃ無いの、これ。
 鞍は椅子じゃないから尻が全然安定しないし、手はどこ持っていいかわかんなくて怖い!
 思わず手綱を引きかけると、カレルに手を押さえられて止められた。
「手綱は持つな。馬が勘違いして動き出すぞ。持つなら鞍の前の部分を持て」
 言われたとおりにするとちょっとは怖さがマシになったけど、動き出したらすぐ落ちる自信があるぞ、これ。
「あ、歩いていくってのは駄目なの?」
 ビビりながら騎士達に聞くと、
「足の感覚で道を覚えるだろうから駄目だ」
 と無情に却下された。

「馬に乗ったことがないのか?」
 カレルに聞かれてオレはウンウンと何度も頷く。オレを叱責した若い騎士がそれを見て、思いっきり舌打ちした。
「手間が掛かる野郎だな!」
「止せ、エンリコ。お前が後ろに乗って支えてやれ」
 エンリコと呼ばれた若い騎士は物凄くイヤそうな顔でこっちにやってきたけど、その前にカレルが
「この方が手間がないだろう」
 と、さっさとオレの後ろに乗ってしまった。確かに知らない騎士と二人乗りよりは、カレルと乗った方が怖くない気がする。

「おい! 勝手なことをするな!」
 エンリコはキレ気味だけど、
「もういい、エンリコ。お前は手綱を取れ」
 とリーダーにたしなめられ、舌打ちしながら手綱を取った。
「悪いがそっちの二人には目隠しをしてもらう。ここの場所を覚えられたら困るのだ」
 リーダーは馬を寄せてきて、オレとカレルは麻袋を渡された。
「え、ヤダ。袋被らされて連行されるって、刑場に引き出される死刑囚みたいじゃん!」
「誓ってそれはない。この場所を知られるのが困るだけだ。森を抜けたらすぐ袋は取って良いから、しばらく我慢して欲しい」
 騎士のリーダーが真面目に言う。
「殺すつもりなら拘束するだろう。ここは彼らを信じて任せよう」
 カレルがあっさり言って袋を被るので、オレも渋々ながら従うしかなかった。


 オレが目隠しを被るとすぐに馬は動き出した。速度はそんなに出てないけど、両手で鞍に捕まってても上下左右に揺れまくる。視界が塞がれているからめちゃくちゃ怖い。勘弁してくれ、オレは原チャリすら乗ったことがないんだぞ!
「ひぇっ……うぉっ……」
 オレが緊張と恐怖でガチガチになっていると、後ろから腕を回されて引き寄せられ、カレルの胸に背中を預けさせられた。
「身体を硬くするな。良く訓練された馬は人を落としたりしない。オレに寄りかかってて良いから、楽にしろ」
 宥めるように腕を軽く叩かれ、オレはちょっとだけ力を抜く。後ろにカレルの体があって支えてくれていると思うと、かなり怖さが和らいだ。
 恐怖がマシになると揺れに規則性があるのが分かってくる。力を入れて揺れに逆らうより、馬に任せて揺られている方が圧倒的に楽だった。

「ちょっとは楽になったか?」
 耳元で笑っているような声がする。
「まーね。馬に乗れるのって普通のことなのか?」
「そうだな。大人の男で乗れない者は、まあいないだろうな。子どもでも男の子なら一人で乗れるよう小さい内に訓練する」
「じゃあ今のオレってめっちゃカッコ悪いんだ……」
 がっくり項垂れると、
「練習すればすぐ乗れるようになる」
 と励ますように肩を叩かれた。
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