夫の心に住んでいるのは私以外の女性でした 〜さよならは私からいたしますのでご安心下さい〜

初瀬 叶

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第56話

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「見て!ジュディーが僕を見て笑ってる!」

サミュエルの嬉しそうな声に、

「まだ誰かを認識して笑うのは先の事です。これは『外発的微笑』と言って、周りの人の声や顔に反応して……」
とイライジャの冷たい言葉が被さった。

途端にサミュエルの顔が曇る。

「イライジャって意地悪だ」

「いえ、私は本当の事を……」

「二人とも揉めないの。サミュエルが笑顔だからジュディーも笑顔なのよ。貴方の明るい楽しい気持ちがジュディーに伝わってるのよ」

「ほら!!僕を見て笑ってるのは間違ってないじゃん!」

サミュエルはムキになってイライジャにそう言うと、

「イライジャ、罰として肩車してよ」
とイライジャに手を伸ばした。
何だかんだでイライジャに甘えるサミュエルに思わず笑ってしまう。

流石にもう八歳なったサミュエルの肩車は私には無理だ。
イライジャはサミュエルに言われた通り、素直に彼を肩車した。

「サミュエル、もう八歳になるのに肩車はおかしいんじゃない?」

「イライジャは背が高いから、肩車されると見晴らしがいいんだ!見て、お姉様よりずっと視線が高いよ!」

私の苦言にもサミュエルはどこ吹く風だ。

「イライジャ、もうサミュエルも重たくなったでしょう?無理しなくて良いのよ」

「いえ。これぐらいなら」

二人は最近仲良しな様だ。サミュエルはイライジャのお陰で随分と乗馬も上手くなった。

「そうだ、お姉様!今度遠乗りしようよ!」

イライジャの肩車の上から明るい声が聞こえる。さっきまで不機嫌そうに膨れていたのに、現金なものだ。

「遠乗り出来るぐらい上達したの?」

「うん!」

「ならば、今度湖まで行ってみましょうか」

「えー!僕、もっと遠くまで行けるよ」

私達の話にイライジャが口を挟む。

「そう言えば、湖に白鳥が飛んできたと聞いていますよ」

「白鳥?!見てみたいな!」

サミュエルはすっかり湖に行くつもりになってくれた様でホッとした。
私はお礼を言う様にイライジャに軽く頷いた。

サミュエルは満足したのか、家庭教師から与えられた宿題をする為に自室に戻って行った。子どもがいると一気に賑やかになる。父が亡くなった後、塞ぎがちだったサミュエルも最近は明るくなった様に思う。


ふと気付くと、イライジャがゆりかごに居るジュディーを見つめていた。

私はその横に並び立つ。

「どうしてサミュエルにあんな意地悪を言ったの?」

「意地悪を言ったつもりは……」

イライジャはそごまで言って言葉を切ると、改めて言い直した。

「すみません……少し意地悪でしたかね。正直サミュエル様が羨ましくて」

「羨ましい?」

「はい。ジュディー様は私にはあまり微笑んで下さいません」

そう言うイライジャの顔を私は覗き込んで、その頬を口角が上がる様にムニッと摘んだ。

「にゃ、にゃにを……?」

「イライジャが笑顔じゃないから、ジュディーも笑わないのよ。ほら、笑ってみせて?」

私が頬から手を離すと、イライジャは頬をピクピクさせながらも、ぎこちなく口角を上げた。

「もっと笑って?」

すると、イライジャは決心した様ににっこりと笑った。それにつられる様にジュディーが微笑む。

「ほら……ジュディーも笑顔のイライジャが見たいのよ」

そう言いながらも私はイライジャの綺麗な笑顔に胸がドキドキしているのを感じていた。
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