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scene・9
しおりを挟むすると、
「あれ?出掛けてたんだ。お帰りなさい。今日は日曜日だよね?なんでスーツ?」
と澄海がダイニングに顔を出した。
「ちょっと仕事でトラブルがあって」
と私が言えば、
「そうなんだ。ごめん、何か夕飯用意しておけば良かったね」
と彼は言いながら、冷蔵庫からペットボトルの水を2本取り出すと、1本を私に手渡しながら、自分は私の向かいの椅子へ腰かけた。
「いいよ。まだ夕飯には早いし。君も配信してたんでしょ?」
と私が言えば、
「うん。さっき終わったばっか」
と言って、ペットボトルの水をゴクゴクと飲んだ。
夜中まで動画編集の作業をしていた澄海は、昼頃まで寝ている事が多々ある。
私が出掛ける時も、きっと眠っているだろうと声を掛けずに出掛けたのだ。
ご飯は一緒に食べられる時は一緒に食べる事もある。手が空いてる方が料理をするスタイルだ。
でもお互い、自分の時間を尊重する。それが同居のルール。
お互い無理をしない。じゃなきゃ、他人との同居なんて無理な話だ。
私もペットボトルのキャップを外し、水を一口飲む。
「で、どんな事があったの?」
と彼は私に訊ねた。
「ん?まぁ…もう解決したから」
「そう?でも、嫌な事言われた?」
「…まぁ、仕方ないよ。こっちのミスだし」
「『仕方ない」事でも、言われた言葉に傷つく事はあるよ。自分が悪くても」
「…そうだね」
「そんな時は俺に八つ当たりして良いよ。めっちゃムカついた!とかさ。溜め込むの良くないし」
と彼は笑う。
「大丈夫だってば。私、そんなに弱くないよ」
「弱いとか強いとかじゃないよ。どっちでも傷つく。別に助けようなんて思ってないよ?俺。ヒーローじゃないから、そんなの無理だし。でも話は聞くよ。聞くだけだけど」
と彼もまた水を一口飲んだ。
私は少し考えた後、
「相手の部長がさぁ…嫌味な奴でさ…」
と今日、言われて納得出来なかった事を彼に話し始めた。
澄海は、
「そっか」とか「うん」とか「酷いね」って相槌を打つだけなんだけど、私の心が少しずつ軽くなっていくのがわかる。
あぁ…私、誰かに聞いて欲しかったんだ。
今まで飲み込んで来た数々の思いが、私の心に澱の様に積み重なっていた事に、私は初めて気がついた。
独りじゃない事が嬉しいと思えた瞬間だった。
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