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scene・30
しおりを挟む私に今まで世話になったのに、女性と暮らしているのが不味いからと私の家から出ていくのは、恩を仇で返すようで申し訳ないと澄海が思っていてもおかしくない。彼はそんな風に考えるタイプだ。
そんな事気にせず、グループに加入して活動すれば良いのに……
いや、そうしないのが澄海の良い所だよね。
ここは、私が……決断をする時だ。
私は澄海と出会った時の事を思い出していた。
今でも、何であんな行動を自分が取ったのか、理解に苦しむが、後悔はない。
楽しかった……その一言に尽きる。
彼と知り合った事で私の知らない世界を知る事が出来た。
彼を拾わなければ、『歌い手』や『配信者』の事を知る事はなかっただろう。
私は1本電話を入れてから、ある考えを抱いて、マンションのエントランスに入って行く。
「ただいま」
「おかえりー」
先に帰っていた澄海は、夕飯の支度をしていたようだ。
澄海の様子は全くいつもと変わらない。
「夕飯、一緒に食べる?」
「私の分も作ってくれるの?」
「材料は余分にあるから、2人分作れるよ。っていっても、乃愛さんが作り置きしてくれてたミートソースを使ったパスタだけど」
と澄海は笑う。
「じゃあ、私、サラダ作ろうか?」
と言って私もキッチンに立つ。
「久しぶりだね、2人で料理」
と澄海が呟く。
「そうだっけ?……そうかもね。最近お互い忙しくて時間合わなかったし」
料理といっても私は野菜を洗って切っていくだけ。澄海も冷凍していたミートソースを温め直して茹でたパスタと絡めているだけ。
しかし、この短い時間が私にはとても愛しく思えた。
2人で夕飯を食べる。
とりとめもない話をする。それだけで笑顔が溢れた。
夕飯が終わり、私は徐に、
「澄海にね、ちょっと話があるの」
と改めて彼の顔を見ながら話始めた。
「私……海外赴任が決まったの」
「嘘?!だって、前に訊いた時『海外には行かない』って……」
「少し前にね、話があって。ちょっと悩んだんだけど、大きなチャンスなんだ。だから受けようと思って」
「どれぐらい?どれぐらい行くの?」
「ごめん、わかんない。1年かもしれないし、5年かもしれないし。私のあっちでの成果次第かな?」
「……いつ行くの?」
「まだ詳しいことは分からないけど、1ヶ月後か…2ヶ月後かな」
「そんな……。じゃあ、俺、ここで乃愛さん待ってていい?」
そんな泣きそうな顔をしないで欲しい。
「うーん……。元々さ、澄海が自立するまでって話だったし、この際澄海には独り立ちして欲しいなって思って」
すると、澄海はサッと顔色を変えた。
「まさか、俺がグループ入るの断ったから?」
と私に尋ねる澄海は少し怒っている様だった。
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