貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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1話

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あぁ……どうしてこんなことになってしまったんだろう。


私は眠っている男性を起こさない様に、そっと寝台を降りた。

私が着ていたお仕着せは、乱暴に脱がされたせいでボタンは千切れ、エプロンも破れていた。
私は仕方なくそのお仕着せに袖を通すと、止められなくなったシャツの前を握りしめる様にした。
そして、部屋の扉にそっと手を掛ける。
ドアノブは回る。いつの間にか
鍵は開いていたみたいだ。

私は最後に後ろを振り返った。そこには裸で眠っている男性の胸が上下している事が確認出来る。深い眠りについている様だ。

外はまだ夜中。月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗い。男性の顔ははっきりとは確認出来なかった。

私は男性を起こさぬ様、最新の注意を払って、部屋の外へと滑り出た。

シーンと静まりかえる廊下は昨晩の喧騒などまるで何もなかったかの様だ。

私は自分の部屋へと急いで向かう。

もうこの家を出て行こう。 これ以上は我慢の限界だ。

部屋についた私はカバンに荷物を詰める。朝が来る前に出ていかなくては。
破れたお仕着せを脱ぎ捨て、一張羅のワンピースを着込む。今は冬。この薄手のワンピースしかないが、贅沢は言っていられない。
私は古くなって、サイズの合わなくなったコートをその上から羽織ると、床下から隠していたネックレスと数枚の銀貨を取り出した。

「お母様、ごめんなさい。もう私にはこの家の為に生きるのは無理だわ」
私はそのネックレスを握りしめる。涙が少し溢れてきたのか、目の前が霞むが、私はそれを乱暴に拭った。
もう二度と泣かないと決めたじゃないか。

カバンにネックレスを仕舞うと、私は部屋を出た。

闇夜に紛れる様にして、私は私の生家を出て行く。そっと振り返ると暗闇に立つ屋敷から、誰かが覗いているような気がして、私は急いでその場を後にした。

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