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41話
しおりを挟むあの後、マチルダさんとどうやって別れたのか思い出せない。
私は別れ際、ちゃんと笑顔を作れていただろうか?
あの時マチルダさんははっきりと『コンラッド子爵』と言った。
そして、今はもうその家は存在しないとも。しかも二十年前に。
では、あの時私を抱いたのは誰?アイザックの父親は?彼の正体は誰なのか。
私は無意識の内に辻馬車に乗り、またもや東へと向かっていた。
ふと我に返って辺りを見回すが、やはりと言うか近衛の姿は何処にもない。
これ以上東に行くと、王都に近づいてしまう。私は適当な所で辻馬車を降りて、そこからはまた南へと向おうと心に決めた。
気を抜くと、コンラッド様の事を考える。……というか、あの人は誰だったんだろう。
あの時、招待状は持っていた。しかし……招待客のリストに名前がなかった事は事実だ。
そう言えば……宛名をしっかりと確認していなかった事を思い出す。招待状は本物だったから、誰かに譲って貰った物だとすれば辻褄が合うが、誰が何の為に?ドノバン伯爵家と繋がりを持ちたかった誰か?
しかし……あの日のコンラッド様の姿を思い出す。イライザにも、ジョアンナにも無視をされていたが、彼がそれを気にしていた様子は無かった……様に思う。私も給仕で忙しく、彼の姿をずっと目で追っていた訳ではないが。
誰かに譲って貰ってまでうちと繋がりたかったのなら、もっと積極的に動くのではないだろうか?彼は逆に目立たぬ様過ごしていた。
あ~考えても全然わからない。私はブンブンと頭を振った。
辻馬車が目的地に着いて、ゆっくりと停まる。
頭には入って来ないが、耳には国王陛下が亡くなったという話題がひっきりなしに乗客から齎されていた。
しかしながら、国王陛下はあまり敬われていなかったのだろう。悲しんでいる声は殆ど聞かれなかった。
私は荷物を持ち直し、アイザックをおぶって辻馬車を降りた。
私の目的地である町まではあと少し。今日はこの町で宿泊をしようと、宿屋を探す。
キョロキョロとしている私に、
「おい。クレア・ドノバンだな」
と背後から声がかかる。……近衛?
私の心臓が煩い程音を立てている。
私は『あぁ、終わった……』と思いながら後ろを振り返った。
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