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43話
しおりを挟む「う、馬に乗るのですか?殿下と?」
「仕方あるまい。ここには俺一人で来た。お前を落とす事はない。ほら、前に乗れ」
荷物を馬にくくり付け、馬上から手を伸ばす殿下に目を丸くしてしまう。
「アイザックも居るのですよ?」
「子どもは俺にくくり付ける。安心しろ、あまり急がん」
……全然安心出来ない。
しかし、アイザックは殿下の手の中だ。泣きつかれたアイザックは、殿下を睨んでいる様に見える。
殿下はそんなアイザックを見て、
「ほう。俺を睨むか。もう母親の気分を察しているか。フッ……血筋とは恐ろしいものだ」
と皮肉っぽくそう言うと片方の口角を上げた。
言ってる意味は分からないが、私は諦めて殿下の手を取った。
殿下は馬を走らせる。もちろんあまり急がずにいてくれるのは有難いが、私は今の状況を未だ飲み込めず混乱していた。
「あの……本当に私、殺されないんですか?」
と尋ねる私に、
「殺さん。まず、お前の父親達も処刑はしない」
と殿下は言葉少なに答えた。
「え?一家皆殺しなのでは?」
「誰がそんな事を……。まぁ、俺が冷酷無比だと言う噂を信じれば、そんなものか」
「単なる噂……なのですか?」
「……必要とあれば命を取る。が、不必要な殺しはせん」
「そう、なのですか?」
「当たり前だ」
変な感じだ。この国の王太子殿下と会話している。……あの宿屋での夜を含めると2回目だが。
私はふと、気になる事を口にした。
「あの……こんな所で油を売っていても良いんですか?国王陛下がお亡くなりになったのですよね?では、殿下が国王陛下に……」
「だから、急いでお前を捜していたんだ。俺は一週間後、国王になる。それまでにお前を捜す必要があった」
……全く説明になっていない答えに私は首を傾げるばかりだ。
日が暮れる前に王都に着いた。何度か休憩を取らせて貰ったが、馬に乗るなどという経験は今まで無かったせいで、体が痛い。変に力を入れていたみたいだ。
「疲れただろう。王宮に着いたらゆっくりすると良い」
という殿下の言葉に、
「へ?私、王宮に行くんですか?何故です?」
と私は驚いて声を上げた。
「静かに。アイザックが起きる」
と殿下は言うと自分の胸元にくくり付けたアイザックを見て微笑んだ。
その顔は今までに見た事がない様な優しい微笑みだった。
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