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62話
しおりを挟む陛下はそれから、毎日私を抱き締めて眠った。
ただ抱き締めるだけ。でもそれだけで嬉しそうにするので、私も強く拒否する事は出来なかった。
最初は緊張して眠れなかった私も、いつの間にか気にせずグッスリ眠れる様になったので……まぁ、良しとしよう。
それとは別に私はまた、ある問題に直面していた。
「お勉強はいつまで?」
「十歳まで……です」
と言う私に目の前の女性は大きくため息をついて、
「で、あれば学園に通った事もない……と」
と言いながら眼鏡クイッと上げた。
そう王妃教育……これが私の今抱える大きな問題だ。
私は約七年間は使用人として、その後は宿屋の従業員とし働いていた。……勉強とは無縁の生活を八年過ごしたって事だ。
「クレア妃陛下、眉間に皺が寄ってますよ」
とアイザックを抱っこしたダイアナに話しかけられる。
ダイアナはマーサの姪御さんだ。乳母として来てくれたのだが、私は母乳の出が良い為、子守として働いてくれている。
「久しぶりの勉強に頭が痛くなっちゃって」
と言って私は自分のこめかみを揉んだ。
マーサがそんな私を労ってお茶とクッキーを用意してくれた。今まで殆ど甘味などから縁遠かった私には、最近ではこれが一番の癒やしだ。
「マーサ、ありがとう」
「厳しいでしょう?サイラス女史は」
とマーサが苦笑する。
「はい……。まぁ、私の出来が悪いせいなので仕方ないんですけど……」
と私はクッキーを頬張る。あ~この甘さが疲れた脳に染み渡る様だ。
「クレア妃陛下も大変ですね。急に王妃なんて……」
とダイアンが同情してくれる。
「しかしサイラス女史は厳しい分、確実に成果を上げる事が出来ると思われての人選だと思います。陛下なりに色々と考えた結果でしょうね」
とマーサが笑う。
マーサはもう随分と離れた田舎でのんびり過ごしていたのを、陛下がわざわざ私の為に説得して連れて来てくれた女性だ。彼女は陛下のお母様の専属侍女だったが、お母様が自死した事に責任を感じ、王宮を去っていた。
マーサはここに戻って来る事になった経緯を話してくれた時『陛下にあんなに頭を下げられてはねぇ』と苦笑していた。
陛下は私の知らない所で色々と取り計らってくれているのだろう。……そんなに気を使ってくれるなら、側妃にしてくれれば良かったのに……と思わなくもない。
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