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66話
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「会いたくありません」
「まぁ、そう言うな。そろそろ刑を決めねばならんのでな。隣国とのあれやこれやですっかり忘れていた」
陛下が忘れていた事……それは、私が捨てた生家、ドノバン伯爵家への処罰を決定する事。
私が陛下と結婚して既にひと月半が過ぎている。彼らはそれより前に投獄されているのだ。貴族用の牢屋とはいえ、あの四人がどんな気分で過ごしているのか……察するに余りある。
「私に会えば彼らは面白くないに違いありません。私も……顔も見たくありませんから」
「確かに、お前があの家でどんな思いで過ごしてきたのか、どんな扱いを受けていたのか、あの夜だけでも十分に理解出来たつもりだ。だからこそ、会って今までの不満をぶつけてやれよ。『ざまぁーみろ』って言ってやれば良いだろう?」
「私は陛下ほど性格が悪くありません」
「ふふっ。違いない。だがな、向こうが会いたがってる、お前に」
と言う陛下の言葉に私は眉を潜めた。
「まさか」
「と言っても、お前に会いたがっている人物は一人。お前の父親だ。………っと、よしよし、どうした?ん?腹でも減ったか?」
後半の言葉は私に……ではなく陛下の腕に抱かれているアイザックへの言葉だ。
「そろそろ眠る時間ですので、寝ぐずりでしょう」
と、私は不機嫌そうに顔を顰めて今にも泣き出しそうなアイザックを陛下から受け取りながら答えた。そしてアイザックを腕の中で揺らしながら、
「父が?私に今の今まで興味がなかったのに?」
と納得出来ない気持ちを口にした。
「ドノバン伯爵家は王妃の生家として残したかった。そこで俺はお前の父親に選ばせたんだ。誰か親戚で適当な人物にドノバン伯爵を継がせるか……或いは後妻とその子どもを切り捨てて自分がドノバン伯爵として残るのか……と」
「まさか父は……?」
「お前の想像通り、後者を選んだ。愛しい妻より自分の保身に走ったって訳だ」
……母や私を蔑ろにしてまで選んだ義母をあっさり捨てた父を心底軽蔑してしまう。
「では……父は今、のうのうとドノバン家に?」
「その通り。しかも娘は王妃ときた。鼻高々だろうな」
と言う陛下に、
「……どうして。どうしてあの人……」
私は言葉に出来ない程、心がモヤモヤしていた。
「そこで……だ。お前に提案がある」
「何でしょうか?」
「この男を知っているか?」
と陛下が差し出した書類に書かれた人物に、私は見覚えがあった。
「この方は……確かドノバンの血縁の者です。王宮の文官になったと……前に聞いた覚えが」
と言った私に、陛下は満足そうに頷いた。
「議会にお前との結婚を認めさせる為にドノバン伯爵を見逃したが、結婚した今となっては然程必要ではない。知っているか?我が国では王族にはある権限が与えられている」
「ある権限……?」
「そうだ。貴族の後継問題に口を出せる。もちろん私利私欲の為ではないぞ?秩序ある国を造る為だ。
相応しくない者は、正当な理由があれば当主を交代させる事が可能だ」
そこまで言った陛下の考えが私には分かった。
「では……この方を養子に迎えるよう、父を説得しろ……そう言う事ですね?」
「理解が早くて助かる。こいつの名前はニコラス。ドイル家の三男だが、文官としてもかなり優秀だ。ドイル伯爵も本来ならこのニコラスに継がせたかったぐらいだろうが、流石に長男も次男も差し置いて……とはいかなかったらしい。どうだ?お前はどう思う。お前のクソみたいな父親と、このニコラス。どっちがドノバン伯爵領の民の為になるのか」
そう私に質問した陛下は、既に私の答えを知っている様だった。
「まぁ、そう言うな。そろそろ刑を決めねばならんのでな。隣国とのあれやこれやですっかり忘れていた」
陛下が忘れていた事……それは、私が捨てた生家、ドノバン伯爵家への処罰を決定する事。
私が陛下と結婚して既にひと月半が過ぎている。彼らはそれより前に投獄されているのだ。貴族用の牢屋とはいえ、あの四人がどんな気分で過ごしているのか……察するに余りある。
「私に会えば彼らは面白くないに違いありません。私も……顔も見たくありませんから」
「確かに、お前があの家でどんな思いで過ごしてきたのか、どんな扱いを受けていたのか、あの夜だけでも十分に理解出来たつもりだ。だからこそ、会って今までの不満をぶつけてやれよ。『ざまぁーみろ』って言ってやれば良いだろう?」
「私は陛下ほど性格が悪くありません」
「ふふっ。違いない。だがな、向こうが会いたがってる、お前に」
と言う陛下の言葉に私は眉を潜めた。
「まさか」
「と言っても、お前に会いたがっている人物は一人。お前の父親だ。………っと、よしよし、どうした?ん?腹でも減ったか?」
後半の言葉は私に……ではなく陛下の腕に抱かれているアイザックへの言葉だ。
「そろそろ眠る時間ですので、寝ぐずりでしょう」
と、私は不機嫌そうに顔を顰めて今にも泣き出しそうなアイザックを陛下から受け取りながら答えた。そしてアイザックを腕の中で揺らしながら、
「父が?私に今の今まで興味がなかったのに?」
と納得出来ない気持ちを口にした。
「ドノバン伯爵家は王妃の生家として残したかった。そこで俺はお前の父親に選ばせたんだ。誰か親戚で適当な人物にドノバン伯爵を継がせるか……或いは後妻とその子どもを切り捨てて自分がドノバン伯爵として残るのか……と」
「まさか父は……?」
「お前の想像通り、後者を選んだ。愛しい妻より自分の保身に走ったって訳だ」
……母や私を蔑ろにしてまで選んだ義母をあっさり捨てた父を心底軽蔑してしまう。
「では……父は今、のうのうとドノバン家に?」
「その通り。しかも娘は王妃ときた。鼻高々だろうな」
と言う陛下に、
「……どうして。どうしてあの人……」
私は言葉に出来ない程、心がモヤモヤしていた。
「そこで……だ。お前に提案がある」
「何でしょうか?」
「この男を知っているか?」
と陛下が差し出した書類に書かれた人物に、私は見覚えがあった。
「この方は……確かドノバンの血縁の者です。王宮の文官になったと……前に聞いた覚えが」
と言った私に、陛下は満足そうに頷いた。
「議会にお前との結婚を認めさせる為にドノバン伯爵を見逃したが、結婚した今となっては然程必要ではない。知っているか?我が国では王族にはある権限が与えられている」
「ある権限……?」
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「では……この方を養子に迎えるよう、父を説得しろ……そう言う事ですね?」
「理解が早くて助かる。こいつの名前はニコラス。ドイル家の三男だが、文官としてもかなり優秀だ。ドイル伯爵も本来ならこのニコラスに継がせたかったぐらいだろうが、流石に長男も次男も差し置いて……とはいかなかったらしい。どうだ?お前はどう思う。お前のクソみたいな父親と、このニコラス。どっちがドノバン伯爵領の民の為になるのか」
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