121 / 127
121話
しおりを挟む「ジャニス殿は、逞しい女性だったな」
夜の寝室で陛下はそう言った。
「本当に。でもまさか側妃が二十三人も居るとは……驚きました。殿下はとても女性を敬っている様に見えたのですが……」
陛下が私の事を『これ』と呼ぶ事を注意したり、言葉の端々から女性を敬愛している様子が窺えたのだが、そんな殿下のハレムの存在に私は驚いていた。
「ハレムを持つ王族が居るとは聞いていたが、それにしても二十三人とは……。報告書には二十と書いてあったんだが、どちらにせよ、よく体がもつな」
と呟く陛下の脇腹を私は抓った。
「痛ててっ」
と顔を顰める陛下を私は睨む。
「下品な想像はよして下さい」
「分かってるよ。でも何故正妃を持たぬのだろうな。不思議だ」
「あの時ジャニス様は『ルール違反だ』とおっしやっていましたから、何か事情があるのかもしれませんね」
「報告書には側妃について数名の記載があった。一番上に書かれていたのが、あのジャニス殿だ。元々は公爵令嬢で、殿下の幼馴染。そして……元は正妃候補だったが、何故か側妃になったらしい。理由については書かれていなかった」
……あの時の悲しそうなジャニス様を思い出すと少し胸が痛くなった。
すると陛下は私に、
「お前が俺を……この国を選んでくれた事、嬉しかったよ」
と私の頬を撫でた。
「正直、自分の気持ちは決まっていたのですが、王族とは自分を犠牲にしてでも国民を守るべきだと言われ悩んでしまいました」
自分としてはアイザックの……そして陛下のそばにいつまでも居たいと思う気持ちしかなかったのだが、サンダース公爵の言葉に心が揺れた。
「王族がこの身を犠牲に……と言うが、では議会に出ている貴族はどうだ?父の代から私腹を肥やし、ブクブクと太った体を持て余して……情けない」
と陛下は顔を顰めた。続けて、
「惰性で議会の役員貴族を継続させていたが、今後は一新していこうと考えている。それに人数も減らす」
と言った。
「反対されませんか?」
「されるだろうな。だが、あいつらの報酬だけでも随分と使ってるんだ。浮いた分を失業者の支援に充てる」
「失業者を減らすお約束をされましたが、これからどうされるのです?」
「とりあえず失業者に職を斡旋する。橋の修復や農業に林業。領主に任せていても埒が明かない。国主体の事業を展開していくつもりだ。そこに予算を上乗せする。全ての失業者を救うのは難しいが、少しずつでも成果が出れば良い」
「陛下……私も嬉しかったです。色々と考えて下さった事。そして……陛下が私を手放さないと言ってくれた事」
そう言った私を陛下は抱き締めた。
「お前は俺の奇跡だ。お前の心は美しくて、側に居ても疲れる事がない」
「私はそんなに綺麗な心の持ち主じゃありませんよ」
「それも知ってる。だが、お前は温かい」
そう言ってくれた陛下を私もギューッと抱き締めた。
1,378
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる