お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

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第36話

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私は手渡された封筒から遺言状を出して広げる。

「こちらは私が前々からご主人様より預かっていた物で御座います」
というギルバートの言葉に促されるように、私はそれを読んだ。


『 遺言書
遺言者  ディーン・オーネットは次の通り遺言する


遺言者は遺言者の有する全ての財産、権利を我が子 テオドール・オーネットに相続させる』


……ん?『我が子 テオドール・オーネット』とは?

私の疑問は黙っていてもギルバートに伝わった事だろう。だって見覚えのない言葉が並んでいるのだから。

察するにこの『テオドール』という人物が公爵様が養子に迎える予定としていた男性である事は間違いなさそうだ。

しかし、養子にする人物をわざわざ『我が子』と書くのだろうか?

ギルバートはそんな私に、もう1通懐から書類を出して広げて見せた。

「テオドール様というのは、ご主人様であるディーン様の実子で御座います」
とギルバートは私に言った。

…………はい?『実子』?!

「どういう…こと?」
私は驚き過ぎて何故か小声で聞いてしまった。

「少し長い話になりますが、お聞き願いますでしょうか?」
というギルバートに私は頷く事が精一杯だった。

「テオドール様の母親はアイリスという平民の女性です。アイリスとディーン様は幼い頃からの幼馴染みで、想い合っておりました。しかしアイリスとディーン様では身分が違う。このオーネット公爵家に平民であるアイリスは相応しくありません。
2人の結婚など誰にも許されない。それはディーン様も重々承知しておりました。
しかし……そんな中アイリスは身籠りました。もちろんディーン様の御子である事は間違い御座いません。そして、アイリスはディーン様の血を引く子を産みました。それがテオドール様です」

淡々と話すギルバートには申し訳ないが、衝撃的過ぎる事実に話が頭に入ってこない。

「えっと……公爵様は女嫌いなのでは?」
と私は今じゃなくても良いだろうという質問をしてしまう。本当に今じゃなくて良い。

「女嫌いなのは事実です。強いて言うなら『アイリス以外の』女性という事です」


「では……前公爵様はテオドール様の事を?」

「ご存知ありませんでした。前公爵様はご主人様の女嫌いにほとほと頭を悩ませておりました。何と言ってもディーン様が片っ端から婚約話を断っていくのですから」

「でも……それはアイリスさんの事があったからでしょう?」

「左様で御座います。例えアイリスと結婚出来ずとも、他の女との結婚など耐えられないと仰っておいででしたから」

「ギルバートはその女性との事を……」

「知っておりました。私にとってご主人様は唯一無二のお方。ご主人様を裏切るつもりは毛頭御座いませんでしたから、この秘密は私だけが」

ギルバートの妄信的な公爵様への忠義が伺えた。
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