お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

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第90話 sideテオ

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〈テオ視点〉


彼女は心を許した人の前では、喜怒哀楽を表に出す。

俺の前でそれを見せてくれた時、俺もその仲間に入った様で嬉しかった。
彼女のテリトリーに入れて貰えた感覚だ。

しかし……気になる事が1つ。
彼女が俺を子ども扱いする事だ。

そりゃ……俺はまだ成人もしていないし、彼女より10も歳下だ。

彼女に比べれば、俺なんて足りないものだらけ。
だけど、絶対彼女の背中に追い付いてみせる。俺は少し焦っていた。



「痛っ!」
彼女の声にふと我に返る。

「ご、ごめんなさい!!」

「あぁ、大丈夫、大丈夫。
それより、何か別の事を考えていたでしょう?
ふふふっ。最近はテオの微妙な表情の変化にも気づく様になったんだから」

ダンス中につい考え事をしてしまった。
彼女の足を踏むなんて、申し訳なさ過ぎる。
だけど、その後に続く彼女の言葉に頬が緩みそうになる。
俺のこの表情の乏しい顔から、彼女が色々と読み取ろうとしてくれている事が嬉しかった。

「すみません。ちょっと考え事を」

「いいのよ。……そう言えば、講師の先生ね、適任の方が見つかったわ」

また彼女は改めてステップを踏みながら、そう言った。
俺が頼んでいた教師の事だろう。

「無理を言ってすみません」
俺も彼女の手を握り直し、ステップを踏みながら答えた。

「どうして謝るの?私の方こそ、こちらからテオに声をかけるべきだったって思ってるの。私の手伝いをしているだけでは公爵としてやっていくのに不安だったわよね」

「いえ!ステラ様のご指導のお陰で、仕事の流れはわかったんですが、公爵って……もっと知識が必要なんですよね?」

俺にはやるべき事が盛りだくさんだ。今からずっと徹夜で頑張ったって間に合わない。

俺に勉強を教えてくれていた家庭教師が居なくなった時には『ふーん』と思っただけだったが、今では何であの時、あの人に問い詰めて、教師に残って貰うように頼まなかったのかと後悔してしまう。

あの時から学んでいれば……彼女の背中はもっと近く感じる事が出来ただろうに。



その3日後。


俺が自分の部屋で講師を待っていると、ノックの音と共に、ステラ様が顔を覗かせた。

「テオ、お待たせ。こちらが……これから貴方を教えてくれる先生よ」
と言って後ろの男性を部屋へ招き入れる。

その男性は、俺の子どもの頃のほんの数年間、勉強を教えてくれていた、その人だった。

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