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第95話
しおりを挟む「まぁ……なんて繊細な細工でしょう」
ミスリル子爵から手渡された香炉に、私は目を奪われた。
「どうも東方の大陸で作られた物のようです。父が行商に来た商人から買い取ったようでして、いつ頃の物かはわかりません。
しかし、父がその商人から聞いた所、随分と年代物だと」
「細工だけではなく、埋め込まれた宝石もとても美しい……。これなら、香炉として使用しなくても調度品として飾っておくだけで、目の保養になるのではありませんか?」
私は香炉を少し掲げる様にして四方八方から眺めてみる。とても美しい香炉だ。
「実は……お恥ずかしい話ながら、私はこういった物に全く興味がないのです。
ここにある物の殆どが亡くなった父の遺した物です。父は美術品にも造詣が深く、こういった物を集める趣味がありましたが、私は……全くその価値がわかりませんので」
ミスリル子爵は部屋にある調度品をぐるりと手で指し示した後、少し恥ずかしそうにそう言って苦笑した。
「でも、お父様の遺品であるのなら、尚更お手元に置いておかれた方が宜しいのではないですか?」
と言う私にミスリル子爵は、
「父は生前『その為に造られた物はその為に使ってこそ価値があるのだ』と申しておりました。
この香炉も香炉として使ってこそ価値があるのだと思っております。
であるならば、然るべき人物にお譲りする方が、父も喜ぶというものです」
と人の良い笑顔を見せた。
「でもこんな素晴らしい物をタダで譲っていただく訳にはいきませんわ。出来れば……」
私が、お金を支払いたいと言う前にミスリル子爵は、
「その代わり……と言っては何なのですが、良ければ姉に会ってやっていただけませんか?
今日、この屋敷にオーネット公爵夫人がお見えになると伝えたら、どうしても……と泣きつかれまして……」
と少し眉を下げた。
私は思ってもみなかった提案に、思わず心の中でガッツポーズを作った。
こちらから、会わせて欲しいと願い出るつもりだったのだ。……何とも嬉しい提案に私は、
「そんな事で宜しいのですか?私の方こそ是非お会いしたいですわ」
と笑顔を見せた。
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