お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

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第97話

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「彼女の名前は……確かアイリス。
平民でしたが、商会が裕福であった為か、とても質の良いワンピースを着ていた事を覚えています。
綺麗なブロンドに桃色のリボンを付けて……とても愛くるしい少女でした」
ドナ様はその頃を思い出すように少し顔を上げると、ゆっくりと語り始めた。

「彼女は快活で……私とは真反対。その姿が私にはとても眩しかった事を覚えています。
しかし、羨ましいと口に出すのは私のプライドが許しませんでした。
私が彼女に誇れるのは……この貴族令嬢という立場です。それにうちは、子爵としてはかなり裕福でしたので、その事を私はついつい自慢していたのだと思います。
彼女が嫌いだった訳ではありません。こんなつまらない私とたくさんお喋りしてくれましたから。
それでも、私は……彼女に負けたと思いたくなかった。
彼女は私を羨ましがりました。貴族特有の世界にも興味津々で。
王都で暮らす事が夢だった……とも語っていましたわ。
私は彼女が私に嫉妬する度に、気分が高揚した事を覚えています。……しかし、私はやり過ぎたのだと思います」
そうド言うとナ様は俯いた。

「やり過ぎた……とは?」

「それまでは私が持っているアクセサリーやリボンを見せびらかすだけでしたが、ある日母が大切にしていたネックレスを見せました。
彼女はそれに目を奪われていました。そのネックレスには大きな宝石が付いていて、それに彼女が触れようとしました。
私はつい『ダメ!』と大きな声を出してしまって。彼女はそれが気に入らなかったのでしょう。『それならば見せなければ良いじゃない!』と怒って、乱暴にそのネックレスを私の手から奪いました。
バキッという嫌な音がして、彼女が掌を開いてそのネックレスを見ると、宝石にヒビが……」

なるほど。アイリスさんは『わざと』ではないかもしれないが、こうして大切なネックレスを壊してしまっていたのか、と私は納得した。

「その後の事はよく覚えていません。父にとても怒られた事は覚えていますが。
そしてアイリスがうちに来る事はなくなりました。彼女がその後どうなったのかも尋ねた事はありませんが、申し訳ないことをしたと思っています」
とドナ様は目を伏せた。

「そうでしたの。で、そのネックレスは?」

「同じ宝石を父が見つけて来て、付け替えを。子どもながらに、本当に恐ろしい事をしてしまったと反省しております」

その新しい宝石の代金を払ったのが、カンデラ商会……。もしかしたらその宝石をどこかから買い付けたのもトミーさんだったのかもしれない。それは大変な苦労だっただろう。

その後も色々と話をして、私は譲り受けた香炉と共にミスリル子爵邸を後にした。
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