とりあえず結婚してみますか?

初瀬 叶

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初恋 sideレオ

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今日は、レベッカがうちのタウンハウスに到着する。
両親はすでに領地に帰っていったが、ランバードの領地は王都からさほど離れてはいない。
馬車で約3時間。いつでも、行ける。


レベッカを乗せた馬車が門の前に着く。
扉を開けると、
「レオナルド様!」
と笑顔の彼女をエスコートする。

……たった1週間会わなかっただけ。
なのに、会えた事が凄く嬉しい。
これからずっと彼女と一緒だと思うと、俺も自然と笑顔になった。


彼女を連れて、屋敷に入る。部屋を案内すると、喜んでくれた。
良かった。俺はホッとした。

着替えもあるだろうし、疲れた体を休ませてあげたい。
俺は仕事をしに執務室へ行く事にし、レベッカの部屋を後にする。




……執務室で書類の確認をしているが、もうレベッカに会いたい。
俺はどうしたんだ?

俺の側で控えていたフェルナンデスが

「………会いにいったらどうですか?」
と呆れた声で話かけてきた。

「!?」
え?会いたいって声に出てた?

「顔を見ればわかります。……それに書類、逆さまです。」

「!?」

フェルナンデスは読心術が使えるのか?

「読心術ではありませんよ。レオナルド様が単純なだけです。」

「なっ!」

これが主に言う言葉か?

元々、兄の侍従で、俺とも兄弟みたいに気安いが。


「レオナルド様に1つ、お伝えしておきたい事がございます。」

「なんだ?」

「それは、恋ですよ。」

「こ、恋?」

「遅い初恋ですね。ご自分ではお気付きになっていらっしゃらないようなので。」

「この気持ちは恋なのか?」

「まぁ、私はレオナルド様では御座いませんので、『多分』としておきましょうか。」

「これが…恋?」

「相手を思うとドキドキしますか?」

「確かに…レベッカの笑顔を思い出すとドキドキするし、胸が痛くなる気がする。」

「顔を見れないと寂しいですか?」

「ああ。まだ知り合ったばかりなのに、この1週間会えなくて寂しかった。」

「つい相手を目で追ってしまったり…」

「それは、最初からだ。最初に会った時に目が離せなかった。」

「ほぅ。それは一目惚れってやつですね。」

「一目惚れ……これがそうなのか」

「そうですね。レオナルド様は奥様に最初から惹かれていたのではないですか?」

「……レベッカと一緒に居ると全く不快な思いをしなかったんだ。
最初から。女性が苦手な俺が。」

「なるほど。」

「でも…レベッカは…」

そこまで言って俺はふと気がついた。
俺とレベッカは元々、恋人って設定だったのに、なんでフェルナンデスには俺たちが偽装だってバレてるんだ!?

俺は焦った。余計な事を言い過ぎた。

「レオナルド様。うちの家族は、祖父の代からこのランバード家に仕えてまいりました。
ジョシュア様とも、レオナルド様とも、小さい頃よりずっと一緒におりました。

…私はジョシュア様をお守りする事が出来ませんでした。
ジョシュア様が留学する時、私も一緒にとお願いしたのですが、ジョシュア様は
『レオナルドと、このランバード家を頼む』
と言われました。
…最初からジョシュア様は帰国する意図はなかったのかもしれません。
でも、この家に迷惑がかかること…それとご自身の自由とを天秤にかけられていた…その葛藤の長さが5年という歳月なのかもしれません。
ジョシュア様はお優しい方でしたから、私を連れていけば、私にも迷惑をかけると思ったのでしょう。
さっきも言いましたが、レオナルド様の事は、言葉になさらずともわかります。
レオナルド様が未婚の女性を孕ませる…そんな器用な事が出来ない事も。
そんな相手がいれば、もう少し、男の色気も出るでしょうが…皆無でしたしね。」

さらっとディスられたよね。

「私はジョシュア様にレオナルド様を頼まれたんですよ。
レオナルド様がやろうとしている事は、全力でサポートするに決まっているじゃないですか。
例えそれが馬鹿げた考えでも…です。」

…フェルナンデスにはバレてたって事か。
もしかしたら両親も気がついてたりするのか?

「伯爵夫妻は、自分の息子が同性しか愛せないと…その…思っていらっしゃったかと。
それについては、明言はされておりませんが、結婚については諦めてらっしゃったと思います。
そんな息子が妊娠させた恋人がいるなんて言い出したら、それは例え疑わしくても、信じたくなるでしょう。藁をも掴みますよね。」
だから、心を読まないで欲しい。
…疑わしくても色々目を瞑るって事か?

「しかも、実際レベッカ様をお連れになった。信じるしかないでしょう。
伯爵夫妻にはそれが真実です。」
信じる方が幸せって事か。

「じゃあ、俺とレベッカの事は…」

「私しか気がついておりません。」
…ホッとした。

「俺はレベッカを好ましく思ってる…というか、お前に言われて初めて気付いたが、その…好きなんだと思う。
でもレベッカは…違う。」
俺は俯いた。

「レベッカ様にお気持ちを伝えた事は?」

「ないよ。結婚を認めてもらう時、説得する意味でも愛してると言ったが、レベッカに…じゃない。」

「左様ですか…ではレベッカ様のお気持ちを聞いた事は?」

俺は首を横に振る。

「では、お気持ちを伝える事から始めましょう。」

「…レベッカは俺の顔が好みじゃないと…」

「人間、顔じゃありません。中身です。…とはいえ、容姿も好かれる為には重要ですが。」

「ウッ」
胸が苦しい。

「でも、嫌われてはないと思うんだ。」

「そうですね。私もそう思います。」

「だ、だよな!」

「お気持ちを伝えるのがハードルが高いのなら、もう少しお2人の距離が縮まるような事をしてみては?」

「例えば?」

「それは、ご自分が考えるのがよろしいかと。まぁ、強いて言うなら、レオナルド様がレベッカ様にしてもらって嬉しい事とか…」

「レベッカにしてもらえると嬉しい事……」
!!俺は閃いた。

「ちょっと、レベッカの所へ行ってくる」


そう言って俺は執務室を出て、レベッカの部屋へ向かう。

部屋へ入るとレベッカが自らお茶を淹れてくれた。

「引きこもってばかりで暇でしたから。家で出来る事はなんでもチャレンジしてたんです。お菓子作りも得意ですよ」

そう微笑みながら言うレベッカ。
いつか俺の為に作ってくれるのかな?それなら嬉しい。

お茶を美味しく飲んでいるとレベッカも話しがあったという。聞くと

「今回の結婚についていくつかルールを作っておいた方が良いと思いまして。
今すぐでなくても良いので、レオナルド様も考えていただけますか?
私もいくつか考えておきますので、よろしくお願いします。」
と言われた。
そういえば以前もそんな事を言ってたな。でも、俺としてはこの結婚は恋した相手との結婚だ。
特別なルールなんて必要ない…しかしレベッカにとっては契約と一緒。
決めていた方が安心なのかもしれないと思い、俺は了承した。

そうしたら、彼女が

「レオナルド様は私に望む事はないのですか?」
と聞いてきたじゃないか!
今だ!さっき閃いた事を実現させる時だ。

俺はレオと呼んで欲しいと告げる。
彼女が「レオ様」と呼んだ。
本当なら様もいらないが、無理強いはしたくない。今はこれで充分だ。

愛称で呼ばれる事がこんなに嬉しいなんて!
俺も愛称で呼びたい…何にしよう。『ベッキー』だけは却下だ。
そのうち考えよう。
1歩1歩、距離を縮めていこう。
そう思っていたのに。



夫婦の寝室に繋がる扉を開けたらスケスケの夜着を着たレベッカが立っていた。


一歩一歩はどこへ?

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