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我慢する
しおりを挟む「な、何故だい?ベッキー。
もうレオナルド殿と婚姻関係を続ける必要も嘘をつく必要もないんだ。
もしかして私が怒る事を怖がっているの?それとも、父上や母上に偽装だって事がバレるのが嫌なのかな?
それなら心配しなくて良い。
私はもう怒ってないし、両親や、サミュエルには偽装だった事は黙っておこう。
私とベッキーの秘密だ。
ね?それなら大丈夫だろう?」
お兄様…猫なで声のお手本のようですけど…
「お兄様。嘘をついてしまった事は本当に申し訳なく思っております。
確かに最初はレオ様をお助けするつもりで受けたお話です。
でも、私にもこの結婚を引き受けた理由があるのです」
私は今から言う事でお兄様が泣きませんように!と祈りながら言葉を続ける。
「それは、お兄様と一緒に領地で暮らす事が私の幸せではないと思ったからです」
「ベッキー………」
…やっぱり泣き出しましたね…でもお兄様の涙に惑わされてはいけません。これで私は学園に通う事も諦めさせられたのですから!
「私も立派なブラコンである事は自覚しております。
お兄様が大好きです。
でも、私だって貴族に生まれ、政略結婚の1つや2つする覚悟はございました」
「ベッキー…結婚は1回で十分だと思うよ…」
泣きながらつっこまないで下さい。
「それに、政略結婚であっても、お互いを尊重し合える関係を築く事も出来ますでしょ?
お互いがお互いを憎く思っていれば難しいかもしれませんが…」
「ベッキー…ベッキーは知らないかもしれないが、私を産んだ母上と父上は、愛のない政略結婚の見本のような人達だったよ。
あれでは、誰も幸せになれない。
2人の間に産まれた子もだ。
私はベッキーにそんな思いをさせたくはなかったんだ」
…お兄様が、クラリッサ様(お兄様達のお母様)に見向きもされなかった事は私も聞いて知っている。
お兄様は寂しかったのよね…
「お兄様が私の事を思って、今まで私を守ってきて下さった事には感謝しています。
でも、どんな形になるかはやってみなくてはわかりません。
全ての結婚が不幸になるわけではありませんもの。
私にはそのチャンスすら今までなかったのです。
私だって…結婚して、縁があれば子どもを授かって…そういう幸せを夢みた事もあったのです。
お兄様と一緒に居たくないわけじゃなくて…そういう幸せもあるのではないかと思っていたのです…」
「では…ベッキーは結婚したかったという事?政略結婚でも?」
「…恋愛結婚なんて…貴族に生まれた時に諦めておりました。
憧れはしますけど、それはそれ、これはこれです。
政略結婚でも幸せになれるようお互い歩み寄る努力をするつもりでおりました。
でも結婚自体を諦めるようになるとは思っておりませんでした」
お兄様はショックを受けているようだ。
そうだろう、私が結婚に憧れてるなんて考えた事もなかったはずだわ。
「レオ様からこのお話を聞いた時はびっくりしましたけど、これはチャンスだと思いました。
このチャンスを逃したら、私には結婚する機会は巡ってこないだろうと…だから、私こそレオ様を利用したんです。
なので、私から離縁を望む事はありません。
でも……もしソフィア様の婚姻が整って、私がレオ様にとって必要なくなった時、レオ様が離縁を望むなら、私は受け入れたいと思います」
「ちょっ、ちょっと待って!」
私が言い終わるや否や今まで黙って聞いていたレオ様が大きな声を出して、私の手を握った。
「こんな時に、こんなタイミングで、こんな場所で、しかもアレックス殿の前という状況は非常に不本意だけど…レベッカ聞いて。
俺はレベッカを愛してる。
多分、一目惚れだったんだ。
俺は恋愛なんて今までしたことなかったから自分の気持ちに気がつくのが遅くなってしまったけど、1人の女性としてレベッカを愛してるんだ。
だからずっと俺と一緒に居て欲しい。
生涯を共にしたいと思うのはレベッカだけだ。
俺は絶対に離縁しない」
レオ様は私の手を握り、目を見て話してくれた。
その目はとても嘘をついてるようには思えない。
そう思うと私の顔にも熱が溜まる。
きっと今、私の顔は真っ赤だろう。
「本当ですか?」
疑ってるわけではないけど、つい聞き返してしまう。
「あぁ。女嫌いの俺の事だから信じられないかもしれないけど、本当だ。だから…」
そうレオ様が言いかけた時
「とにかく、私の前でイチャイチャするのは辞めてもらおう」
そう言ってお兄様が私達の手を引き離す。
良い雰囲気だったのに…とんだお邪魔虫ですね。
まぁ、すっかり泣き止んでるみたいで安心しましたけど。
「ベッキー…わかった。今は諦めよう」
今は?今は、って言いました?聞き間違い?
「ベッキーが結婚に憧れをもっていたなんて、私も知らなかったからね。
私にはそれを叶える事は不可能だし…今は我慢するよ。本当は嫌だけど」
「お兄様……それに、あと4ヶ月程で結婚式も挙げる予定なんです。
ドレスも、今日お義母様とデザインの相談をしてきた所ですし…」
「結婚式か!そうか!ベッキーのウェディングドレス姿は、世界一美しいだろうね。それは楽しみだ。
そうか…それは今我慢する甲斐があるな」
笑顔ですけど、何故か引っ掛かる言葉が聞こえますね。
「お兄様も出席して下さるでしょう?」
「もちろんだよ。エスコートは私がしよう」
え?そこはお父様なのでは?
「…お兄様…それはお父様のポジションですわ…」
「ダメ、ダメ。父上には任せられない。
そこは私がやろう。
でもね、ベッキー、これだけは覚えておいて。
少しでも、ほんの少しでもレオナルド殿に不満があれば、すぐに私に言うんだ。
我慢して婚姻関係を続ける必要はない。
もし、ベッキーの表情が少しでも曇る事があれば、私はすぐに2人を別れさせるからね。
…レオナルド殿、わかったかな?私は許した訳ではない。我慢しているだけだから。
あ、あとベッキー、週に1度はうちのタウンハウスで晩餐を共にする事。
わかったね?これが条件だ」
……なんの条件?
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