亭主関白の堅物公爵がいつの間にかモフモフになって甘えて来ます

初瀬 叶

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第54話

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夫婦の寝室。私は眠い目を擦りながら、旦那様の待つ寝台へと向かう。

「遅かったな」
旦那様は読んでいた本をパタンと閉じると私を迎える様に大きく手を広げた。
私はその胸に体を預ける。

「猫の『遊んで!遊んで!』攻撃が激しくて。元気になったのは嬉しいんですけど、体力がありあまっているようなんです……やっと解放されました」

「ところで……何故猫に名前を付けない?」

「……誰か飼ってくれる人を探そうと思っていまして」

「何故?」

「だって……ついつい猫に構いすぎてしまうので……」

「私に遠慮しているのか?」

旦那様は私の体を少し離すと顔を覗き込んだ。

「……」

私が少し俯くと、旦那様はフッと笑ってまた私を抱きしめた。

「私が嫉妬深いのは認めるが、これから私も忙しくなる。君が寂しくないように、猫を飼うことぐらい我慢するさ」

「本当ですか?なら……あの子を飼ってもいい?」

「ああ、もちろん。命の危険があった時、君が寝ずに看病して助けた猫だ。手放すのは寂しいだろう?」

私は旦那様の胸に頬をピトッとくっつける。旦那様の鼓動が聞こえるとホッとする。

「ありがとうございます。でも……なるべく早くお仕事から帰ってきて下さいね」

猫がいれば寂しくないのかもしれない。けど、私はこうして旦那様と一緒が一番幸せだ。


旦那様は「か……可愛い……」とブツブツ言いながら、さらにきつく私を抱きしめた。





それからも旦那様は仕事が終わると脇目も振らず屋敷に戻ってきてくれる。

「名前はどうするかな」

白い猫と毛糸で遊びながら、旦那様は首を捻った。

「考えたんですが……『ネロ』はどうでしょう?今まで『猫ちゃん』って呼んでいたので、ネロなら語呂が似てますし、この子も戸惑わなくてすむかも」

「『ネル』にも似てるがな」
旦那様は苦笑した。

「だ、駄目でしょうか?」

私の発想の貧困さに呆れたのかもと不安になる。

「可愛い名じゃないか。なぁ、ネロ」

ネロと呼ばれた白い猫は「ニャン」と鳴いてそのまん丸な瞳で旦那様を見上げた。

「ほら、喜んでる」
旦那様の声に私も「ネロ」と呼ぶ。今度はネロは私の方をキラキラとした目で見上げた。

「ふふふ。気に入ってくれた?」

「こうして……いつの日か私達の子どもの名を一緒に考える日がくるといいな」

「旦那様……」

私も旦那様との子どもが欲しい。出来れば旦那様に似た男の子がいい。

「あぁ……だからといって急かしてるわけでも、焦らせたいわけでもない。そんな未来がいつの日かくるといいな……とそうふと思っただけだ」

そう言ってはにかんだように笑う旦那様に私は抱きついた。

「おっと……、ネロが驚いてるぞ」

「私もそんな未来がくること、楽しみにしています。旦那様と一緒に」

抱きついた私の額に旦那様はそっとキスをした。

「今思うと、犬になったあの時間は無駄じゃなかった。あのままだったら私は君の良いところに気付かず、私達はこんな風に笑い合うことなどなかっただろう」

「そうかもしれませんね……なら、あの魔女に感謝かも……」

あの魔女は今頃どうしているのだろう?
私がそうふと考えた瞬間、ネロが『クシュン』とくしゃみをした。

思わず私と旦那様は顔を見合わす。

「まさかな」
「そんなわけ……ないですよね?」

私達はじっとネロを見つめる。……白い猫は何事もなかったように、何度も何度も顔を洗っていた。まさかネロが魔女に変えられた人間だなんてこと、あるはずがない。が……しかし。

「旦那様、念の為ですがネロとキスしちゃ駄目ですからね!」

「あ、当たり前だ!それに私が心から愛しているのは君だけだ。たとえ誰が猫になったとしても私の口づけで戻ることはない。……が、君が猫になるのなら……うん、それも可愛すぎるか……」

旦那様は何を妄想したのか、ちょっとだけニヤついていた。

「じゃあ、私がもふもふになったら……旦那様はそれでも愛してくれますか?」

「もちろん。どんな姿になっても君を想う気持ちは変わらない」

旦那様の顔がゆっくりと近づく。私は目を閉じて旦那様のキスを当然のように受け止めた。


               ~Fin~
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