54 / 54
第54話
しおりを挟む
夫婦の寝室。私は眠い目を擦りながら、旦那様の待つ寝台へと向かう。
「遅かったな」
旦那様は読んでいた本をパタンと閉じると私を迎える様に大きく手を広げた。
私はその胸に体を預ける。
「猫の『遊んで!遊んで!』攻撃が激しくて。元気になったのは嬉しいんですけど、体力がありあまっているようなんです……やっと解放されました」
「ところで……何故猫に名前を付けない?」
「……誰か飼ってくれる人を探そうと思っていまして」
「何故?」
「だって……ついつい猫に構いすぎてしまうので……」
「私に遠慮しているのか?」
旦那様は私の体を少し離すと顔を覗き込んだ。
「……」
私が少し俯くと、旦那様はフッと笑ってまた私を抱きしめた。
「私が嫉妬深いのは認めるが、これから私も忙しくなる。君が寂しくないように、猫を飼うことぐらい我慢するさ」
「本当ですか?なら……あの子を飼ってもいい?」
「ああ、もちろん。命の危険があった時、君が寝ずに看病して助けた猫だ。手放すのは寂しいだろう?」
私は旦那様の胸に頬をピトッとくっつける。旦那様の鼓動が聞こえるとホッとする。
「ありがとうございます。でも……なるべく早くお仕事から帰ってきて下さいね」
猫がいれば寂しくないのかもしれない。けど、私はこうして旦那様と一緒が一番幸せだ。
旦那様は「か……可愛い……」とブツブツ言いながら、さらにきつく私を抱きしめた。
それからも旦那様は仕事が終わると脇目も振らず屋敷に戻ってきてくれる。
「名前はどうするかな」
白い猫と毛糸で遊びながら、旦那様は首を捻った。
「考えたんですが……『ネロ』はどうでしょう?今まで『猫ちゃん』って呼んでいたので、ネロなら語呂が似てますし、この子も戸惑わなくてすむかも」
「『ネル』にも似てるがな」
旦那様は苦笑した。
「だ、駄目でしょうか?」
私の発想の貧困さに呆れたのかもと不安になる。
「可愛い名じゃないか。なぁ、ネロ」
ネロと呼ばれた白い猫は「ニャン」と鳴いてそのまん丸な瞳で旦那様を見上げた。
「ほら、喜んでる」
旦那様の声に私も「ネロ」と呼ぶ。今度はネロは私の方をキラキラとした目で見上げた。
「ふふふ。気に入ってくれた?」
「こうして……いつの日か私達の子どもの名を一緒に考える日がくるといいな」
「旦那様……」
私も旦那様との子どもが欲しい。出来れば旦那様に似た男の子がいい。
「あぁ……だからといって急かしてるわけでも、焦らせたいわけでもない。そんな未来がいつの日かくるといいな……とそうふと思っただけだ」
そう言ってはにかんだように笑う旦那様に私は抱きついた。
「おっと……、ネロが驚いてるぞ」
「私もそんな未来がくること、楽しみにしています。旦那様と一緒に」
抱きついた私の額に旦那様はそっとキスをした。
「今思うと、犬になったあの時間は無駄じゃなかった。あのままだったら私は君の良いところに気付かず、私達はこんな風に笑い合うことなどなかっただろう」
「そうかもしれませんね……なら、あの魔女に感謝かも……」
あの魔女は今頃どうしているのだろう?
私がそうふと考えた瞬間、ネロが『クシュン』とくしゃみをした。
思わず私と旦那様は顔を見合わす。
「まさかな」
「そんなわけ……ないですよね?」
私達はじっとネロを見つめる。……白い猫は何事もなかったように、何度も何度も顔を洗っていた。まさかネロが魔女に変えられた人間だなんてこと、あるはずがない。が……しかし。
「旦那様、念の為ですがネロとキスしちゃ駄目ですからね!」
「あ、当たり前だ!それに私が心から愛しているのは君だけだ。たとえ誰が猫になったとしても私の口づけで戻ることはない。……が、君が猫になるのなら……うん、それも可愛すぎるか……」
旦那様は何を妄想したのか、ちょっとだけニヤついていた。
「じゃあ、私がもふもふになったら……旦那様はそれでも愛してくれますか?」
「もちろん。どんな姿になっても君を想う気持ちは変わらない」
旦那様の顔がゆっくりと近づく。私は目を閉じて旦那様のキスを当然のように受け止めた。
~Fin~
「遅かったな」
旦那様は読んでいた本をパタンと閉じると私を迎える様に大きく手を広げた。
私はその胸に体を預ける。
「猫の『遊んで!遊んで!』攻撃が激しくて。元気になったのは嬉しいんですけど、体力がありあまっているようなんです……やっと解放されました」
「ところで……何故猫に名前を付けない?」
「……誰か飼ってくれる人を探そうと思っていまして」
「何故?」
「だって……ついつい猫に構いすぎてしまうので……」
「私に遠慮しているのか?」
旦那様は私の体を少し離すと顔を覗き込んだ。
「……」
私が少し俯くと、旦那様はフッと笑ってまた私を抱きしめた。
「私が嫉妬深いのは認めるが、これから私も忙しくなる。君が寂しくないように、猫を飼うことぐらい我慢するさ」
「本当ですか?なら……あの子を飼ってもいい?」
「ああ、もちろん。命の危険があった時、君が寝ずに看病して助けた猫だ。手放すのは寂しいだろう?」
私は旦那様の胸に頬をピトッとくっつける。旦那様の鼓動が聞こえるとホッとする。
「ありがとうございます。でも……なるべく早くお仕事から帰ってきて下さいね」
猫がいれば寂しくないのかもしれない。けど、私はこうして旦那様と一緒が一番幸せだ。
旦那様は「か……可愛い……」とブツブツ言いながら、さらにきつく私を抱きしめた。
それからも旦那様は仕事が終わると脇目も振らず屋敷に戻ってきてくれる。
「名前はどうするかな」
白い猫と毛糸で遊びながら、旦那様は首を捻った。
「考えたんですが……『ネロ』はどうでしょう?今まで『猫ちゃん』って呼んでいたので、ネロなら語呂が似てますし、この子も戸惑わなくてすむかも」
「『ネル』にも似てるがな」
旦那様は苦笑した。
「だ、駄目でしょうか?」
私の発想の貧困さに呆れたのかもと不安になる。
「可愛い名じゃないか。なぁ、ネロ」
ネロと呼ばれた白い猫は「ニャン」と鳴いてそのまん丸な瞳で旦那様を見上げた。
「ほら、喜んでる」
旦那様の声に私も「ネロ」と呼ぶ。今度はネロは私の方をキラキラとした目で見上げた。
「ふふふ。気に入ってくれた?」
「こうして……いつの日か私達の子どもの名を一緒に考える日がくるといいな」
「旦那様……」
私も旦那様との子どもが欲しい。出来れば旦那様に似た男の子がいい。
「あぁ……だからといって急かしてるわけでも、焦らせたいわけでもない。そんな未来がいつの日かくるといいな……とそうふと思っただけだ」
そう言ってはにかんだように笑う旦那様に私は抱きついた。
「おっと……、ネロが驚いてるぞ」
「私もそんな未来がくること、楽しみにしています。旦那様と一緒に」
抱きついた私の額に旦那様はそっとキスをした。
「今思うと、犬になったあの時間は無駄じゃなかった。あのままだったら私は君の良いところに気付かず、私達はこんな風に笑い合うことなどなかっただろう」
「そうかもしれませんね……なら、あの魔女に感謝かも……」
あの魔女は今頃どうしているのだろう?
私がそうふと考えた瞬間、ネロが『クシュン』とくしゃみをした。
思わず私と旦那様は顔を見合わす。
「まさかな」
「そんなわけ……ないですよね?」
私達はじっとネロを見つめる。……白い猫は何事もなかったように、何度も何度も顔を洗っていた。まさかネロが魔女に変えられた人間だなんてこと、あるはずがない。が……しかし。
「旦那様、念の為ですがネロとキスしちゃ駄目ですからね!」
「あ、当たり前だ!それに私が心から愛しているのは君だけだ。たとえ誰が猫になったとしても私の口づけで戻ることはない。……が、君が猫になるのなら……うん、それも可愛すぎるか……」
旦那様は何を妄想したのか、ちょっとだけニヤついていた。
「じゃあ、私がもふもふになったら……旦那様はそれでも愛してくれますか?」
「もちろん。どんな姿になっても君を想う気持ちは変わらない」
旦那様の顔がゆっくりと近づく。私は目を閉じて旦那様のキスを当然のように受け止めた。
~Fin~
362
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
人に裏切られた田舎娘は、獣人に異国の地で甘やかされる。(完結)
深月カナメ
恋愛
田舎娘のティーは幼馴染みの、彼との結婚を楽しみにしていた。
しかし前日になって結婚は無しにしてくれと言われてしまう。
悲しみに暮れて彼女は、住み慣れた村を出てゆく。
去年別名で書いていたものの手直しです。
もし、よろしければお読みください。
のんびり更新。
ポンコツ娘は初恋を諦める代わりに彼の子どもを所望する
キムラましゅろう
恋愛
辺境の田舎から聖騎士となった大好きな幼馴染フェイト(20)を追って聖女教会のメイドとして働くルゥカ(20)。
叱られながらもフェイトの側にいられるならとポンコツなりに頑張ってきた。
だけど王都で暮らして四年。そろそろこの先のない初恋にルゥカはケリをつける事にした。
初恋を諦める。諦めるけど彼の子供が欲しい。
そうしたらきっと一生ハッピーに生きてゆけるから。
そう決心したその日から、フェイトの“コダネ”を狙うルゥカだが……。
「でも子供ってどうやって作るのかしら?」
……果たしてルゥカの願いは叶うのか。
表紙は読者様CさんがAIにて作成してくださいました。
完全ご都合主義、作者独自の世界観、ノーリアリティノークオリティのお話です。
そして作者は元サヤハピエン至上主義者でございます。
ハピエンはともかく元サヤはなぁ…という方は見なかった事にしていただけますと助かります。
不治の誤字脱字病患者が書くお話です。ところどころこうかな?とご自分で脳内変換しながら読むというスキルを必要とします。
そこのところをご了承くださいませ。
性描写はありませんが、それを連想させるワードがいくつか出てまいります。
地雷の方は自衛をお願いいたします。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
王太子殿下から逃げようとしたら、もふもふ誘拐罪で逮捕されて軟禁されました!!
屋月 トム伽
恋愛
ルティナス王国の王太子殿下ヴォルフラム・ルティナス王子。銀髪に、王族には珍しい緋色の瞳を持つ彼は、容姿端麗、魔法も使える誰もが結婚したいと思える殿下。
そのヴォルフラム殿下の婚約者は、聖女と決まっていた。そして、聖女であったセリア・ブランディア伯爵令嬢が、婚約者と決められた。
それなのに、数ヶ月前から、セリアの聖女の力が不安定になっていった。そして、妹のルチアに聖女の力が顕現し始めた。
その頃から、ヴォルフラム殿下がルチアに近づき始めた。そんなある日、セリアはルチアにバルコニーから突き落とされた。
突き落とされて目覚めた時には、セリアの身体に小さな狼がいた。毛並みの良さから、逃走資金に銀色の毛を売ろうと考えていると、ヴォルフラム殿下に見つかってしまい、もふもふ誘拐罪で捕まってしまった。
その時から、ヴォルフラム殿下の離宮に軟禁されて、もふもふ誘拐罪の償いとして、聖獣様のお世話をすることになるが……。
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)
夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
妾に恋をした
はなまる
恋愛
ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。 そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。
早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。
実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。
だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。
ミーシャは無事ミッションを成せるのか?
それとも玉砕されて追い出されるのか?
ネイトの恋心はどうなってしまうのか?
カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる