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歯車師アキラと魚釣り
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よく晴れた秋の昼、雲は高く、遠くにあります。もうすぐ冬がやってくる頃合いで、風が少し涼しいです。ガサガサと、風が木々を揺らします。
ここはイリオモテ、遠い遠い昔は、西表島と呼ばれていた島です。
遠い遠い昔、空からとても強い光が降り注ぎ、世界は終わりました。衛星砲というとても恐ろしい兵器が、たった一度動いただけで、世界は終わってしまったのです。
それから長い長い時間がたちました。生き残った人間たちは、ほそぼそと命をつなげ、今となっては、それなりに平和な世界ができました。
「よーし!ここらへんでいいだろ!」
狩人のシンは、森の中を進み、少し平らになった場所に荷物をおろします。
「はぁ……、はぁ……。毎度のことだが、お前と一緒だと疲れてるね……」
歯車師のアキラは、くたくたになって、その場に座り込みます。
「おいおい、まだ着いたばかりだぞ?」
「お前のペースが速いんだよ」
「アキラのペースが遅すぎるのさ」
「俺はお前みたいに四六時中森の中じゃねえんだからよ。手加減してくれよな」
「ハハッ、いや、そのとおりだ」
シンは、森の中で獲物を狩る狩人です。もうすぐ冬を迎えるイリオモテで、イノシシを狩るためにやってきました。一方アキラは、歯車師です。歯車じかけの機械を扱うお店で働き、シンが使う仕掛け罠も作っています。
アキラとシンは幼い頃からの友達です。いつもはアキラはシンについていかないのですが、「たまには一緒に狩りに行こう」というシンの誘いで、今回は一緒に狩りに来ました。
「さて、それじゃ早速罠を仕掛けてくるから、アキラはテント貼っててくれよ」
「あいよ」
シンは罠道具を持って、更に森の奥へと進んでいきます。それを見送ったアキラは、テントを広げていきます。冬が近いとはいえ、ここはイリオモテ、雨風が防げれば、夜もそれほど寒くはありません。
「……さ、テントはできたが、シンのやつはどこまで行ったんだか」
アキラは、テントの中にゴロンと寝転がります。静かな森の中で、風が森を揺らす音が聞こえます。
「……ん?」
ふと、アキラは、風の音以外の音に気が付きました。その音は、流れる水の音です。
「川か……懐かしいな」
アキラは、小さい頃にカニ取りをした小川のことを思い出しました。そして、水の音の方へと歩いてゆきます。
……キャンプ地から少し歩くと、そこには穏やかな流れの川がありました。アキラが川の石をひっくり返すと、びっくりしたカニがカサカサと動きます。
「逃がすか!」
アキラは、逃げようとするカニをさっと捕まえます。
「今夜はカニ汁だな」
アニラは小さく笑い、更にカニを捕まえていきます。あっというまに、何匹ものカニを捕まえてしまいました。
「ま、こんなもんか。できれば魚も取りたいけど、竿がねえし、そろそろ戻らねえと……」
アキラは川の中程を覗き込みます。魚が泳いでいるのが見えますが、さすがに素手では捕まえられません。
「いや、まてよ」
アキラは、川のそばに生えている細い木に目をつけます。
「こいつを使って……いけるか?しなりを利用して、歯車を噛ませてやれば……」
アキラは座り込み、なにやらぶつくさ考え始めました。こうなると、アキラはテコでも動きません。
……それからどれだけの時間がたったでしょうか。時間はすでに夕暮れです。
「お、戻ったか」
キャンプ地で焚き火をするシンが、アキラを迎えます。
「これ、味噌汁にできねえか」
アキラは、取ってきたカニが入った袋を、をシンに投げ渡します。
「お、カワコガニか。こいつはいい出汁が出るぞ」
シンは焚き火で鍋に湯を沸かし、カワコガニをバラバラと入れます。そこに、柔らかい木の芽を入れ、持ってきた味噌を溶かします。
「マキヤマメは1年中生えてるからな。狩りのときはいつも食ってるんだ」
「ふーん」
「さ、できた。晩飯にしようぜ」
シンは、カニと木の芽の味噌汁をお椀によそいます。アキラは荷物からおにぎりを取り出しました。
「それじゃ、いただきますか」
「ああ」
二人は、暗くなる夕暮れの下で、楽しく笑いながらご飯を食べました。
……翌朝、シンは鳥の鳴き声で目を覚ましました。ですが、横で寝ていたはずのアキラがいません。
「あれ?アキラどこいった?」
それに、なにやら美味しそうな匂いがします。
「この匂いは……」
シンがテントの外に出ると、アキラが魚を焼いていました。
「おう。おはよう」
「おはよう、っていうか、どうしたんだそれ?朝から釣りか?」
「いや、そうじゃなくてな……」
まだぼんやりしているシンに、アキラが説明します。
「昨日のうちに、川に罠を仕掛けておいたんだよ。ワイヤーと工具はいつも持ってるからな。川のそばに生えてる木に糸吊るして、あとは魚が食いついたら自動的に引っ張り上げる仕掛け作ってな」
「はるほどな。でも、そんなに早起きしなくても良かったんじゃね?」
「いや、まあ、そうなんだけどさ……」
シンの問に、アキラはちょっと恥ずかしそうに言葉を濁します。
「……仕掛けが動いたか気になって、早く目が覚めちまったんだよ」
「ハハハッ!……まったく、お前らしいや!」
アキラの答えに、シンが笑います。
「歯車師たるもの、自分の仕掛けが動いたかは気になるものなんだよ。お前は罠が気にならないのか?」
「いや、気になるけどよ、狩りは慌てちゃいけねえのさ。だから、待つときはゆっくり休んで待つのさ」
「なるほどな。そこは道具作りと道具使いの差ってやつか」
「ま、そうともいえるさな。魚、焼けてるのか?」
「ああ、そろそろ食べごろだ」
アキラはよく焼けた魚を1匹、シンに手渡します。
「朝から豪華な飯が食えてありがたいね。いただくぜ」
「おう、朝飯は重要だ」
二人は熱々の魚にかぶりつきます。香ばしく焼けた皮がパリッと歯切れよく、柔らかくふっくらとした身の味わいが口の中に広がります。
「うまいな」
「ああ、うまい」
二人は焼き魚を味わいます。
焼き魚を食べて一息ついたところで、シンが出かける用意を始めます。
「それじゃ、罠を確かめてくる」
「一緒に行っていいか?」
「自分の仕掛けが動いたか気になるのか?」
「ま、そんなところだ」
「それじゃ、行くか。ちいとばかし遠いぞ」
「あー……いや、まあ、行くか」
アキラは少し迷いましたが、それでも一緒に行くことにしました。
それからアキラは、どうにかこうにかシンに着いていき、二人で罠にかかったイノシシを仕留め、街へと帰ったのでした。
おしまい
ここはイリオモテ、遠い遠い昔は、西表島と呼ばれていた島です。
遠い遠い昔、空からとても強い光が降り注ぎ、世界は終わりました。衛星砲というとても恐ろしい兵器が、たった一度動いただけで、世界は終わってしまったのです。
それから長い長い時間がたちました。生き残った人間たちは、ほそぼそと命をつなげ、今となっては、それなりに平和な世界ができました。
「よーし!ここらへんでいいだろ!」
狩人のシンは、森の中を進み、少し平らになった場所に荷物をおろします。
「はぁ……、はぁ……。毎度のことだが、お前と一緒だと疲れてるね……」
歯車師のアキラは、くたくたになって、その場に座り込みます。
「おいおい、まだ着いたばかりだぞ?」
「お前のペースが速いんだよ」
「アキラのペースが遅すぎるのさ」
「俺はお前みたいに四六時中森の中じゃねえんだからよ。手加減してくれよな」
「ハハッ、いや、そのとおりだ」
シンは、森の中で獲物を狩る狩人です。もうすぐ冬を迎えるイリオモテで、イノシシを狩るためにやってきました。一方アキラは、歯車師です。歯車じかけの機械を扱うお店で働き、シンが使う仕掛け罠も作っています。
アキラとシンは幼い頃からの友達です。いつもはアキラはシンについていかないのですが、「たまには一緒に狩りに行こう」というシンの誘いで、今回は一緒に狩りに来ました。
「さて、それじゃ早速罠を仕掛けてくるから、アキラはテント貼っててくれよ」
「あいよ」
シンは罠道具を持って、更に森の奥へと進んでいきます。それを見送ったアキラは、テントを広げていきます。冬が近いとはいえ、ここはイリオモテ、雨風が防げれば、夜もそれほど寒くはありません。
「……さ、テントはできたが、シンのやつはどこまで行ったんだか」
アキラは、テントの中にゴロンと寝転がります。静かな森の中で、風が森を揺らす音が聞こえます。
「……ん?」
ふと、アキラは、風の音以外の音に気が付きました。その音は、流れる水の音です。
「川か……懐かしいな」
アキラは、小さい頃にカニ取りをした小川のことを思い出しました。そして、水の音の方へと歩いてゆきます。
……キャンプ地から少し歩くと、そこには穏やかな流れの川がありました。アキラが川の石をひっくり返すと、びっくりしたカニがカサカサと動きます。
「逃がすか!」
アキラは、逃げようとするカニをさっと捕まえます。
「今夜はカニ汁だな」
アニラは小さく笑い、更にカニを捕まえていきます。あっというまに、何匹ものカニを捕まえてしまいました。
「ま、こんなもんか。できれば魚も取りたいけど、竿がねえし、そろそろ戻らねえと……」
アキラは川の中程を覗き込みます。魚が泳いでいるのが見えますが、さすがに素手では捕まえられません。
「いや、まてよ」
アキラは、川のそばに生えている細い木に目をつけます。
「こいつを使って……いけるか?しなりを利用して、歯車を噛ませてやれば……」
アキラは座り込み、なにやらぶつくさ考え始めました。こうなると、アキラはテコでも動きません。
……それからどれだけの時間がたったでしょうか。時間はすでに夕暮れです。
「お、戻ったか」
キャンプ地で焚き火をするシンが、アキラを迎えます。
「これ、味噌汁にできねえか」
アキラは、取ってきたカニが入った袋を、をシンに投げ渡します。
「お、カワコガニか。こいつはいい出汁が出るぞ」
シンは焚き火で鍋に湯を沸かし、カワコガニをバラバラと入れます。そこに、柔らかい木の芽を入れ、持ってきた味噌を溶かします。
「マキヤマメは1年中生えてるからな。狩りのときはいつも食ってるんだ」
「ふーん」
「さ、できた。晩飯にしようぜ」
シンは、カニと木の芽の味噌汁をお椀によそいます。アキラは荷物からおにぎりを取り出しました。
「それじゃ、いただきますか」
「ああ」
二人は、暗くなる夕暮れの下で、楽しく笑いながらご飯を食べました。
……翌朝、シンは鳥の鳴き声で目を覚ましました。ですが、横で寝ていたはずのアキラがいません。
「あれ?アキラどこいった?」
それに、なにやら美味しそうな匂いがします。
「この匂いは……」
シンがテントの外に出ると、アキラが魚を焼いていました。
「おう。おはよう」
「おはよう、っていうか、どうしたんだそれ?朝から釣りか?」
「いや、そうじゃなくてな……」
まだぼんやりしているシンに、アキラが説明します。
「昨日のうちに、川に罠を仕掛けておいたんだよ。ワイヤーと工具はいつも持ってるからな。川のそばに生えてる木に糸吊るして、あとは魚が食いついたら自動的に引っ張り上げる仕掛け作ってな」
「はるほどな。でも、そんなに早起きしなくても良かったんじゃね?」
「いや、まあ、そうなんだけどさ……」
シンの問に、アキラはちょっと恥ずかしそうに言葉を濁します。
「……仕掛けが動いたか気になって、早く目が覚めちまったんだよ」
「ハハハッ!……まったく、お前らしいや!」
アキラの答えに、シンが笑います。
「歯車師たるもの、自分の仕掛けが動いたかは気になるものなんだよ。お前は罠が気にならないのか?」
「いや、気になるけどよ、狩りは慌てちゃいけねえのさ。だから、待つときはゆっくり休んで待つのさ」
「なるほどな。そこは道具作りと道具使いの差ってやつか」
「ま、そうともいえるさな。魚、焼けてるのか?」
「ああ、そろそろ食べごろだ」
アキラはよく焼けた魚を1匹、シンに手渡します。
「朝から豪華な飯が食えてありがたいね。いただくぜ」
「おう、朝飯は重要だ」
二人は熱々の魚にかぶりつきます。香ばしく焼けた皮がパリッと歯切れよく、柔らかくふっくらとした身の味わいが口の中に広がります。
「うまいな」
「ああ、うまい」
二人は焼き魚を味わいます。
焼き魚を食べて一息ついたところで、シンが出かける用意を始めます。
「それじゃ、罠を確かめてくる」
「一緒に行っていいか?」
「自分の仕掛けが動いたか気になるのか?」
「ま、そんなところだ」
「それじゃ、行くか。ちいとばかし遠いぞ」
「あー……いや、まあ、行くか」
アキラは少し迷いましたが、それでも一緒に行くことにしました。
それからアキラは、どうにかこうにかシンに着いていき、二人で罠にかかったイノシシを仕留め、街へと帰ったのでした。
おしまい
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