6 / 8
魔法使いショータと星のローブ
しおりを挟む
小さな島の丘の上、港町を見下ろすその場所に、小さな研究所がありました。空には月が無く、星々がキラキラと輝いています。
「今夜は絶好の星日和だね……」
魔法使い服を着た先生は空を見上げます。ここはイリオモテ、遠い遠い昔は、西表島と呼ばれていた島です。
遠い遠い昔、空からとても強い光が降り注ぎ、世界は終わりました。衛星砲というとても恐ろしい兵器がたった一度動いただけで、世界は終わってしまったのです。
それから長い長い時間がたちました。生き残った人間たちはほそぼそと命をつなげ、今となってはそれなりに平和な世界ができました。
「先生、こっちはもう準備できてますよ!」
魔法使い服を着た男の子が、研究所の屋上に通じる窓からひょっこり顔を出します。
「ははは、もう準備ができているとは、流石だね」
「もう!先生が『今夜は〈魔力を捉える〉にはぴったりだ』っていうから、暗くなる前から準備してたんですよ」
「いやあ、そうだった、そうだった」
ショータ君は、10歳の魔法使いです。そして先生は、ショータ君の魔法の先生です。二人は終わった世界のイリオモテで、魔法使いのお仕事をしています。
今夜は新月。星の光が一番良く見える日です。ショータ君と先生は、研究所の屋上で空を見上げます。
「うーむ、良い空だ。見てみろショータ君、あの星々を」
そう言われたショータ君は、先生と一緒に空を見上げます。そこには、数え切れないくらいの星々が一面に広がっています。
「あ、先生、あの星ですよね」
ショータ君は、一つの星を指差します。その星はゆっくりと動いています。
「ああ。あれが、〈魔力の星〉だね。ショータ君もよく見えるようになったじゃないか」
先生はショータ君の指差す〈魔力の星〉を見て、魔法使い服の灰色ローブを脱ぎはじめました。
「さあ、急ごう。時間がないぞ」
「はい、先生」
ショータ君も、魔法使い服の灰色ローブを脱ぎます。
二人は脱いだ灰色ローブを、魔法陣の上に置きます。それから二人で一緒に、魔法陣と同じくらい大きなレンズの角度を合わせていきます。
「こんなもんかな」
「そうですね」
さあ、これで〈魔力を捉える〉準備はできました。
「それじゃあ先生、お願いします」
呪文は先生のお仕事です。ですが、今日は少し違いました。
「……いや、今日はショータ君に頼もうか」
「え!?ぼ、僕がですか!?」
ショータ君は戸惑います。〈魔力を捉える〉ことは、星がよく見える新月でないとできません。もし失敗でもしたら、次の新月まで〈魔力を捉える〉ことができません。
「で、でも、もし失敗したら……」
ショータ君は、不安でした。もし失敗したらどうしようかと、怯えていました。ですが、先生は大きく笑って答えます。
「ははは!なあに、最初は誰でも失敗するものだ。安心したまえ!私だって、よく失敗したものさ!」
「……先生、今でもたまに魔法失敗しますよね」
「おっと、痛いところを付かれたね。いや、まさしくそのとおりだ!ははは!……だがね」
「だが、なんですか?」
「私だってたまには失敗するんだ。だから、ショータ君が失敗しても、心配はないさ。むしろ、失敗から学ぶこともある。思いっきりやてみと良い!」
「ふふ、そうですね」
先生の言葉に、ショータ君も思わず笑います。少しだけ気が楽になりました。
「それじゃ、僕もやってみます」
「ああ、その意気だ」
先生がそう言うと、ショータ君は集中しました。ざざあ、ざざあと、浜辺の波の音だけが、静かに聞こえます。
……そして、〈魔力の星〉がちょうど空の真上にやってきました。さあ、今がその時です。
ショータ君は小さな魔法の杖を持ち、呪文を唱えます。
「星の光は魔法の光、天から地へと降り満ちる。満ちた魔法は羽織に集い、星の力を我らに宿す。……魔力を求める我が身に集え!」
ショータ君が魔法の杖を大きく振るうと、〈魔力の星〉からまばゆい光が落ちてきます。そして、レンズを通して灰色のローブにその光が注がれます。
「う、うわあ!」
ショータ君は思わず目を閉じます。それほどに強い光が、夜の闇に輝いたのです。
……まばゆい光が止んだ時、灰色だったローブは、真っ黒に染まっていました。強大な魔力が、色となってローブに宿ったのです。
「成功のようだね。ふふ、やるじゃないか」
先生が、ショータ君に声をかけます。
「や、やったあ!できた!」
「ふふ、上出来じゃあないかい?」
先生も、ショータ君の呪文の結果を見て納得します。
遠い空で、〈魔力の星〉がゆっくりと動きます。そして、レンズに当たる光は弱くなっていきました。漆黒のローブに宿った小さな輝きが、夜の闇に輝きます。
ショータ君と先生は、それぞれのローブを着て感触を確かめます。その肌触りは、十分に魔力が宿ったしっかりしたものでした。
「うまくいったじゃないか。〈魔力を捉える〉ことは、魔法使いにとって是体に必要な魔法だ。これで君も、また、一人前の魔法使いに近づいたということさ」」
先生の言葉に、ショータ君はこくりと頷きます。
「さあ、今日はもう休もう。明日からはまた、たくさん仕事をしないといけないからね」
「はい!」
二人は研究所の中に戻り、眠るための準備をはじめました。
イリオモテの上は、月のない空で、星だけが、キラキラと輝いていました。
おしまい
「今夜は絶好の星日和だね……」
魔法使い服を着た先生は空を見上げます。ここはイリオモテ、遠い遠い昔は、西表島と呼ばれていた島です。
遠い遠い昔、空からとても強い光が降り注ぎ、世界は終わりました。衛星砲というとても恐ろしい兵器がたった一度動いただけで、世界は終わってしまったのです。
それから長い長い時間がたちました。生き残った人間たちはほそぼそと命をつなげ、今となってはそれなりに平和な世界ができました。
「先生、こっちはもう準備できてますよ!」
魔法使い服を着た男の子が、研究所の屋上に通じる窓からひょっこり顔を出します。
「ははは、もう準備ができているとは、流石だね」
「もう!先生が『今夜は〈魔力を捉える〉にはぴったりだ』っていうから、暗くなる前から準備してたんですよ」
「いやあ、そうだった、そうだった」
ショータ君は、10歳の魔法使いです。そして先生は、ショータ君の魔法の先生です。二人は終わった世界のイリオモテで、魔法使いのお仕事をしています。
今夜は新月。星の光が一番良く見える日です。ショータ君と先生は、研究所の屋上で空を見上げます。
「うーむ、良い空だ。見てみろショータ君、あの星々を」
そう言われたショータ君は、先生と一緒に空を見上げます。そこには、数え切れないくらいの星々が一面に広がっています。
「あ、先生、あの星ですよね」
ショータ君は、一つの星を指差します。その星はゆっくりと動いています。
「ああ。あれが、〈魔力の星〉だね。ショータ君もよく見えるようになったじゃないか」
先生はショータ君の指差す〈魔力の星〉を見て、魔法使い服の灰色ローブを脱ぎはじめました。
「さあ、急ごう。時間がないぞ」
「はい、先生」
ショータ君も、魔法使い服の灰色ローブを脱ぎます。
二人は脱いだ灰色ローブを、魔法陣の上に置きます。それから二人で一緒に、魔法陣と同じくらい大きなレンズの角度を合わせていきます。
「こんなもんかな」
「そうですね」
さあ、これで〈魔力を捉える〉準備はできました。
「それじゃあ先生、お願いします」
呪文は先生のお仕事です。ですが、今日は少し違いました。
「……いや、今日はショータ君に頼もうか」
「え!?ぼ、僕がですか!?」
ショータ君は戸惑います。〈魔力を捉える〉ことは、星がよく見える新月でないとできません。もし失敗でもしたら、次の新月まで〈魔力を捉える〉ことができません。
「で、でも、もし失敗したら……」
ショータ君は、不安でした。もし失敗したらどうしようかと、怯えていました。ですが、先生は大きく笑って答えます。
「ははは!なあに、最初は誰でも失敗するものだ。安心したまえ!私だって、よく失敗したものさ!」
「……先生、今でもたまに魔法失敗しますよね」
「おっと、痛いところを付かれたね。いや、まさしくそのとおりだ!ははは!……だがね」
「だが、なんですか?」
「私だってたまには失敗するんだ。だから、ショータ君が失敗しても、心配はないさ。むしろ、失敗から学ぶこともある。思いっきりやてみと良い!」
「ふふ、そうですね」
先生の言葉に、ショータ君も思わず笑います。少しだけ気が楽になりました。
「それじゃ、僕もやってみます」
「ああ、その意気だ」
先生がそう言うと、ショータ君は集中しました。ざざあ、ざざあと、浜辺の波の音だけが、静かに聞こえます。
……そして、〈魔力の星〉がちょうど空の真上にやってきました。さあ、今がその時です。
ショータ君は小さな魔法の杖を持ち、呪文を唱えます。
「星の光は魔法の光、天から地へと降り満ちる。満ちた魔法は羽織に集い、星の力を我らに宿す。……魔力を求める我が身に集え!」
ショータ君が魔法の杖を大きく振るうと、〈魔力の星〉からまばゆい光が落ちてきます。そして、レンズを通して灰色のローブにその光が注がれます。
「う、うわあ!」
ショータ君は思わず目を閉じます。それほどに強い光が、夜の闇に輝いたのです。
……まばゆい光が止んだ時、灰色だったローブは、真っ黒に染まっていました。強大な魔力が、色となってローブに宿ったのです。
「成功のようだね。ふふ、やるじゃないか」
先生が、ショータ君に声をかけます。
「や、やったあ!できた!」
「ふふ、上出来じゃあないかい?」
先生も、ショータ君の呪文の結果を見て納得します。
遠い空で、〈魔力の星〉がゆっくりと動きます。そして、レンズに当たる光は弱くなっていきました。漆黒のローブに宿った小さな輝きが、夜の闇に輝きます。
ショータ君と先生は、それぞれのローブを着て感触を確かめます。その肌触りは、十分に魔力が宿ったしっかりしたものでした。
「うまくいったじゃないか。〈魔力を捉える〉ことは、魔法使いにとって是体に必要な魔法だ。これで君も、また、一人前の魔法使いに近づいたということさ」」
先生の言葉に、ショータ君はこくりと頷きます。
「さあ、今日はもう休もう。明日からはまた、たくさん仕事をしないといけないからね」
「はい!」
二人は研究所の中に戻り、眠るための準備をはじめました。
イリオモテの上は、月のない空で、星だけが、キラキラと輝いていました。
おしまい
0
あなたにおすすめの小説
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
妹の初恋は私の婚約者
あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、第一王子から婚約破棄を宣言されたカミーユ。王子が選んだのは、カミーユの妹ジョフロアだった。だが、ジョフロアには王子との婚約が許されない秘密があった。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる