おっさん賢者の、ハーレム居酒屋繁忙記!

aki•smiley

文字の大きさ
7 / 8

第6話 戦う紫月ちゃん。

しおりを挟む
 山本紫月は、一撃で恋に落ちた。

 その男は40歳目前の中年。笑顔から滲み出る優しさが、紫月の乙女心をがっちりと掴んだ。

 現在のアルバイト先の先輩である彼は、勤務初日から、優しく彼女をフォローしてくれていた。世間話はした事がなかったが、それでも挨拶や業務指示には、思いやりが感じられた。

 昔から、惚れっぽい性格なのは自覚している。だが、紫月の期待に答えられる人格者は、これまでいなかった。

 そして今日、事件が起きた。

 紫月が一目惚れしていた中年「室井剛志」が、彼女を助けてくれたのだ。紫月の目に狂いはなかった。輩に絡まれる彼女を颯爽と助け出した剛志は、まるで王子様だった。

 嬉しかった。剛志は一回り以上年齢が上だし、とても相手にされないと諦めていたのだから。思いがけぬ接点が出来た紫月は攻めまくり、溢れる想いを告げた。剛志は紫月の想いを受け入れ、二人は結ばれた。

 愛する人の腕の中。幸せに包まれながら、紫月は眠りについた。

 次に目覚めた時、紫月は男の胸に顔を埋めていた。引き締まった筋肉。厚い胸板。剛志では無いようだ。

 ゲームの世界に来た、と思い当たる。体を起こすと、眠り続ける「大賢者」ファーナスの顔が目に入る。整った顔立ちの美青年だ。

 紫月は剛志に想いを告げる前、ファーナスに憧れを抱いていた。剛志には手が届かない。ならばこの仮想現実で、仮初めの恋に落ちてみるのも良いかも知れない。そう思っていた。アニメや漫画の推しキャラに、恋をするように。

 共に旅をし、迷宮に挑む中で、紫月は、急激にファーナスへの想いを強めて行った。ゲーム世界ではセラと言う名前の公爵令嬢だ。彼女の生い立ちを面白がり、ファーナスは色々と世話を焼いてくれた。

 運命の人。言い過ぎかも知れないが、その時の紫月セラは、そう思い込む程になっていた。

 だが、彼が住まう「シャングリラ城」の一室には、お抱えのメイドが2名いた。彼女たちは、すでにファーナスと体の関係も持っている。そう聞いた訳ではないが、セラの勘は鋭い。彼女たちの雰囲気、そぶり、会話の内容。そういったものを総合し、間違いないと確信している。

 この人たちには勝てない。自分が割って入る隙など、無いように思えた。例え仮想現実であっても、憧れなど抱くべきではなかったのだ。

 しかし、彼には救ってもらった恩がある。だからせめて、目覚める時まではそばにいよう。そう思った。

(私は、剛志さん一筋で生きていく。もう、絶対に迷ったりしない)

 セラは誓いを新たにし、美しい青年の世話を続けた。二人のメイド、レイン、アーリアと共に。

 日が暮れて来た。今日もファーナスは目覚めなかった。セラは、今夜も自分が護衛を務めるとメイドたちに告げ、彼女たちを退室させた。

「もう、目覚めてはくださらないのですか? ファーナス様」

 多数の医師や魔法使いに原因を調べさせたが、解決の糸口は見えなかった。

 こうして彼の看病をしながら、やがて彼の胸の上で眠ってしまう事が、これからも続くのだろうか。

「祝杯あげようって、言ってたじゃないですか......。早く起きないと、一人で飲んじゃいますよ」

 セラはファーナスの髪を撫でた。美しい、緑色の髪が、指の間をサラサラと流れた。

 その時、強い殺気を背後に感じた。セラは即座に振り返り、飛んできた短剣を指で挟んで止めた。

「何者!」

 セラは叫んだ。だが、そこには誰もいなかった。しかしセラにはわかる。姿は見えないが、確かに敵はそこにいるのだ。

「よくオレの存在に気づけたな。褒めてやるぜ女」

 口調から察するに男だろう。敵の殺気は横に移動を始めた。セラの隙を伺っているのだ。

 セラは油断なく構え、男の殺気を捉え続けた。相手の動きに合わせ、自身は円を書くように足の位置を移動していく。

 いつまた短剣が飛んでくるかわからない。おそらく相手は暗殺者。短剣には猛毒が塗ってあるだろう。少しでも傷がつけば命を落とす。

「もう少し簡単に殺れると思ったんだがな。以外とやるなぁ女。隙がねぇ。ちょっと遊んでやるよ」

 今まで感じていた殺気が、スーッと消えていく。

 セラは一瞬だけ焦ったが、すぐに落ち着きを取り戻して目を閉じた。

 スキル「気配察知」。パッシブスキルである「洞察」の上位版だ。意識を集中しないと使えないが、その分細かな殺気や気配も見つける事が出来る。

 ーー飛んだ!奴は上だ!

 見えないが、おそらく男は天井に張り付いている。そこから放たれた二本の短剣を弾き飛ばし、セラは大気中の魔素を、素早く「気」に変換した。

「気功波!」

 両手のひらを合わせて突き出し、「気」の波を撃ち出す。

「うぐぁあああっ!」

 気は男に直撃し、天井から落下させる。セラはトドメとばかりに男を蹴り飛ばし、壁に激突させた。男の姿が、スーッと浮かび上がる。全身黒ずくめで、頭と腰からは翼が生えている。魔族だ。しかも男だと思っていたが、女だった。

 浅黒い肌に、銀色の髪。切れ長の目。かなり美しい容姿をしている。おまけに......めちゃくちゃ爆乳だった。

(わ、私の方が大きいもん ! 多分......)

 セラは自分の胸を見下ろした。限りなく平らで、足元がよく見える。

(いいのよ、仮想世界で負けたって、悔しくなんかない! 現実世界では、負けてないんだから!)

「ぐ......っ」

 セラがそんな雑念にとらわれていると、女はがっくりとうなだれ、動かなくなった。手加減したから死ぬ事はないはずだ。捕縛した上で手当てをしてやろう。

「さぁ、洗いざらい吐いてもらうわよ」

 セラは空間をタップした。そしてカーソルを移動し、アイテムボックスから捕縛用の縄を取り出す。

 女の目の前に立ち、彼女を見下ろした時。セラの背中に激痛が走った。

「何を洗いざらい吐かせるって?」

 背後から声がした。セラは全身が痺れ、力が抜けていくのがわかった。がくりと膝をつく。麻痺毒だ。

「お前は遊びがいがありそうだからな。生かして置いてやる。だがファーナスにはそんな甘っちょろい事はしねぇ。さっさと殺せとのご命令なんでな。致死性の毒をたっぷり塗ったこの短剣で、ぶっ刺して終わりだ」

 そんな、そんな......! 体が動かない。 助けを呼びたくても声が出ない。なぜ、背後から......。蹴り飛ばした感触は、確かにあったのに。

「ほーら! 刺したぞ! 大賢者ファーナスの最後だ! おー、いいねいいね、顔がドス黒く染まってくぜ! いつ見ても最高だね、この死に様は!」

 セラの目から、涙が溢れる。恩人を、守れなかった。ファーナスは、セラを守ってくれたというのに。

「おー、死んだ死んだ。 よし、じゃあお前を回収してお仕舞いだな。楽な仕事だったぜ......あがっ!」

 ドサリ、と人が倒れる音がした。

「大丈夫か、セラ。遅くなってすまない。【治療キュアー】」

 セラの体が、暖かい光に包まれる。動く、体が動く!

 セラはすかさず飛び起き、背後を振り返った。そこにはベッドから起き上がったファーナスと、先程の魔族の女が倒れていた。壁に蹴り飛ばしていたはずの女の体は、いつのまにか消えていた。幻覚を見せられていたのかも知れない。

「ファーナス様、ご無事だったんだですか!?」

 セラが声を震わせながらそう言うと、ファーナスは衣服の乱れを直しながら立ち上がった。

「ああ。私の体は毒に耐性があってね。致死性の毒でもしばらくは持ちこたえられる。死ぬ寸前のところで意識が戻ったんだ。すかさず魔法で【逆転リバース】を使ってな。肉体の時間を巻き戻したという訳だ。この女は、魔王直属の暗殺部隊の一人だろう。とりあえず今は眠らせているが、あとで色々喋ってもらう」

 ファーナスが「拘束リストリクション」と呟くと、地面から触手のような物が出現して彼女を捉えた。

「怖い思いをさせたな。こんなに事態が進んでいると思わなかった」

 ファーナスは、気を失っていたはずだ。なのに、なぜか事態を把握していたような口ぶりだった。大賢者には全てお見通し、という事なのだろう。

「もう。いつもファーナス様は遅いんですよ! 私、凄く心配したんですから! 」

 セラは立ち上がり、ファーナスに抱きついた。これは恋愛感情ではない。親愛の情だ。仲間として、無事を喜んでいるだけ。

(だって私には、剛志さんがいるんだから)

 セラはファーナスの腕の中で、彼を見上げた。ファーナスは優しく微笑んでいる。やはりどこか、剛志に似ていた。容姿は全く違うが、醸し出す雰囲気が一緒なのだ。

「あの、ファーナス様、おかしな事聞いていいですか?」

「ん? どうした? 何でも聞くがいいぞ」

 優しくセラの髪を撫でるファーナス。彼はセラを異性として意識しているのだろうか? もしそうだとしたら、どんなつもりでを撫でてくれるのだろう。

「室井剛志っていう名前に聞き覚えありますか。この辺りでは、聞かない名前ですが」

 セラは何気なくそう聞いた。明確な反応を、期待した訳ではなかった。

 だが、ファーナスは目を見開いた。確実に知っている人間の表情だった。

「まさか、知ってるんですか? ファーナス様!」

 セラの胸が高鳴った。まさか、まさか......!

「君には叶わないな」

 彼はそう言って笑った。

「室井剛志は、俺だよ。紫月ちゃん」

 ファーナスはセラを抱きしめ、彼女の唇を優しく塞いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

処理中です...