呪術恋愛戦線 ―山奥ド田舎の陰キャ呪術師の俺が、都会から来た陰陽師美少女に狙われる異能バトルラブコメ―

杉林重工

文字の大きさ
8 / 55
合儀肺助の話

正論に散る、春と修羅

しおりを挟む
「それについてなのですが」

 付き合ってください、という言葉に対する返答とは、原理上、はい、か、いいえ、の二択である。対して、阿賀谷戸命香の返答は大変型破りであった。

(考えさせてください、とかもあるにはあるとは思うけど……)

 しかし、目の前、告白すれば必ずうまくいくという伝説の木の下で行われるそれは、そのどれでもなかった。

(次に、何が来る……?)

 その緊張は、校舎裏に潜む合儀肺助も、現場で硬直する真壁動太も一緒であった。

「さすがに、三回も人を呼び出して、自分が一度も出て来なかったのは、どうかと思いますよ」

(しまった、正論だ!)

 そして、肺助はこの先、どんな答えが待っているかを悟って目を閉じた。

 ここから先、行われるのは『暴力』だろう。

「一回目は、なんか面白そうだったら来てみたけど誰もいないし、二回目はどんな人がこんなひどいことするのかなって思ったけどやっぱりいないし、三度目の正直っていうから、三回目はいるだろうなーって思ったらやっぱりいないし。で、四度目でやっとでてきたね」

 おかしい、と肺助は思う。相手はせいぜい百六十センチ半ばほどの身長の少女であり、対する真壁動太といえば百九十センチに近い大男。それなのに今、彼は随分と縮んで見える。すらりと毛並みの美しい黒い狐が、足元の名も知らぬ昆虫を虐めているようであった。

「あ、はい……えっと、それにつきましては……」力なく動太は声を発した。

「人のことを三回も馬鹿にして、よくもまあ、告白うまくいくって思ったよね。どうして?」

「う、え、あ、あの……」それは言葉か或いは嗚咽か。

 肺助にはわからなかったし考えたくもなかった――かわいそうなので。

「わたしがここに来たのは、冷やかしです。三回も人を馬鹿にしたような態度をとってなお、ひょこひょこと鼻の下伸ばして出てくる男がどんな奴か気になっただけ。あ、そうだ、答えないとね」

 阿賀谷戸命香は、その整った顎先、唇に一瞬手を当てて思案し、

「無理です、あなたは。ごめんね、とか言う気にもならない。そもそもわたしと、一言も喋ったこともないのに、どういう思い込みなのか教えてほしいぐらい。自分に自信があるのかないのかはっきりしたら? 多分、そういうところ直さないと誰にも振り向いてもらえないよ。そういう自信が芽生えるってさ、余程何か、よく効く強い薬でも打たれたのかな」

 と、余程強い言葉で動太を打った。動太はついに、膝から崩れ落ちた。柔道でも重量級の彼が、いとも簡単に。

「はあ。なんか言葉も出ないぐらいショック受けてるし、本当に可哀想だね。このまま家帰れないのは目も当てられないし、よく聞いて」

 そういって、阿賀谷戸命香は、同じく膝を折って、動太に向く。

「つらい思いしているよね、逃げ出したいでしょ。だから、逃げていいよ。『真壁動太の、阿賀谷戸命香に纏わる記憶を禁ず』」

「え?」そう思わず声を出したのは、合儀肺助だった。当の真壁動太は、ゆっくりと命香を見上げた。

「あと、ここは学校でしょ。勉強する場所なんだから、『真壁動太の恋愛を禁ず』」

 そして。

「『真壁動太の、意識を禁ず』」

 その言葉に導かれるように、真壁動太はぱたりと横に倒れた。彼女は動太が一秒以上しっかり気を失っていることを、その辺の棒で突いて確認する。

「じゃあ次は!」

 それからなんと、すっくと立ち上がった阿賀谷戸命香は、校舎を見上げ、その三階からこっそり顔を出す、合儀肺助と目を合わせた。深い穴のような彼女の瞳は今、肺助を捉えて離さない。これまた、左右に奇麗に整い、色の乗った唇が動く。

「いいもの見せてもらったよ。君の『嘘を禁じる呪禁』に免じて、全部正直に話しちゃった。じゃあね、肺助君! また後で!」

 そして、手を振り、伝説の木の下から出て行った。

 視界が歪み、呼吸が上がる。肺助は外に背を向けて、壁に体重を預け、ずるずると滑って床に座った。全身の血の気が引き、体中が冷え、指先が震える。冷たい汗が、あっという間に肺助を滝行の後のようにずぶ濡れにした。だが、そこまで至っても、肺助の、心臓の鼓動が、頭の芯から噴き出る熱だけは止まらない。あまりにも奇妙な現象に遭遇し、体調がおかしくなっている。

「どういうことだ……何が起きた……?」

 肺助は漸く、指先で何とか鼓動を抑えるように、自身の胸を押した。

 脳裏にあるのは、あの少女、阿賀谷戸命香の冷たい笑顔。

「あいつ、呪禁を、禁歌を使ったのか?」

 肺助は一度聞いたことがある。

『母さん、おれたち以外に禁歌を使う人はいないの?』

『いません。呪術師や陰陽師はいますが、禁歌は呪禁が変化した独自の呪術です。呪禁も、それ自体を専門にしている人はあまり聞きませんし、ただの一日も持たない弱い呪術がこうして受け継がれているのは貴重なんですよ』

 では、母・合儀椎子の言葉を信じるなら、今目の前で見たことはなんと呼べばいい?

 荒い呼吸の中、肺助は袖で額の汗をぬぐった。

 ――これから、おれはとんでもないことに巻き込まれる、そんな予感がした。

 そして、その予感が的中するのは、あまりにも早かった。

 於、合儀家宅。一時間後の出来事である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...