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彼女の名前は瀬路原野弦
そういうことさ、どういうことさ
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「あなたは、どっちですか?」
ノツルは恐る恐る訊ねた。
「さあね。自分でも、もうよくわからなくなってしまった」
ナイススイング正隆は首を振った。
「ただ、十八ホールが終わったら、もう『彼』はいなくなっていた」
さっきまで喧嘩をしていたはずなのに、ナイススイング正隆はどこか寂しげだった。
「そう。それで、あなたも……」
見ると、ノツル達の前に立つナイススイング正隆の姿もまた、消えかけているようだった。
「メディアとかで言われる成仏、とはまた違う。なんだろうね、なんだか、自分のやっていることが馬鹿らしく思えたよ」
正隆は深くため息をついた。
「ゴルフは、確かに誰かと競う側面もある。だが、その本質は自分と自然と、二つにいかにして向き合うか、だ。それを忘れ、ゴルフと向き合うことから久しく、わたしは逃げていたのかもしれない」
そういって、彼はじっと、女子トークから気まずそうに顔を背けていた合儀肺助を見た。
「ありがとう、肺助君。今思えば、ゴルフ場を作って式神という立場を利用して神になろうという考えが間違っていた。人間は、一人一人が宇宙とつながっている。ゴルフをしていれば、わかりきっていたことだったのに。狙ってやったのかい?」
「ゴルフのことはよくわかりませんが、あなたがすごい呪術師だというのはわかっていました」
――悔しいぐらいに。
「嬉しいことを言ってくれる。それから、阿賀谷戸君の娘。まさか、君が呪術師を真面目にやっているとはね」
「別に、わたしは……」
「わたしから言えることは一つだ。君が一人家に残ったって、お父さんが君のことを見てくれるなんて都合のいいことは起こらない。彼は生粋の自認正統陰陽師だからね」
「え?」
それは、端から聞いていてもやや違和感のある言い回しだった。肺助も、ノツルも一瞬顔をしかめた。
「肺助君の母君も。結局一口もいただけなかったが、あの楽しいゴルフ観戦の雰囲気だけでも、わたしがグリーンに帰ってきた意味があった。願わくば、この場所はこのまま……」
「残しませんよ。ここは森です」
「それは残念だ」椎子の毅然とした物言いに、正隆は露骨に肩を落とした。だが、すぐに気を取り直す。
「それでは、最後に。ノツル君」
ナイススイング正隆は、ノツルの方を見た。
「はい」
「わたしは、消える。こうしてもう一度、ゴルフと真剣に向き合うことで、わたしは今、宇宙と一つであることを思い出せたからだ。グリーンに還るのだ。だけど、忘れてはいけない。君はわたしに一度呪われた。この先、どんなことがあるか、わたしにもわからない」
命香一人が息を飲む。だが、ノツルは一切の動揺を示さなかった。
「大丈夫です。最初から、わたしは間違っていたんです。こんな方法で、呪術師になれるわけがない。だからといって、やったことが全部なかったことにできない。この先何が起ころうと、受け止めます。背負い続けます」
ノツルはきっぱりと言い放つ。正隆は深く頷いた。
「今のわたしはともかく、呪いの方は、なんとしてでもここを本物のゴルフ場にしようとするだろう。いいのかい。君にとっても大事な場所なのだろう」
なぜか、同情するように正隆は言う。命香も肺助も、違和感を覚えた。
「そうです。だから、わたしはあなたに言わないといけない」
ノツルは顔を上げ、消えかけている正隆をしかと見つめる。
「わたしは、あなたのことを禁じ続ける。この場所はわたしが守ります」
「……そうかい。いい顔だ。やっぱり君は、きっといいゴルファーになる。だけど、やっぱり高校生からじゃ遅すぎる。だから、君には『普通』がお似合いさ」
やれやれ、と正隆は肩を竦めた。
「……本当は、呪術師になる必要もなかった。わたしが、逃げたりしなければ」
ず、とノツルは鼻をすすり、目をこすった。
「そういうことさ」
再びノツルが顔を上げたとき、ナイススイング正隆はそこにいなかった。
ノツルは恐る恐る訊ねた。
「さあね。自分でも、もうよくわからなくなってしまった」
ナイススイング正隆は首を振った。
「ただ、十八ホールが終わったら、もう『彼』はいなくなっていた」
さっきまで喧嘩をしていたはずなのに、ナイススイング正隆はどこか寂しげだった。
「そう。それで、あなたも……」
見ると、ノツル達の前に立つナイススイング正隆の姿もまた、消えかけているようだった。
「メディアとかで言われる成仏、とはまた違う。なんだろうね、なんだか、自分のやっていることが馬鹿らしく思えたよ」
正隆は深くため息をついた。
「ゴルフは、確かに誰かと競う側面もある。だが、その本質は自分と自然と、二つにいかにして向き合うか、だ。それを忘れ、ゴルフと向き合うことから久しく、わたしは逃げていたのかもしれない」
そういって、彼はじっと、女子トークから気まずそうに顔を背けていた合儀肺助を見た。
「ありがとう、肺助君。今思えば、ゴルフ場を作って式神という立場を利用して神になろうという考えが間違っていた。人間は、一人一人が宇宙とつながっている。ゴルフをしていれば、わかりきっていたことだったのに。狙ってやったのかい?」
「ゴルフのことはよくわかりませんが、あなたがすごい呪術師だというのはわかっていました」
――悔しいぐらいに。
「嬉しいことを言ってくれる。それから、阿賀谷戸君の娘。まさか、君が呪術師を真面目にやっているとはね」
「別に、わたしは……」
「わたしから言えることは一つだ。君が一人家に残ったって、お父さんが君のことを見てくれるなんて都合のいいことは起こらない。彼は生粋の自認正統陰陽師だからね」
「え?」
それは、端から聞いていてもやや違和感のある言い回しだった。肺助も、ノツルも一瞬顔をしかめた。
「肺助君の母君も。結局一口もいただけなかったが、あの楽しいゴルフ観戦の雰囲気だけでも、わたしがグリーンに帰ってきた意味があった。願わくば、この場所はこのまま……」
「残しませんよ。ここは森です」
「それは残念だ」椎子の毅然とした物言いに、正隆は露骨に肩を落とした。だが、すぐに気を取り直す。
「それでは、最後に。ノツル君」
ナイススイング正隆は、ノツルの方を見た。
「はい」
「わたしは、消える。こうしてもう一度、ゴルフと真剣に向き合うことで、わたしは今、宇宙と一つであることを思い出せたからだ。グリーンに還るのだ。だけど、忘れてはいけない。君はわたしに一度呪われた。この先、どんなことがあるか、わたしにもわからない」
命香一人が息を飲む。だが、ノツルは一切の動揺を示さなかった。
「大丈夫です。最初から、わたしは間違っていたんです。こんな方法で、呪術師になれるわけがない。だからといって、やったことが全部なかったことにできない。この先何が起ころうと、受け止めます。背負い続けます」
ノツルはきっぱりと言い放つ。正隆は深く頷いた。
「今のわたしはともかく、呪いの方は、なんとしてでもここを本物のゴルフ場にしようとするだろう。いいのかい。君にとっても大事な場所なのだろう」
なぜか、同情するように正隆は言う。命香も肺助も、違和感を覚えた。
「そうです。だから、わたしはあなたに言わないといけない」
ノツルは顔を上げ、消えかけている正隆をしかと見つめる。
「わたしは、あなたのことを禁じ続ける。この場所はわたしが守ります」
「……そうかい。いい顔だ。やっぱり君は、きっといいゴルファーになる。だけど、やっぱり高校生からじゃ遅すぎる。だから、君には『普通』がお似合いさ」
やれやれ、と正隆は肩を竦めた。
「……本当は、呪術師になる必要もなかった。わたしが、逃げたりしなければ」
ず、とノツルは鼻をすすり、目をこすった。
「そういうことさ」
再びノツルが顔を上げたとき、ナイススイング正隆はそこにいなかった。
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