【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ

文字の大きさ
2 / 39
第一章

1.いわゆるアレでした

しおりを挟む
 あ、これはいわゆるアレですね。転生だわ・・・・・・。そう思ったのは、先程までいたエレベーター内ではなく、持っていた資料も手元にないし、代わりにフリフリの可愛らしい服に身を包んだ小さな手が見えるから。

 よくよく思い出すと、強引に湖へピクニックに連れて行ってもらったにもかかわらず、侍女の持ったバスケットを私が持つ持たないで無理矢理奪った拍子ひょうしに足をひねってすっ転び、湖へポチャン。高熱で寝込んで、前世の『資料を他部署へ持っていくのに乗り込んだエレベーター内でまさかの地震にい、建物が崩れた瞬間』を思い出しただけ。うん、前世は地震でそのままだったみたいね。建物相当そうとう古かったし、エレベーターは乗るたびにガコン!って言ってて怖かったし・・・・・・修復作業は、確か仕事終わってからの予定だったはず・・・・・・間に合わなかったらしい。

 今世は今覚えてる限りじゃ、相当我儘わがまま娘だわ。困ったな・・・・・・これで転生先が乙女ゲームの悪役令嬢とかラノベ的展開のヒロインとかなら死ぬかよくて追放か――え、嫌なんだけど。乙女ゲームなんて妹がやってたのを聞きかじったくらいだし、ラノベも通勤中に時々読んでたくらいでほぼ知識無し。あ、詰んだわ・・・・・・。


 とりあえず、そんな世界でない事を祈りつつ、もう少し我儘以外の今世の私を整理してみよう。さいわい、まだ誰も部屋に来ない朝早い時間だし。

 ベッドから出て、包帯で軽く巻かれた足を気遣きづかいながら近くの机までゆっくり歩く。けそうになかった為、何も履いていない足裏に少しひんやりと絨毯じゅうたんの感触が伝わる。熱が下がりたてのせいか、すごく気持ちいい。左足は若干じゃっかん痛いが、捻った自分のせいだし。ゆっくり歩けば、さほど痛くはない。侍女には引っ張ったりしちゃって、申し訳ないことをしたな・・・・・・。

 机の引き出しから硝子ガラス?で出来たペンとインクつぼ、可愛らしい便箋びんせんを取り出して纏めてみた。


○名前は確か『レティシア・ロゼ・ペッシャール』。
現在五歳になったばかり。四公爵家の一つ、このローズの中でも情に熱いと言われるペッシャール公爵家の一人娘。海の街で領民は漁師や我が家の対魔物用海兵隊レンジャー所属が多く、情に熱い男や女将さんたちばかり。恩義のある公爵家のただ一人のお姫様を可愛がるため、我儘やりたい放題娘だった。


 ・・・・・・今朝起きるまでは。中身はアラサーだから、我儘女は痛い・・・・・・やめよう、我儘。まだ修正可能なはず、五歳だし。それに、五歳なら子供の可愛い我儘で済むはず!!


○ピクニックは先週末。
寝込んでおよそ一週間? 手元にある小さなカレンダーに印が書いてあった。今看病していたであろう人物は部屋にいない。おそらくベッド脇に置いてあった水差しの交換。熱に浮かされても聞こえていた心配する声は、間違いなく私が困らせた張本人の侍女のジゼル・・・・・・


 ジゼル?! よかった! 情が熱い我が家なだけに、まだ解雇かいこされていないのね! ということは、ジゼルの処遇しょぐうは間違いなく今後の私の行動よね・・・・・・。まずは、関係各所に謝ることから始めようかしら・・・・・・。


○魔法超大国ローズ。
西大陸にある、魔法発展がいちじるしい国。貴族には全て『ロゼ』がつき、魔法が二つ三つ若しくは上位魔法や特殊魔法が使えるため、五歳の冬に教会で属性鑑定をしてもらって制御法を家庭教師に習い始める。私は今五歳なったばかりで、あと半年したら属性鑑定を受ける。って、五歳の誕生日にお母様が教えてくれた。そういえば、レティシアは火魔法特化型・・・・・・


 そこまで思い出して、何故かまだ知らないはずの属性魔法がわかった・・・・・・あれ? 違うな、これ。知ってるんだ。どこだったか・・・・・・火魔法特化型レティシア、レティシア。レティシア・ロゼ・ペッシャール・・・・・・レティシア・ロゼ・ペッシャールじゃん?! 思い出したわ! 前世の、しかも死ぬ直前に、妹がやり込んでた乙女ゲームの悪役じゃん!! 乙女ゲームにしては背景描写が綺麗だし、髪色や瞳の色がアニメみたいにぶっ飛んだカラフルじゃなくて好感だった。何より悪役令嬢のレティシアが当たり前のことをしただけなのに、彼女を我儘女呼ばわりする攻略対象たちがめたんじゃないかって言う冤罪で別大陸にまで追放されたんだよ――って、涙ながら熱く語る妹をなだめるのに大変だったわ・・・・・・。死ななかっただけいいじゃないって宥めたわ、当時。

 妹は、小麦色の肌に映える少し赤みがかったダークブラウンの髪と琥珀色の瞳を持つレティシア推しで、私も綺麗なお姉さんだと思ったわ・・・・・・きっついドリル装備してたけど。ゆるふわパーマにしたら可愛いのにとレティシアの絵を描いては、二次創作仲間達ときゃっきゃっしてたな・・・・・・妹。確かに、ゆるふわパーマのレティシアは悪役令嬢ではなく、外国の女優さんの様に美人だった――て、そこじゃない! 追放だわ! このまま我儘では、攻略対象たちの思い通りの我儘女で追放よ! 何故かどのルートでも追放になるのよ、婚約者は固定なのに。なんでよ?! どんだけ皆レティシアの事嫌いなのさ!


 ・・・・・・やっぱり、我儘治すにはまず先日の謝罪からにしよう。幸いにも中身はアラサー社会人、それなりに知識もある。何よりレティシアが可愛いと言う情報以外、この乙女ゲームの情報は誰が攻略対象だったかくらい。タイトルすら聞いてない――なんでよ?! 妹よ! もう少しオタクっぽい突っ込んだ内容を、何故姉に教えなかった!! 会えばレティシアがどれだけ可愛いのか・・・・・・しか教えてもらってない! あの芸能人が格好いいだの可愛いだの聞いてるノリで、レティシア可愛いって聞いてたじぶんも悪いと思うけど!

 ・・・・・・いや、今いない妹に頼んでもしょうがない。とにかく! 追放は嫌だし、我儘女も嫌。ラノベみたいに小言こごと言って嫌がらせされたなんて言われたくないし、それよりも乙女ゲーム自体に参加したくない・・・・・・よし!籠ろう! まずはジゼルに謝って、関係各所にも謝りに行って――籠る!

 ・・・・・・公爵令嬢としての社交もあるから、最低限こなして出来るだけ家から出ない! よし!そうしよう! お母様怖い・・・・・・のも思い出したから、最低限頑張ろう!!


 ・・・・・・まずは、ジゼルが戻ってくるまでもう一回休んどくかな。立ったり書いたり打ちひしがれたり、一人動いてのどは乾くし、お腹空いてきたわ。

 そういえば、この世界って、乙女ゲームの世界だから日本と同じ調味料ってあるのかなー。あったらご飯とかお菓子とか作りたいな・・・・・・妹の話聞きながら、よく作ってあげるくらいには料理が好きだったし。でも、公爵家の御令嬢だと普通は無理よね・・・・・・。

 とりあえず寝て、起きてから考えよう。
 



 机の上を手早く片付け、先程よりも登った日差しがベッドの脇を照らし、明るくなってきた部屋の中でまた布団に入ることにした。急に動いたおかげで、身体中からだじゅうギシギシ言っていたけど、気にしない。

 お腹すいたわ・・・・・・。あ、ポテサラの口になってきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧乏で凡人な転生令嬢ですが、王宮で成り上がってみせます!

小針ゆき子
ファンタジー
フィオレンツァは前世で日本人だった記憶を持つ伯爵令嬢。しかしこれといった知識もチートもなく、名ばかり伯爵家で貧乏な実家の行く末を案じる毎日。そんな時、国王の三人の王子のうち第一王子と第二王子の妃を決めるために選ばれた貴族令嬢が王宮に半年間の教育を受ける話を聞く。最初は自分には関係のない話だと思うが、その教育係の女性が遠縁で、しかも後継者を探していると知る。 これは高給の職を得るチャンス!フィオレンツァは領地を離れ、王宮付き教育係の後継者候補として王宮に行くことになる。 真面目で機転の利くフィオレンツァは妃候補の令嬢たちからも一目置かれる存在になり、王宮付き教師としての道を順調に歩んでいくかと思われたが…。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...