【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ

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第二章

2.ヒロインとゲームスタート?(2)

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 中庭に着いてすぐ、彼らに振り返って話し出した殿下。めずらしく、素の笑顔で。腰は抱かれたままなのが気になるけど――いや、離してほしいわ。


「久しぶりだなディオン。お前の立太子の式典以来か?」
「あぁ、そうだな」
「まさか本当に留学してくるとは・・・・・・」
「俺だって、お前みたいに直ぐに会いに行ける距離じゃないんだ。大事な婚約者とは、出来るだけ側に居たいだろ?で、彼女が俺に隠してた婚約者殿だろ?」


 確か半年前に、殿下はネモフィルに公務で行っていた。立太子の式典に行っていたのね。私が殿下にあの・・笑顔でお留守番を言われた時ね・・・・・・というか、仲良し? 他の人がいるのに、素が出てる。


「あぁ、西公さいこうペッシャール家のレティシアだ。お前に見せるのがもったいないくらい、綺麗だろ?それにとても優秀なんだ。レティ、こいつはネモフィルの王太子のディオンだ」
「いや、確かに綺麗だけど! こいつはないだろう・・・・・・ったく。初めましてだね? 俺は、ディオン・ネル・マラン。この子は、俺の愛しの婚約者のアメリー。隣は、彼女の継妹いもうとのアリスちゃん」


 殿下を小突こづいてる王太子は――えっと、確か隠れ攻略対象。チャラ男枠で、婚約者いなかったって聞いてたけど・・・・・・やっぱりゲームとは違うのかな? 全然チャラ男じゃないし。

 とりあえず、学院では一応身分差はかんがみないものの、今は紹介されたので略式の挨拶で応えることにした。アルバの特に西大陸では、上位貴族は略式挨拶が一般的の為、失礼にならないのがありがたい。こう言う、非公式な場面では特に困らないしね!


「レティシア・ロゼ・ペッシャールです。お目にかかれて嬉しいです」


 右側は捕縛ほばくされているので、右手を左胸元に添えれず、ワンピースの左下側を少しつまむだけしながら会釈えしゃくをする。略式挨拶は本格的にカーテシーをしなくて良いし、男性同士の場合は右手を左胸元に添えながら左手で握手あくしゅをするのがアルバ式。

 あ、学院や学園は制服がなく、普段着に学院・学園の其々それぞれの紋章入りローブを羽織るだけよ。私も今日は水色のシンプルなワンピースの上に、学院の紋章入りローブを着てる。殿下たちも、シャツにパンツ姿でローブを羽織ってる。

 私にならって、アリス達も挨拶をしてくれた。たまに何を勘違かんちがいしたのか、挨拶返さないで話し込む人いるんだよね。この貴族社会で喧嘩けんか売るって、すごいなって思うよ――無視するけどね。こっちは公爵家だし。それだけでお里が知れちゃうからね。

 とりあえず、アリスが間違いなく従姉だと思うけど、そうじゃなくても同じ日本から来た・・子のお家の人が、普通に挨拶を返してくれる人で良かったわ。


「アメリー・ロゼ・タイヤールです。こちらは、継妹いもうとのアリスです」
「アリス・ロゼ・タイヤールです」
「そういえば――タイヤール伯爵家の御令嬢をお前が婚約者にしたいからって、陞爵しょうしゃくの話が出ていたな」
「あぁ。ただ隣国に嫁ぐには問題ないが、相手が俺って言う王族っていうか・・・・・・王太子だしな」


 そういえば、西大陸の王族に嫁ぐ場合は、どの国でも侯爵家以上となっている。魔物と共に生きているこの世界では、魔法が使える人が王侯貴族になった歴史があった為、上位になればなるほど強い。国を守るために、賢王と呼ばれた七代前の王様が西大陸王議会で結ばれた協定だ。当時は下位も関係なく、貴族なら王族と結婚できたけど、数代魔力が薄まって領地を守れないものが続出してしまった。そのために、上位には領地を守る責任と義務が課された。この時、各国の公爵家が正式に領地の守護者として配置された――らしい。西公爵家わがやは元々西の広大な土地を治めていた侯爵家だったから、位だけ上がったって聞いたわ・・・・・・ルブーフ先生の学院前最後のお勉強で。


「まあ、元々ここ数年の貢献度こうけんどと魔力からして陞爵予定には入っていたから、時間次第だったんだろうが」
「なら、問題ないだろ? いやーそれにしても! 絵姿しか見てなかったけど、ペッシャール嬢は本当に美しいね!」
「待て! 絵姿ってなんだ!? 聞いてないぞ!!」
「仕方がないだろう? お前が隠すから・・・・・・」


 仲良さそうに二人で話し出した男性陣は放っておいて、改めてアリス達の方に向き直った。ついでに、殿下の手をさりげなく腰から離してもらう。気づいてチラッと見られたけど、アリス達の方を指すと渋々しぶしぶ離してくれた。こっちだって、優秀かなんて自分で思ってないのに言われて、口挟むの我慢したんだから。少し離れるくらい我慢してほしいわ・・・・・・べつに、中庭から出て行くわけじゃないのにね。時間が許すなら、ゆっくり見て回りたいくらい絵画を切り取った様な綺麗な中庭だし。


「改めて、初めましてですね。学院では身分関係なく先輩後輩、また同期生としてよろしくお願いします」
「「こちらこそ、よろしくお願いします」」
「アメリーさんは、在学生の席へディオン殿下と行かれるのですか?」
「えぇ。本当はアリスを送ってからの予定でしたが、この子ったら家すら先に出てしまって」
「アリスさんさえよければ、先程お話したように私と新入生席へご一緒してもよろしいかしら?」
「よろしいのですか?」
「えぇ。私も、リオネル殿下とここで別れて入場になるので。それに、学院に来てすぐにこんな可愛らしい先輩とお友達が出来てしまうなんて、とても嬉しいのです」


 ニコッと微笑むと、アメリーから感嘆かんたんの声がれた。それにしても、色合いは違えど二人の顔そっくりで双子みたい。

 妹の話によると、お継姉ねえさんはシルエットモブで顔はわからなかったはず。それに、一つ下のヒロインをいじめていたって設定だったけど・・・・・・見るからに仲よさそうな姉妹よね。今も「よかったわね」なんて言いながらアリスの頭でてるし、アリスも嬉しそうだし。やっぱり、二人っきりになってからアリスには色々聞かないといけないわね。

 殿下達は雑談が終わったのか、声をかけてきた。


「レティ、俺たちは先に行くが・・・・・・」
「私は、こちらのアリスさんと新入生席へ向かいます」
「じゃあまた後で」


 殿下は「ね?」っとウィンクしながら私の頭を撫で、ディオン殿下とアメリーさんを連れて会場へ向かっていった。

 リオネル殿下の方がチャラ男枠取りそうだななんて思いながら、手を振って見送った。あ、あれはレティシア限定だったか。


「あの・・・・・・」


 彼らが見えなくなってから声をかけてきた、乙女ゲームのヒロインであるアリス。ここからゲームが始まるのか、もうすでに始まってしまっているのか。はたまた、ゲームは始まらないのか。

 そして気になるのは、先程の日本語・・・と『ニカ・・』。新入生入場まで、まだ時間はある。この奥まった中庭には、私たち二人だけ。




 春のうららかな日差しの中、学院と言う新生活とは別の緊張感が二人の間に漂いはじめた。あ、お腹痛くなってきた・・・・・・誰か代わってー・・・・・・。
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