皇女殿下の山吹の花~最推しは『名も無きモブ』ですが?~

蕪 リタ

文字の大きさ
8 / 10

8

しおりを挟む
「皇女殿下には、婚約者がいらっしゃったので……この想いを伝えるつもりはありませんでした」

 そう言って手にするわたくしの左手を、ゆゆっ指先をっ親指で撫でないでくださいましぃぃぃ――っ!

 指先から伝わる推しの体温と、映りたかった推しの瞳が恍惚とした輝きをはなって目の前に……恥ずかしいのに、喜んでいる自分がッ。お落ち着け、落ち着くのよハルフリーダ。推しとは直接の・・・接触は初めて・・・のはず! なっなの、に、熱を帯びているようにみ、える瞳……なんで? いや、ますますわからないんですけど!?

 とっととりあえず、まず確認せねば! わたくしなんかと接触するのは所詮得られる『地位』のため。そう、そうよ。そう考えると、すこ、し……ぅう、ガンバって落ち着くのよハルフリーダッ!



 右手で隠れているあたりで、ゆっくりと深呼吸をして……赤みが引くことはない頬は仕方がないけれど、ほんの少し落ち着くことができた。ドキドキと鼓動は高鳴るが、少しでも落ち着きを取り戻せたので淑女の仮面をギリギリ装着。鼓動が聞こえないよう胸元で押さえる形にはなっているが、右手を顔の前から移すことができた。

 彼の本心を探るため、左側に体を向けると――はうっ、やっぱりかっこいいぃぃッ!

「皇女殿下。いえ、ハルフリーダ様。私は、」

 話始めた彼の顔の前に、スッと右手を出して話を止めた。ギリギリ装着した仮面が落ちないよう、淑女の微笑みで返したわ。

「――その先を聞く前に、ひとつお伺いしたいことがありますの」

 少し驚いていた瞳から真剣な瞳に変わり、了承の意で頷き返してくれたわ。推しの、最推しのいろんな表情が! 心のアルバムにたまってい――お、落ち着け。落ち着け。先に進まないわ。ガンバるのよわたくし!!



 ふぅーと少し長めに息を吐き、推しへの愛に内側の奥底へお帰りいただいた。

「わたくし、ジャック様と直接お話ししたことも、元婚約者の護衛としてお会いしたこと以外にお会いしたこともないはずでは?」

 そう言うわたくしに、ジャック様は胸ポケットから大事そうに何か取りだし、彼に捕まっていたはずの左の掌に乗せてくれましたの。これは――栞?

「……あの、これ――え? 山吹の花?」

 よく見ると、わたくしの愛用の――先程壊してしまった扇の房飾りと同じ山吹の花がそこにあった。これは、山吹の花の押し花?



 栞から視線を彼に移すと、目を細めて山吹の花を見つめていたの。とても、う れ し そ、うな?

 そんな彼の口から、懐かしい話がポツリポツリと聞こえてきましたわ。

「その花は…………私が無我夢中で、訓練にあたっていたときに。うすべにの――春色をした瞳の天使様に、いただいた宝物です」
「……うす、べ に、の?」

 だって、薄紅の瞳は――

 不意に山吹の花から顔をあげた彼と、絡まる視線。

 はい、と嬉しそうに微笑まれたジャック様のお顔が、遠い記憶の……幼かったあの日に出会った黒髪の少年と重なった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

処理中です...