殺したいほど憎いのに、好きになりそう

味噌村 幸太郎

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第八章 ディナーデート

すれ違うインフルエンサー

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 お姉ちゃんがコーディネートしてくれた今日のファッションだが……。
 どうやら鬼塚には、かなり刺激が強かったようだ。ずっと俯いて歩いている。
 
「ねぇ、鬼塚」
「え? な、なんのこと?」

 かなり動揺しているな。
 まあ藍ちゃんは中一のくせして、もう身体は大人の女性に近いからな。

「その腕、まだ痛む?」

 そう言って、俺が白い三角巾を指差す。

「あぁ、右腕のことか。痛みはもう感じないよ。どうやら俺は治りが早いらしいんだ。来年にはギブスを取ってもいいって」
「へぇ~ 良かったね。じゃあ来年からまたバスケ部に復帰できるんでしょ?」
「うん! でも、それまでに他の部位を鍛えるようにしているんだ! だってチームのレギュラーメンバーが使えないんじゃ意味ないだろ?」

 バスケの話になったら、いつものように瞳を輝かせて熱く語り始めた。
 彼が言うには、腕が折れてから左腕だけで腕立て伏せができるようになったらしい。
 本当に筋肉バカだな。
 
 
 両刀りょうとう工業大学の敷地内には、付属高校である両刀高校もある。
 俺たちが歩道を歩いていると、左側に大きなグラウンドが見えて来た。
 グラウンドは大きなライトで照らされており、アスリートを夢見る若者が厳しい練習をこなしていた。
 その中にひと際目立つ青年がいる。

「ヤーーーッ!」

 広いグラウンドをものすごい速さで走り回っている。
 常人ならば、一周に何十秒もかかるというのに、この青年は40秒ぐらいで走り終えている。
 しかも短距離走ではなく、長距離を全力で走っているから驚きだ。

「あ、”もりもりにんに君”だ」

 思わず口からこぼれてしまった。
 しかしこの俺の発言が、鬼塚の地雷を踏んでしまったようだ。

「はぁ!? ”中川先輩”だろ! なに言ってんだ、水巻……」
「ご、ごめん……」
「前から思ってたんだけど。なんか水巻さ、中川先輩のことバカにしてないか? 訳の分からない名前で呼ぶし」
「いやいや、バカにしてないよ。むしろ憧れてるって! あんなストイックな人を見たことないもん」

 まあ俺の憧れは、後に芸人としてデビューするもりもりにんに君のことだが。

「そっか、ならいいんだけどさ。俺からしたら、中川先輩はバスケ選手として尊敬しているからな。小学校の時、中川先輩の試合をたまたま見てバスケに興味がわいたんだ」
「え? そうだったの……?」
「ああ、言わなかったけ? あの人がいなかったら、今の俺はいないよ。だからこそ、俺は先輩のあとを追いかけて、必ずプロのバスケ選手になってみせるぜ!」

 と左手の親指を立ててみせる鬼塚。
 まあ、この時代ならバスケ選手としての中川先輩が評価されているのだろうけど。
 あと数年後には、芸人になるんだぞ?
 その時、鬼塚がどう真実を捉えるんだろう。
 
 未来を知っているだけに、この時代の人間に合わせるのが辛くなる時があるな。
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