75 / 94
第八章 ディナーデート
コスパの悪い女
しおりを挟むイタリアンレストラン、”T・REX”。
鬼塚から話を聞いたがオープンして30年ほどの老舗で、地元民から長いこと愛されているそうだ。
とりあえず、メニュー表を広げてみる。
「う~ん、生パスタが売りなのかぁ……どれにしよう?」
俺が迷っていると、目の前に座る鬼塚が「今日はおごりだから値段は気にするなよ」と笑う。
「え? なんで?」
「だって、今日はうちの母ちゃんが『水巻にお礼したい』って言ったろ?」
「あ、ひょっとしておばさんが支払ってくれるの?」
「うん! だから水巻はなんでも頼んでいいからな」
その言葉を聞いて、俺のテンションは爆上がり。
すぐさま近くにいた女性店員を呼びつける。
「あ、ご注文はお決まりですか?」
と問われる前に俺はメニュー表を開いて、とある部分を指差す。
「この、たらこパスタとペペロンチーノをビッグサイズでください! あとサラダとケーキとスープもください!」
一気に注文したから、店員が慌ててオーダーをメモする。
「あのお客様……サラダとスープ、それにケーキもつけるなら、セットの方がお得ですよ?」
「え? でもケーキをこのチーズケーキとショートケーキ。それからフールツタルトも頼みたいんですよ。それでもセットになりますか?」
「いえ、それだとできませんね……」
俺の胃袋に困惑する店員を無視して、更に注文を追加する。
「それから、ピザも食べたいんですよ。マルゲリータとシーフードをください。えっと……私は以上です。鬼塚はどうするの?」
と鬼塚の方を見ると、彼は真っ青な顔をしてこちらを見つめている。
「……た、足りるかな?」
「へ? なにが?」
「いや、水巻は気にしなくていいよ。すみません、俺はスープとサラダだけでお願いします」
「か、かしこまりました……」
なぜか、苦笑いでその場を立ち去る女性店員。
「鬼塚。本当にスープとサラダだけで良かったの?」
「ああ……俺、今減量しててさ。今日はあれだけでいっぱいだよ」
「ふ~ん、やっぱりバスケのため?」
「そうそう……だから、水巻は気にせず食べてよ」
なんだろ? 彼の態度が一変してしまった気がする。
※
「お待たせいたしました。こちら、たらこパスタとペペロンチーノのビッグサイズ。あとマルゲリータとシーフードですねぇ~」
目の前に並べられた豪華な食事を見て、思わずよだれがこぼれそうになる。
「うわぁ~! どれもおいしそう! 本当にこれ全部私が食べていいの?」
「ああ……俺はお腹いっぱいだからさ」
彼の前に置かれたのは、小さなサラダとスープのみ。
よくわからないけど、鬼塚のおばさんが払ってくれるんだし、ここは甘えさせてもらっていいんだよな。
「いただきまぁ~す!」
鬼塚や優子ちゃんの言う通り、この店のパスタとピザ。どれも外れのない美味い物ばかりだった。
特に生パスタが素晴らしく、ビッグサイズを二つも食べたのに、俺はおかわりを頼んでしまい、鬼塚がドン引きしていた。
食後にケーキを出されて、これにも感動を隠せない。
「優しい甘さがたまらん! またおかわりしたくなってきたぁ~!」
「え……?」
「すいませぇ~ん! チーズケーキをもう一つください!」
それからしばらく鬼塚は黙り込んでしまい、俺ひとりで食リポしていた。
「くぅ~ どれも美味しい! この店、また来たいかも~」
俺の胃袋がようやく満たされたことで、鬼塚とカウンターに向かう。
会計前に女性店員からコートを渡されので、俺がコートを羽織ろうとしていたら、鬼塚が財布を開いて顔面真っ青で固まっていた。
「あ、やっぱり足りない……小遣いを足せば、いけるかな」
気になった俺は鬼塚へ声をかける。
「どうしたの? お金が足りないなら、私も出そうか? たぶん二千円ぐらいなら財布に入っていたよ」
「い、いや……今日は水巻へのお礼だからいらないよ。大丈夫、きっと足りるから……」
なんか悪い事しちゃったかな?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる