殺したいほど憎いのに、好きになりそう

味噌村 幸太郎

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第二章 それでも気になる

嫌だから

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 ボーっと授業を受けていたら、すぐに一日が終わってしまった。
 まずい……中学1年生のレベルでも難しすぎた。
 中身は義務教育を終えて25年以上経った、アラフォーのおっさんだもの。
 しかし、これから学び直すのにも苦労しそうだな。
 塾とか通った方が良いのかな?

 そんなことを考えていると、後ろの席にいた優子ちゃんが指で肩をつついてきた。

「藍ちゃん、一緒に帰ろ?」
「あ、うん……」

 鞄に重たい教科書とノートを全て入れて、立ち上がる。
 隣りの席にいた鬼塚は、もういない。
 帰ったのかな?
 あいつ、一日中ヤンキーにいじめられたもんなぁ。
 俺ならすぐ不登校になるわ。


 優子ちゃんと教室を出て、廊下を並んで歩く。
 
「そう言えば、優子ちゃん」
「なぁに?」
「俺……じゃなかった私って、部活は入ってないの?」
「へ? 藍ちゃんは運動系が苦手だし、人見知りだから嫌がってるじゃん」
「あ、そっか……」

 美少女だけど、陰キャなのか。
 部活の話から優子ちゃんの思い出話に火がつき、藍という少女のエピソードを聞かされることに。

「なんかさ、給食の時間も全然食べられなくて、小説ばかり読んでいたのに。今日はがっついてたよね」
「あ、ちょっとお腹が空いてて……」
「藍ちゃんらしくないよ~ 鬼塚くんにケンカ売るし、大食いだし~ まるで別人みたい!」
「それは……」

 本当に別人なんだよ。
 中身がおっさんなんだって! とは言えないものな。

  ※

 一階まで降りてくると上履きを脱いで、下駄箱に入っているスニーカーを取り出す。
 スニーカーへ足を入れようとしたら、どこからか叫び声が聞こえてきた。

「やめろーっ!」

 甲高い少年の声。
 中庭の方からか?

 その声に、俺と優子ちゃんはお互いに目を合わせてみる。

「なんだろ?」
「ちょっと、のぞいでみようか?」

 二人して、玄関から顔だけ出して、中庭の方をのぞいてみる。

「やめろって言ってんだろ! 離せよっ! いい加減にしろ、お前ら!」

 その声の持ち主は、鬼塚だった。
 複数の学ランを着た少年たちに身体を抑えられ、身動きが取れないようにされている。
 鬼塚を抑える少年たちは、みなニヤニヤと不気味に笑っている。
 
 あ、こいつら……思い出した。
 間違いない。俺をいじめていた鬼塚の子分たちだ!
 それが今じゃ、親分をいじめる側に入ったって言うのか?
 中学生ってガキだと思ってたけど、なんか残酷な世界だな。

「それじゃ、いくぜ! お前ら、鬼塚を避けられないように押さえておけよっ!」

 鬼塚から少し離れた所で、赤色のユニフォームを着たヤンキーが、バスケットボールを手に持っている。
 よく見れば、鬼塚も同じユニフォームを着ていた。
 こいつらひょっとして、バスケットボール部の部員同士なのか。

「おらよっ!」

 そう言って、ヤンキーが投げたボールは誰にも当たらず、近くの壁に当たって、地面に転がってしまう。

「クソっ! 鬼塚、避けんなって言ってんだろ!」

 うわ……よく見ると、このヤンキー。かなり目つきが怖い。
 髪色が明るいというか、金髪だし。人を傷つけるのにためらいとか、無さそう。
 女で良かったかも。

「うるせぇ、天ヶ瀬あまがせ! とっとと、俺のボールを返せ! ダセェんだよ、お前のやってること全部!」

 お、やられっぱなしのくせに、反抗するな。鬼塚のやつ。
 
「あ~ ちょっと、ムカついてきたわ。次はマジだからな。股間に当てたらスリーポイントだから」

 股間にあんな硬くて大きなボールをぶつけるとか……怖すぎ。もう、俺には玉が無いけど。
 想像しただけで、気分悪くなってきた。
 
 天ヶ瀬と呼ばれたヤンキーがボールを勢いよく、投げる。
 褐色の小柄な少年へ向かって、バスケットボールが股間にダンクシュートされると思ったが。
 ボールは、空中で止まってしまった。

「おい! デカ女っ! なにしてくれてんだよ!?」

 その時の俺は、どうかしていたんだ。
 両手にバスケットボールを抱えて、羽交い締めにされた少年を上から見つめる。
 どうやら、俺の取った行動に驚いているようだ。

「はい、これ」

 そう言って、鬼塚にボールを渡す。

「お、おう……ありがと。水巻」
「そんなことより、こっちに来なよ」

 鬼塚の小さな手を掴むと、その場から走り去る。
 もちろん、ヤンキーが叫んで怒っていたけど。それでも、このまま彼を置いていくのは嫌だった。
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