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第三章 1995年の休日
恥ずかしい
しおりを挟む店のカウンターを借りてその場で説明書も読まず、さっさと”ミニモーターカー”を作り上げる。
前世では、何個も買って作っていたから余裕だな。
たった数分間で俺が作り上げてしまったので、これには店長であるおじさんも驚いていた。
「はぁ~ 女の子なのにすごいねぇ……」
「フッ、子供の頃はしょっちゅう遊んでいたので」
と照れくさそうに、人差し指で鼻をかいてみせる。
しかし、それを聞いたおじさんが、冷静にツッコミを入れて来た。
「何言ってんの? お嬢ちゃんはまだ子供だろ?」
「う……」
まあ身体だけ見れば、そうだよな。
※
店を出ると、男子小学生たちがサーキットで盛り上がっていた。
「いけいけ!」
「俺の方が速いって!」
見ているだけで、自然と身体が反応してしまう。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんじゃなかった……お姉ちゃんもレースに参加していい?」
少年らに聞いてみると、俺の姿を見て困惑していた。
「別にいいけど……お姉ちゃんは女の子だよね? マシン持っているの?」
「もちろん! この”ブロッガンG”を持ってるさ!」
先ほど組み立てたマシンを少年らに見せつける。
新発売のマシンを見て、男の子たちが一斉に声をあげる。
「すごい! 新発売のやつじゃん。お姉ちゃんも好きなんだぁ」
「あれ、今スゲーって話題のやつじゃん!」
少ないお小遣いでやりくりしている小学生とは違うのだ。
金に物を言わせて、カスタマイズしたマシンだからな。
「じゃあ、お姉ちゃんと競争しよっか?」
「うん! いいよ、勝負しよう!」
~10分後~
「ああ~ また負けた! なんで、こんなに速いんだよっ!」
悔しがる少年の姿を見て、ほくそ笑む。
「フフッ……こう見えて、お姉ちゃんはかなり強いのよ?」
連勝して気持ちよくなった俺は、少年たちに再度バトルを申し込む。
「ねぇ、もう一回レースしようよ?」
「え~ お姉ちゃんのマシン、速いから嫌だなぁ……」
「いいじゃん。今度はお姉ちゃんの方が負けるかもよ?」
「ううん……」
負けることが怖いのか、少年たちはすっかりやる気が無くなってしまったようだ。
しかし、一連のレースを黙って見ていたひとりの少年が俺に近づいてきた。
「あの、お姉さん。ちょっと、そのマシンを貸してくれませんか?」
「え? なんで?」
「ちょっと、マシンの中身を見てみたいので……」
そう言うと、眼鏡をかけ直す少年。
なんか見るからに頭が良さそうだな……どこの界隈にもいる博士ぽいオタク。
「まあ良いけど……」
俺は黙って彼にマシンを渡してみた。
受け取ると、ボディを外してシャーシの中を黙って見つめる。
しばらく見つめていると、ある部分で目が留まった。
「これはっ!?」
口を大きく開いているので、えらく驚いているように見えるが。
何か問題でもあったのか?
「どうしたの?」
「お姉さん! これは店内で売られている最強最速モーター、”鬼モーター”ですよね?」
「うん、そうだけど……。それがどうかしたの?」
俺がそう言った瞬間、少年は眉間に皺を寄せて、下から睨みつける。
「これは大会でも利用してはいけない、”魔改造”モーターです! お店のルールにも書いてありますよ! 立派な違反行為でしょ!」
「え……?」
「一人で楽しむ分には良いのですが、このモーターは公式からもレース使用禁止となっているのです! なのでお姉さんの連戦連勝は無効となりますっ!」
「なっ!」
知らなかった。前世での俺はいつも一人で平日の昼間にレースしていたから。
競う相手がいなかったんだ。そんなルールを知るわけがない。
その後、少年たちに囲まれた俺は「ずるい!」「大きいのに!」だの罵倒され、もうレースに入れてもらえなくなってしまった。
「なんだよ……レースと言っても、遊びだろ。追い出さなくてもいいじゃん」
と魔改造認定されたマシンを眺めていたら、どこからか視線を感じた。
振り返ると、そこには褐色肌の少年が突っ立っていた。
ツンツン頭の鬼塚だ。
「うっ!?」
恥ずかしいところを見られた……。
でも、こいつもこの模型店に来たってことは、レースをしたかったのか?
しかし鬼塚は何も言わず、黙って店内に入って行く。
無視かよ!
挨拶ぐらいしろ、女子中学生がレースしてたんだから……。
クソ、一番見られたくない相手に見られた。
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