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第二章『魔法少女を襲撃する者』
Act.05:ブルーサファイアとリュネール・エトワール②
しおりを挟む「魔物……でも今回はスルー」
「そうね。今回目的は魔物じゃないし」
俺ことリュネール・エトワールはハーフモードにて、魔物の出現した場所近くを歩いていた。
魔法少女を襲っている犯人は一般人を装ってる。だから普通に探すのは無謀であり、それなら向こうから出てくる所を抑えれば良い。
この方法でも問題はある。犯人が何処に出現するかというのは分からないからだ。これまでの経緯からするに、犯人は魔物が出現した場所に出てくる。
そして、逃げ遅れとかそういうのを装って魔法少女を誘き寄せるのだ。それが全て共通した手口。
ラビレーダーで魔物を感知したら素早くその近くに移動し、そしてハーフモードに切り替えて一般人に紛れ込む、そんな状態が今だ。
今回出現するとも限らないので、この方法では根気良くやらないと駄目だ。それに犯人らは一時、現れなくなっていた時期もあったしな。
既に数名の魔法少女が魔物を相手しているのを民衆の中から確認する。逃げ遅れが居ないかもチェックする。
「……居なさそう」
「そうねえ……」
特に怪しいと思う人物は居なかった。今回は外れ……と思い、その場を立ち去ろうとするが、その行く手を阻む者が居た。
「ん?」
「似てますね……」
目の前に居るのは一人の少女。
見た感じ、中学生くらいだろうか。確かに今日は休日ではあるが……何だろうか、何処かで会ったことあるような……。
「(その子から魔力を感じるわ。これは変身できるレベルよ)」
「(この子、魔法少女?)」
「(多分ね)」
どの魔法少女かは分からない。だが、この既視感からして、魔法少女として何処かで会ったのかもしれない。
「何か用?」
「その喋り方も……」
黒髪のセミロングの女の子はこちらを探るような視線を向けてくる。あれ、向こうも同じこと感じてるのか?
「ちょっと、良いですか?」
「別に良い、けど。何?」
そう言うと俺の手を掴み、そそくさに近くにあった建物の裏へと連れていかれる。あれこれって、体育館裏に来いっていう、良くあるあれなのでは? 俺何かした?
「リュネール・エトワール」
「……」
その言葉にドキッとする。
あれ正体ばれた? まあ、髪色は違うけど、リュネール・エトワールの姿のままだもんなー。
「やっぱりそうなんですね。……すみません、探る事してしまって。でも安心してください、別にどうこうするつもりはありませんから」
「もしかして、ブルーサファイア……?」
「その通りです。やっぱり分かりますか」
パチンと、ブルーサファイアと少女の姿が重なる。
ブルーサファイア……Bクラスの茨城地域の魔法少女で、前回被害に合った魔法少女だ。何でこんなところに?
「何でこんな所に?」
「何となく察してるんじゃないですか?」
「まあ、ね。犯人捜し」
「正解です」
魔法少女ではなく、変身前の普通の人の姿でこの場所に居る。魔物が近くに居るのに変身もしてない。
「同じ仲間の魔法少女を囮にするのは気が引けますが、でも犯人が捕まらないと続くと思いますし、ね。あ、勿論魔法省からの許可は貰ってますので」
「なるほど、ね」
「! いきなり何するの!?」
気付いたら俺はブルーサファイアの頭を撫でていた。いや、本当何してんだ俺。いやまあ、襲われたって言うのは聞いてるから心配はしてたけど。
「襲われたんでしょ」
「……はい」
それを言えば急にしおらしくなってしまう。
「怖かった?」
「……少し」
本当に少しかは知らないが、まあ、そりゃあ怖いよな。
いくら、外傷がないとはいえ守るべき一般人に短剣を刺されるって。しかも、急に力が抜けるらしいからな。
そして何より、魔法少女とはいえまだ年端も行かない女の子のはずだ。
「どんな感じだった?」
「刺された直後は何とも無かったんですけど……少ししたら急に体が倒れて。逃げようにも手も足も全然動かなくて、何もできなかった、です」
今にも泣きそうな顔してる。これ、どうするかな……何かした方が。うーん……リュネール・エトワール、今だけこの身体を使わせてもらうぞ!!
「……っ!?」
「大丈夫」
若干俺の方が身長が高いけど、やはり小さい。10センチ以上は下がってるんじゃないかこれ。
そんな身体ではあるが、ブルーサファイアを抱き寄せる。これが本来の姿なら犯罪待ったなしだが、今はリュネール・エトワールなので、大丈夫だ、多分。
「何も……出来なくて」
「うん」
「体も言う事聞いてくれなくて……近くには気味悪い顔で笑う男がいて、どうしようも無くて怖かった」
ただ襲ってくる魔物ではなく、明確な悪意を持って危害を加える一般人……ぶっちゃけ魔物より質が悪い。
「このまま死ぬかなって思って……」
「うん」
肩を震わせながら、言葉を紡ぐ彼女。俺はただただ背中をさするくらいしかできないが、しないよりはマシかね。
少ししてついに静かではある物の、泣き始めるブルーサファイアだった。
□□□□□□□□□□
「ごめんなさい」
「落ち着いた?」
「何とか」
魔物はとっくに討伐され、外は少し静かだ。
建物裏にブルーサファイアに連れていかれ、リュネール・エトワールってバレたという。そして泣いたせいで目が赤くなってる少女ことブルーサファイア。
「実は、私がこの場に居たのは犯人を見つける為というのもあるけど、実際は休養なんだ」
「休養?」
「うん。噂の短剣で刺された時の事を思い出すと、凄く怖くなってその場にしゃがんじゃうんだよね、今」
「……」
何か喋り方変わってるのは突っ込むべきなのだろうか。まあ、今ここで突っ込むのはKY過ぎるのでやめるが、こっちが素なのかもしれないな。
「そんな訳で休養。変身は特に禁止されてないけどね。犯人捜しについて許可貰ってるって言うのも一応本当だよ」
「なるほど」
妥当な判断だとは思う。
早く言えば、ブルーサファイアはその時のことがトラウマとなってる。だから思い出すと恐怖でしゃがみ込む……変身してもその状態になったら危険だしな。
「でもその状態で、犯人捜しは危険」
「うん、分かってるんだけど……」
また同じことされたらどうするのか。
いやまあ、今は変身してない一般人状態だから向こうも気付かないかもしれないが……。
「犯人捕まえたら治るかなって」
「……無謀」
「うっ……でもそんな事言ったらリュネール・エトワールも野良で魔物と戦ってる。それも結構無謀な気がする!」
「わたしは強いよ」
「強いのは分かるけどね……」
かといって慢心はするつもりはないが。
「後、この姿で魔法少女名を呼ぶのはNG」
「そ、そうだったね……私は色川蒼、蒼って呼んで」
「名前ばらしていいの?」
「魔法少女同士だし……こっちは教えたんだからそっちも教えてよ!」
「勝手に自己紹介されただけ」
「うっ」
「冗談……わたしは如月司。呼び方は好きにして」
つい本名を名乗ってしまったが、まあ、ありがちな名前だし大丈夫だろう。でも、名前を魔法省に知られたら拙いか?
「大丈夫、名前は誰にも言わないから」
「分かった?」
「うん。野良で戦ってるのには理由があるんだってもう分かってるし。魔法省もそう思ってるから詮索はしないと思うよ。ただ魔法が強力過ぎるから要注意人物としては見られてるかも」
「要注意人物……」
うん。
前に見せたあのメテオスターフォールはやばいもんな。ただでさえ脅威度Aの魔物を普通にスターシュートでワンパンもしてる訳だし、自分の事だが結構やらかしてる気がするな。
「あはは! 司もそんな顔するんだね」
「?」
「(あなた、自分では気付いてないと思うけどリュネール・エトワール状態だと表情無いわよ)」
「(そ、そうなの?)」
無口キャラは表情をあまり出さないって言うのを意識してたらそれが反映されてしまったのだろうか?――
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