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第二章『魔法少女を襲撃する者』
Act.15:吸魔の短剣①
しおりを挟む「間違いないわ……エーテルウェポンね」
雪菜と出掛けた日から少し経過した日の頃、俺はラビに預かった魔力を奪う短剣を見てもらっていた。雪菜とは今まで以上に少し仲が良くなったかな?
まあ、そもそも向こうはこちらに恋をしているため、好感度というのはカンストしてそうだが……あ、因みにお昼はちゃんと食べられたよ。
俺は普通に醤油のラーメンで、雪菜は蕎麦を食べていた。え、蕎麦、とは思ったけど、人の好みにケチをつける気はない。
俺も俺で、ラーメンを食べている訳だしな……どっちも同じ麺である。
「分かるものなのか?」
「ええ。妖精世界にあった武器よ? 妖精である私が何も感じないはず無いじゃない」
「それもそうか」
今は久しぶり? に本来の姿で家に座ってゆっくりしている。なにか最近、それなりに忙しくてな……魔法少女だから仕方がないんだろうけど。
でだ。
俺に託されたと言うべきか、件の短剣をラビに見せているところである。ラビの判定ではやっぱり、エーテルウェポンだそうだ。
「やっぱり実体のない武器よ。これ見てみなさい」
そう言ってラビは短剣の刃の部分を指差す。俺もそう言われたので目を向けると、何というか普通ではなかった。刃の部分が半透明っていうのか? 薄い感じに見える。
預かったのは良いけど、良く見れてなかったんだよな……刺された時は、何とかしようと考えるのが精一杯だったし、短剣を詳しく見てる暇はなかった。
「魔力で出来た刃よ。これが実体がないって事よ。こうやって触っても何とも無いじゃない?」
「確かに……」
ラビが刃に普通に触れたのでちょっと驚いたが、触れた部分は特に何とも無かった。俺も触ってみるが、そこにあるようでないみたいで、スゥっとすり抜ける。
本当に実体がないんだなあ、と実感する。こんな武器が妖精世界にはあったという事か。魔力吸収するくらいしか力はないみたいだが……魔法少女からすると天敵だな。
「それで、あの男はリュネール・エトワールくらいの少女に渡されたって言ってたのよね」
「ああ。あいつが嘘ついてなければだがな……まあ、ついているようには見えなかったけどな」
男が白状したのはまず、この短剣をくれたのが15歳位の少女だという事。そして不思議な感じの衣装を着ているらしく、どうも俺たち魔法少女の衣装に近いとも言ってたな。
「そして魔法少女みたいな衣装を着てたと」
「うん。何か黒っぽいドレスらしいよ。知らんけど」
黒いドレス……うーん、この何というか、禍々しそうな……いやまあ、実際見てないからまがまがしいかどうかは知らないけどな。男も別に禍々しいとか言ってなかったし。
「やっぱり向こうにも魔法少女がいるのか?」
「うーん、あまり考えたくない結論ね……でも、魔法少女だとすると向こうにもやっぱり妖精が居る可能性が……」
仮に妖精が居るとすると、俺並かそれ以上の魔法少女の可能性が高いな。そうなると、俺と戦った場合、同格かそれ以上か……実際会わないとわからないが。
「でもさ、妖精と魔法少女が居るとして、なんで魔力なんてものを集めてんだ?」
集める理由が見えない。
と言うか、集めた所でどうするというのか……他人の魔力を自身に使うってか? でもそんなの出来るのか? まあ、吸魔の短剣(ラビが命名)は一つはここにあるわけだが。
因みにラビが見た感じではかなりの量の魔力を蓄えてるみたいだ。ほとんどが俺の魔力らしいが……そう考えると、やっぱ俺は異常か。
「うーん。考えられるのは取り敢えず二つね」
「二つ?」
ラビが考える素振りを見せ、そう言ってくる。どうやらラビには二つほど考えられることがあるみたいだ。
「ええ。まずは一つ目。これは単純に魔力を集めて自分の物とする為ね」
「他人の魔力って使えるの?」
「まあ、魔力は魔力でその違いは無いわ。魔石のように魔力タンクとして使おうと考えている、と言う事ね」
「あーなるほど」
そう言えば魔石も、自身の魔力を回復できるんだよな。あれって魔物から出た魔力だから、他人とでも言うべきか。しかし、魔物の魔力って何か響きが悪すぎる。ラビが言う感じでは特に害はないみたいだけども。
それに、魔石に俺は助けられたしな……まさか魔力を奪われた時ってあんなにきついのか、と初めて知った。ブルーサファイアには聞いていたけど、実際体験すると結構ヤバイやつだったわ。
今まで使ってなかった魔石が大分溜まってたので、本当に運が良かった。どのくらい使ったかは分からんが、一桁後半以上……二桁? は使った気がする。元より俺の魔力が異常なほど多い訳だしな。
それによって蓄えていた魔石がかなり減ったようだ。ただ全く無くなった訳ではないが……魔石集めもコツコツしておくか。こういう時とかに役立つし(実体験)
「二つ目は?」
「ええ。一番考えたくないけど、妖精世界(フェリーク)の復活」
「!」
妖精世界の復活……世界を複製するという大魔法に失敗し、滅んでしまったラビたちが暮らしていた世界だ。この話を聞いたのは割と最近で、スケールが大きくなってびびったのは印象に残ってる。
妖精世界とこの世界、魔物の世界の三つが隣り合わせで存在しているこの状態。勿論、この世界の人達が気付いているという訳もない。魔法省や魔法少女ですら知らないだろう。
そもそも、向こうには妖精が居ないしな。妖精世界にあった魔力はこの世界に今は充満してる。その影響で、魔法少女が突発的に発生するのだ。ただ、何故10代前半が多いのかは謎だが。
「でも滅んだんだよな? 復活ってそんな事出来るのか?」
「考えたくはないけれど、魔法少女の魔力は元は妖精世界の物よ。それを集めて妖精世界で何かしようと考えてるっていう可能性もあるのよ。妖精世界の魔力を戻せば確かに復活できるかもしれないわね」
「でもそれ、物凄くとてつもない道のりになるよな?」
「ええ。どれだけかかるか分からないわ」
「うーん」
世界を復活ね。そんな事が可能なのだろうか? 確かにこの世界にある魔力は元は妖精世界なのだろうけど……それを戻すって結構無謀な気もする。
「ただ、そうやって集めるだけなら良いんだけど……特に怪我をした魔法少女は居ない訳だし。そうではなく、何か大規模な魔法を行使しようとしてる可能性もあるわ。二つじゃなくて三つね……」
「大規模な魔法?」
「ええ。どんな魔法かは分からないけど……それが良い物なのか悪い物なのか」
妖精世界だって世界を複製するというとんでも魔法を研究していた。その発動には大規模な魔力が必要で、集めた所で失敗。世界は崩壊した。
良い物でも悪い物でも、そんなレベルの魔法をこの世界で使おうとしている? 仮に失敗したら今度はこの世界が吹っ飛ぶんじゃないのか?
「駄目ね。あまりにも手掛かりが少なすぎるわ。とにかく、その黒い魔法少女? には注意しないといけないわね」
「だな……」
魔物を呼び出せるってだけでもかなり危険だと言うのに、一体その少女は何者なんだ? 魔法少女……あまり考えたくないけど、俺たちと同じ魔法少女がそんな事をしてるのは嫌だな。
まだ魔法少女と決まった訳じゃないけど、それでも不思議な力を使うって、普通じゃありえないし、やっぱり魔法少女として考えたほうが良いのかな。
「そう言えば、魔物を呼び出したとも言ってたわよね」
「ああ。魔物を呼び出すなんて可能なのか?」
「聞いたこと無いわよそんな魔法。でも、謎が多い少女だし何か別の力を持ってる可能性もゼロではないわね」
「……」
魔物を呼び出す。
つまり、魔物が存在する世界から呼び出しているという事になるよな? それとも、その黒い少女が作り出した魔物のような物って可能性もあるが、どの道厄介というか恐ろしいのは変わらないな。
取り敢えず……魔法少女かは分からんが、黒い少女については警戒しておくか。後はこれをホワイトリリーにも伝えられれば良いな。
俺はそんな事考えながら、窓の外を見た。
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