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第二章『魔法少女を襲撃する者』
Act.17:エピローグ
しおりを挟む「はいこれ、返す」
「え?」
俺は男が使っていた吸魔の短剣をホワイトリリーに差し出す。ラビによる調査は終わったので、もう必要がない。それに、本来なら魔法省が持つべき物だろうし。
まあ、先立って分かったのは良かったが……取り敢えずこれはエーテルウェポンだ。ただ、この武器について教えるかどうかなんだよな。エーテルウェポンは妖精世界の武器だし、これは言わない方が良いか。
「なにか分かったんですか?」
「ん。これは吸魔の短剣で、やっぱり魔力を吸収して蓄積する力を持ってる」
「やっぱり……」
「でもそれくらいしか分からない」
妖精世界の事を教えた方が良いのかなとは思ってるが、ラビと相談した結果、今は取り敢えず伏せおくことにした。そもそも妖精は現状ラビしか居ないしな。
「そうですか……でもやっぱり、魔力を奪う短剣だったんですね」
「ん。取り扱いには気を付けて」
「分かりました。ありがとうございます。……これについて報告しても大丈夫ですか?」
「ん。問題ない」
結局妖精世界が関わってる物なので、調べた所で多分分からないとは思うが……そもそも、別世界があるなんて普通は信じられないだろうし。
それよりも問題はやはり、黒い魔法少女だろう。いや、魔法少女と決まった訳ではないが、魔物を呼び出したり、エーテルウェポンを持ってたりとか、普通ではないのは分かる。
ただ、何故か最近ではそんな魔力が奪われるという事件がパタリと止んでしまった。いや、良い事なんだろうけど腑に落ちない。
と言ってもまだ一週間程度しか経過してないから何とも言えないのだが……。だって前も一時期パタリと止まった時があったしな。もうしばらくは様子見になるだろうと思う。
男が拘束されたのは良いとして、他にも人が居る可能性もある。だって、別の地域でも起きていた事件だぜ? その別の地域でもパタリと止んだみたいなんだけどな。
男一人でやったって事になるのか? でも、どうやってそんなあっちこっち行けてるんだ?
「あ、そうでした。件の犯人の取り調べで分かったんですが……どうも、瞬間移動できる存在が居たみたいです」
「瞬間……移動?」
え、何それ羨ましい……じゃなくて、瞬間移動って実在するのか……まあ、魔法は割と何でもありが多いからあっても可笑しくはないけど。
「はい。やっぱり魔法少女のような存在が居るみたいですね」
ふむ、俺が尋問した時と変わらずに話したのか。
瞬間移動が出来る魔法少女……結構厄介じゃねこれ。それで逃げられたらどうしようもないよなぁ……まだ確定ではないけど、そんなのが使えるならやはり魔法少女説が濃厚だよな。
しかし、何が目的なんだ? ラビの言う通り妖精世界の復活とかなのかね? でもそうなると、向こうにも妖精が居るって話になるよな。妖精世界を知ってる時点でね。
何らかのきっかけで知った可能性もあるが、妖精が居ると考えた方が色々と納得だ。
「もし本当に魔法少女だとすれば、止めないといけませんね……」
「ん」
それには同意見である。
でも、この話が本当なら転移できるって事だし、一筋縄では行かないよなあ。話し合いで解決できるのが一番だが、そう上手くは行かないだろうな。
とにかく、警戒を怠らないようにするか。実際俺は一度刺された訳だし。
そんなこんな、ホワイトリリーと話した所で解散するのだった。
□□□□□□□□□□
「……」
どうしたんだろう、私……。
ちょっと大きめなクマのぬいぐるみを抱きながら、自分の部屋のベッドの上に寝転がる。最近ちょっとおかしんだよね……。
「リュネール・エトワール……っ!?」
名前……名前を思い浮かべるだけであの時の笑顔まで思い出して、何回もドキドキする。これが分からない。緊張してる? それはないか。
何で名前思い出すだけで緊張するんだって話だよね。このドキドキ……緊張した時の物ではないよね、やっぱり。
「はぁ……うー何なの本当に。クマさん教えてよ」
そう言って私はぬいぐるみに顔をうずめる。
自分でも良く分からないこの感情は何なのかな……悪い物って訳でもなさそうだけど。撫でられたり、肩をさすってくれたりしてくれた、あの時の事を思い出す。
今思えば、恥ずかしい所を見せてしまった。素の口調もついついでバレちゃったし、何やってるんだろ。でも、嫌な気持ちはないんだよね。
最近ではリュネール・エトワールがホワイトリリーと仲良く話してる所を見ると、少しもやっとする。何故もやっとするのかは分からない。
病気なのかな。
「……」
本当に何やってるんだろ。
でも、リュネール・エトワールも何をしてるんだろう。また……何で、そんな事気になるの!?
「うぅ……あぁ……」
分からない、分からないけど……この気持ちは。
「今日はもう寝よう、うん」
いつもより早いけど、仕方がない。これ以上考えたらおかしくなりそうな気がする。こういう時はもう寝るのが良いよね!
未だにドキドキは収まらないけど、でも目を瞑れば不思議と直ぐに夢の世界に旅立てた。
□□□□□□□□□□
「真白っち、冬休みはどうするの?」
「うーん、実家に帰ろうかなって」
「実家かー……確か茨城だったよね」
「うん」
「あ、後確かお兄さんも居るんだっけ?」
「うん、そうだよ。実家ではお兄が暮らしてる」
私の実家は茨城にある。この東京からは電車一本で取り敢えずは行けるけど、県北だから結構遠いんだよね。魔物の出現も増えてるからいつ止まっても可笑しくはない。
でも、全然お兄に会えてないから会いに行きたい所なんだよね。
電話しようにも、お兄は携帯解約してるし……家電にかければ良いって言ってくるけど、そういう問題じゃないんだけどなぁ……。
まあ、無料のCONNECTっていうアプリでチャット会話はしてるけどね。
元気そうではあるけど、実際この目で見るまでは信用できない。というか、お兄から聞いたんだけど仕事辞めたって言ってたし、それも心配だよ。
それでも仕送りは送ってきてくれてるんだよね。大丈夫なのかな……無理しないでほしいけど。それに最近は反応が遅くなってるんだよね。それもまた心配。
何故そこまで心配なのかって? そんなの当たり前だよ。お兄は今では唯一の血が繋がってる家族なんだ。お兄まで居なくなるのは考えたくない。
それに、茨城地域でも魔物は増加してるみたいだし。
「そっかー」
ふふ、いきなり帰ったら驚くだろうなお兄。
「何か楽しそうだね、真白っち。お兄さんのこと好きなの?」
「うーん、家族としては好きだよ」
「ほうほう」
「な、何?」
「いーや別に!」
この子の名前は恵利(エリ)と言って、同級生で選択してる単位も同じで、気付いたら仲良くなっていた感じだ。席が隣なのが多かったのもあるけどね。
「恵利は、実家も東京だもんね」
「まあね。だから冬休みになっても変わらないなー」
「ふふ」
とにかく、お兄、元気だと良いな。よし、驚かせるために内緒で帰ろう。どう反応するか楽しみだなー。
「あー真白っち、悪い顔してるー」
「え、そんな事無いよ?」
「ほんとう~?」
そんなこんな、話している内に、次の単位の時間がやってくるのだった。
□□□□□□□□□□
「……そう失敗したのね」
たった今、男が魔法省に拘束されたと言う情報を聞き、静かに呟く。
「はあ……」
「大丈夫かい」
「うーん、微妙」
私にそう話しかけてくるのはララだ。見た目は黒いうさぎのぬいぐるみだ。自分の事を妖精と名乗っていたけど、それが本当かどうかは分からない。
「だから言ったじゃん。そんな面倒な方法使うなって」
「いやだって、変な事したくないし」
「君はそういう子だよね……」
うるさいわよ、ララ。
悪い事なんてしたくないって普通じゃないの。だからこうやって、誰も怪我させない方法を使ったんだけど……男が捕まってしまい、続行はできなくなった。
いや、男を助ければ良いだけなんだけど、逮捕者を助け出すとか犯罪じゃない。
「いや、既に魔法少女を刺してる時点で君も犯罪者だからね? 教唆ってやつ」
「うっ」
「まあ、魔力を集めるというのを協力してくれてるのは嬉しいけどね」
ララはある日突然、私の前に現れたのだ。開口一番『魔法少女にならないかい?』だよ? 凄い怪しい勧誘かと思って追い出そうとしたんだけども。
取り敢えず、話だけは聞いてみようと思って聞いて、私が選んだのはイエスだったわ。
「あーそれと、例の協力者? あの男、野良の魔法少女のリュネール・エトワールを連れて行こうとしたみたいだよ」
「え……何それ聞いてない」
何してくれてんの、あのバカ。
いやまあ、もう捕まってるけどさ……魔法少女を攫うって何考えてんのよ。私はそんな事頼んだ覚えはないわよ。
「まあ、君の説明が悪かったんじゃない?」
「……」
いや、私は魔力を集めてくれって頼んだんだけど……何でそこから攫うなんて発想出るの? 女の子を攫う? ええ……もしかしてあの男、やばいやつだった?
「それだけじゃ説明不足だろう? 魔力を集めてくれって曖昧過ぎる。手段も問わないって言ってるようなものだよ? しかも半ば脅しのような感じでさ」
「ぐっ」
ええ、そうね。
確かに私が悪かったかもしれない……リュネール・エトワールって言ったらあの噂の星月の魔法少女って呼ばれる野良の子だよね? 大丈夫かな……いや、男を捕まえたのも彼女だって聞いてるから無事かしら。
「魔力を集めてくれるのは良いんだけど、方法とかもっと良く考えようよ。ボクは別に方法は問わないって言ってるから君の思うままで良いんだけど……犯罪者になっちゃってるね」
「そうね……」
まあ、自業自得なんだけども。
でもまあ、魔法少女だし、対応するのは魔法省になるのかしら。この地域の魔法省が少し優しかったら良いなーと思いつつ。
「こうなるなら自分でやるべきだったわね」
「誰かに頼むとか、その時点で変だって気付こうよ」
「まあ良いわ……取り敢えず、魔力を集めるまでは捕まるつもりはないわよ」
「うん。ありがとう……ブラックリリー」
魔法少女に変身している時の状態は、通常の時と大きく変わるのが幸いよね。若干の面影は残るものの、それだけでは特定も何も出来ないわ。
それに、私は野良だから余計にね。野良と言えばこの辺では星月の魔法少女って呼ばれてるリュネール・エトワールが有名よね。聞いた話だと、とんでも魔法ばっか使うらしいじゃないの。
「まあ、君も規格外だけどね」
「……」
いちいちうるさいぬいぐるみである。
確かに、空間を操れるって中々やばい魔法だと思ってるけど……でも消費する魔力が結構大きいのが難点よね。とは言え、瞬時に場所を移動できるのは本当に便利だけれど。
名前と魔法が全然結びつかないっていうのも変よねえ……気にした所で、使える魔法が変わる訳じゃないけど。と言うより、名付けたの私自身だから何を言ってんだって話。
何故ブラックリリーなのかは、聞かないで欲しいわ。
それはそれとして、リュネール・エトワールには悪い事したわね。会う機会があったら謝っておこうかしら。でも、彼女って目撃場所の範囲が広いから狙って会うのは難しいのよねね……。
「別の方法を考えるわ……」
「是非そうしてくれ」
「……テレポート」
一瞬で景色が変わり、私たちはさっきの場所から遠ざかったのだった。
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