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第四章『星月の選択』
Act.04:遠出にて①
しおりを挟むガタンゴトンガタンゴトン……。
翌日、俺は一人、電車に揺られながら外の景色を眺めていた。何の目的もなくただただ揺られていた。でも、目的と言えば目的でもあるのか? 俺はちょっと遠出をしたいと思っていた。
真白は今日は友だちと会う約束をしていたようで、家には居ない。ラビにアドバイスされつつ、服を着て今に至っている。長袖のワンピースに厚手のコート、首にはこの前買ってもらった真白とおそろいのマフラーを巻いている。
電車の中は暖房が効いているから、そこまで寒くはないが今日の気温は昼間ですら氷点下という。外出た瞬間ぶるって震えたわ。
リュックではなく、今回は肩から掛けられるショルダーバッグを持ってきているのだが、今回は珍しくラビが居ない。ラビはラビで俺がこうなった原因を探してくれているからな。
てな訳で、今の俺はボッチと言うかまあ、一人しか居ない。急に遠くに行きたくなった理由は特にない……色々ありすぎて、ちょっと気分転換したいと思ってはいるが……。
でもって、今の俺は特に変身も何もせず変わってしまった姿のままだ。魔力を使った偽りの姿ではなく、何も使わない状態で出掛けたかった。リフレッシュの意味もある。
問題なのがこの容姿……真白並に非常に目立つし、駅で待ってる間にもかなりの視線を感じていた。女性は視線に敏感とは言うけど、ここまでとは思わなかった。
この姿では車は流石に使えないし、移動手段は電車とかバス、後はタクシーくらいしか無い。強いて言えばヒッチハイクなんて言うのも有るが、流石にそれはね。
何故こうなったかは分からないが、いつ戻れるか分からない以上、この姿でも不自由なく出歩けるようにはしておかないと。ただやっぱり落ち着かない。
一応、変身デバイスは持ってきているが、正直今は戦いたい気分はあまりない。勿論、危ない状態であれば戦うつもりだが今回は基本的には一般人として居たい。
「……」
電車のガラスに映る自分の姿。
リュネール・エトワールにそっくりではあるけど、魔法少女特有のオーラとか、そういうのは全く感じさせない。これが今の姿なんだって改めて思う。
何となく……心当たりのようなものはあったんだ、実際。
可愛いものに目が行ってしまう事や、服を見るとリュネール・エトワールが着たらどうかなと無意識に考えてしまうっていう事も。
それが原因かは分からないけど、無関係とは思えない。
県北から県南まで行くって結構な距離だよな……遠出には丁度良い。未だに視線を若干感じつつも、俺は電車に揺られて県北、県央を抜け県南へと入って行くのだった。
県南と言えば何かと聞かれたらあまりパッと思い浮かばない。某有名な袋田の滝や、花貫渓谷は県北側だし、海浜公園もまた県北。
俺が知っているのはそういったレジャー施設ではなく、土浦にあるショッピングモールくらいだ。あそこは水戸にもある所と同じな有名なショッピングモールで、増設された水戸よりは広くないかもだがそれでもかなり広い。
ぶっちゃけ、県北に住んでる俺が県南に来るなんて滅多にない。魔法少女リュネール・エトワールとして来たことなら何回もあるが、何処に何があるかまで把握はできてない。
「……」
そして俺がやって来たのは土浦にある方。駅から直通バスがでているので、楽々移動である。立体駐車場は無く、一階(地上)と屋上に駐車場があり、そしてどちらもかなり広い。
正直言うと、俺は立体駐車場が苦手だったりする。嫌い……とまでは行かないけど、やっぱり狭いって言うのもあるし時々どっちの方面に出るか分からなくなる時があるんだよな。俺だけかもしれないが。
「大分遠くまで来た」
この辺りの住んでいる人としては普通に近所のショッピングモール的な感覚なんだろうけど、県北とかからだと遠いよな。それは水戸にあるショッピングモールにも言えるんだけどな。
県南ならここ、県央・県北だったら向こうって感じか? まあいいや。
気分転換とは言え、ちょっと遠出し過ぎたかなとは思う。それに今回は俺一人しか居ないし、リュネール・エトワールの姿で慣れてるとは言え、まだ微妙に違和感のあるこの姿でもある。
「来ちゃったものは仕方がない」
ここまで来て何もせずに引き返すっていうのもあれなので、俺は早速中へと入る。そしてやっぱり人の数が多い……今冬休み期間でもあるから学生っぽい人もちらほらいる。
仮に平日のこんな時間に来てたら補導ものだろう。俺の今の姿も補導に掛かる可能性が非常に高く、冬休み期間で良かったとは思ってる。
別に行きたい店とかは……ない。
「……」
まただ。
色んな服が売っている店を見ると、そちらに目が行ってしまう。駄目だ……ちょっぴり名残惜しい感じを残しつつも俺は店をスルーしエスカレーターに乗って上へ行く。
「それにしても……」
うん、向こうにも負けないくらいのお客の数だなって思う。
後やっぱり視線を感じる。こっそりと感じたほうを見てやると、何人かの男性がこちらを見ていた。だけど、他にも女性も何故か顔を赤くしてこっちを見ている人も居る。
「……」
気にしない……気にしない。
とっととエスカレーターを登っていき、二階へ。そしてさらに三階へ行き、俺は通路を歩く。吹き抜けとなっている場所からは二階の様子が見えるし、ソファーとかがあるところには何人かが座っていたり、特に珍しくもない光景が広がる。
そのまま周りを見ながら歩いていると、騒がしい音が聞こえる店……一応店で良いのかな? そう、ゲームセンターである。ゲーセンが目に入ったので、行ってみることにする。
「ん。ここも結構ある」
ゲーム好きな俺からすると思わずニッコリしてしまう所だ。というか現在進行系で多分ニッコリしていると思う。
「そう言えば雪菜ともゲーセンに行った」
ふとホワイトリリーこと、雪菜と出掛けた時を思い出す。あの時は向こうの方だけど、ゲーセンに寄って兎のぬいぐるみを取ってあげたっけ。
大事そうに持っていたのを見た時は、ちょっと嬉しいなと思った。やっぱり誰かに喜ばれるのは、こっちも嬉しくなる。
店内にあるクレーンゲームを流し見する。同じような兎のぬいぐるみのクレーンゲームは流石に無かったけど、くまのぬいぐるみの入ったケースなら見つけた。
「……」
周りを見て誰も見てないのを確認した後、俺はこっそりとそのクレーンゲームに近づく。
白、茶、黒の三色があって、大きさは大体あの時の兎のぬいぐるみを同じくらいか。白いやつなら真白に取っていくのも良いかもしれないな。
俺は財布から500円玉を取り出し、コイン投入口へと入れる。1プレイ100円で500円だと6プレイ出来るのはもう普通なクレーンゲームだな。
横から見たり、正面に戻って見たり一を把握しながら俺はクレーンを動かす。まずは白いくまさんぬいぐるみを狙う。取り出し口に一番近い物をターゲットし、そして決定。
「良い感じ」
と言っても、この手の物は何回かしないとアームが弱いっていう仕様なんだがな。でもその弱い状態でも取ってる人を見ると、これもあまり確実とも言えないか。
「今回は運が良い……ふふ」
自然と笑いが出てしまう。
何故かと言えば、今回は3プレイ目で目的のくまのぬいぐるみを取れたからだ。正直俺も驚いている……ただまだ回数が3回残っているし、勿体ないのでもう一体狙おう。
「……これかな」
普通の茶色のくまのぬいぐるみに目をつける。クレーンを動かし、そのぬいぐるみを狙う。同じように横から見たりとかして位置を調節してOK。
アームが降りていき、がっしりと掴むが、途中まで上った所で落ちてしまった。まあ、そんな連続で上手くいくことなんて無いよな。
チャレンジ二回目、ちょっと移動したけど取り出し口には落とせなかった。
チャレンジ三回目……あとちょっと、あとちょっとだったのに!
「う、悔しい」
取れないだけでこんなに悔しいとは。
……あれ? 何で俺はこんなにも悔しいと感じているんだ? 別に欲しくは……。
「もう一回だけ」
500円ではなく、100円の方でプレイ。四回目のチャレンジとなるが、惜しくも上手く行かず、俺は追加で100円玉を入れる。
「やった!」
五回目でようやく茶色のくまのぬいぐるみが取れる。思ったよりかからずに済んだのは、やっぱり運が良かったのかもしれない。これで白と茶色が取れた。
「ふふ……」
自然と笑みが溢れる。
あーでも二体になっちゃったな。何か袋とか貰うとするか……そう決めて、俺は近くにあった人の居るカウンターに向かうのだった。
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