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第四章『星月の選択』
Act.24:災厄の大晦日⑥
しおりを挟む「えっぐ」
「それをあなたが言うのかしら?」
ティラノサウルスもどきの魔物……サンフレアキャノンでさえ、結構耐えていたがブラックリリーのスペースカットによって、あっさりと消滅する。
ティラノサウルスもどきの居た空間が真っ二つになり、そしてまた空間がくっ付く……うん、ある意味凄い光景だよなこれ。
俺がそこそこのダメージを与えていたのもあったのかも知れないが、今回はブラックリリーのお手柄だな。俺は戦闘中なのに変なこと考えて、気付いたらもう魔物の爪が目の前に迫ってきていたし。
「大分被害が広がった」
魔物の居た場所周辺に目を向ければ、あっちこっちにある崩壊した家屋や、倒れている電柱、切れている電線が見え、切れた電線については火花を散らしている。
ティラノサウルスもどきの魔物が暴れた結果でもあるか、出現してから俺が駆けつけるまでにも時間があったしその間にも被害は出ていただろう。そして戦闘時だって、あいつがジャンプとかしたりすると周りが物凄く揺れたりとかしていた。
仕方がないとは言え、もう少し何とか出来たんじゃないかと思ってしまう。でも、住民たちは既に避難しているっぽくて人影が見えないのは幸いだったか。
「仕方がないわよ。今回の魔物は脅威度Sなんだから。それよりも、魔石は回収しないのかしら?」
「ん。今回はブラックリリーが倒したから、受け取って」
「え? でも最初戦っていたのはあなたでしょ」
「わたしは戦闘中なのに色々と考えていたのもあって、危なかった。それにわたしの中では一番強い魔法でも倒しきれてなかった」
サンフレアキャノン。
太陽の熱をイメージして発動させた魔法で、普通ならこの数千万度以上の温度に耐えられるような物は存在しないだろう。AAの魔物ですら一発で葬り去った魔法だ。ゴジラもどきはAでも耐えてたが、火に耐性があったんだと思う。
今回相手にしたティラノサウルスもどきも、耐性があったんだろうか? 何せ脅威度Sの魔物が出現したのはこの地域では初めてだからそこの所は良く分からない。
「いやいや、普通はそんなもんでしょ……」
何処か呆れた顔を見せるブラックリリー。
「脅威度Sまで一撃で倒せたら逆に引くわよ」
「ええ……」
すぐに倒せる方が被害も少なく済むのではないだろうか? まあ、でも確かに今まであっさり倒せてたのがそもそもおかしいという自覚はあったよ、うん。
取り敢えず、ティラノサウルスもどきの魔物は倒せた。後は魔石の回収なのだが……俺はちらりとブラックリリーを見る。俺の視線に気付いた彼女はこちらを見返してくる。
「どうかしたの? 私の顔に何かついているかしら」
「何もついてないよ?」
「そう? それじゃあ何かしら?」
「魔石」
話が逸れてしまっていたので戻す。
魔物が居た場所に近付くと、そこには大きな魔石が二つほど落ちていた。いや、落ちていると言うか……設置されている? 高さは大体今の俺の身長の半分くらい。思ったより大きい。
普通の魔石と違うのはもう分かるが、他にもこの魔石の色が普通じゃない。上から赤色、青色、緑色の三色の色と持っているようで、淡く光っている。
「これ、凄く大きいわね」
「うん、この大きさはボクも初めて見るかも」
ブラックリリーとララがそんな事を言うが、確かにこの大きさの魔石は俺も初めて見る。大きさだけではなく、内包されている魔力量も今までのものとは比べ物にならないくらいだ。
「(これは凄いわね……ここまでの大きさと魔力。)」
「(ラビ? 何かもうバレてるみたいだけど?)」
「(ええ、分かってるわ。間違いなくあのララって子は妖精よ)」
魔石についてはラビからしても凄いものらしい。
ただラビの場合は初めてではないみたいで、15年前の脅威度SSの魔物を倒した後に出てきた魔石というのが、一番でかくで魔力量も多いと言ってた。
15年前に出現したドラゴンのような魔物。以前にも言ったと思うが、国一つを半壊にまで追いやった恐ろしい存在だ。当時は原初の魔法少女たち7人のお陰で、何とか被害は半壊で済んだとされている。
あのまま魔法少女たちが居なかったら国一つは愚か、周辺諸国まで狙われていたかも知れないと言われている。それだけではなく、羽も持っていたため、空を飛んで移動することも出来たとされてる。
当時は空を飛ぶという行動をすることはなく、ただただ周辺の建物や木などに対して破壊の限りを尽くしていたらしい。更にその頃は警報なんてものは当然なく、魔法省のような組織もなかったため、避難も遅れた。
その影響もあり、数千以上の死傷者が出てしまったそうだ。ドラゴンは口から火を吐いたり、その巨体を大きく動かし周囲を激しく揺らしたり、しっぽを振り回したりして破壊行動をしていた。
火のブレスは周囲を焼き払い、その火が他の建物や木などに引火し、更なる火災を引き起こした。他にも地震のような被害もあり、その国はもう滅茶苦茶だったそうだ。
それでも、原初の魔法少女たちのお陰で半壊で済んだ。空を飛べる能力もあるとされていたので、距離が離れている国でも油断はできない状況で、世界中を戦慄させた事件でもある。
で、また話が逸れてしまったが、そのドラゴンの魔物が倒された時に見つかったのが物凄く大きな魔石だった。ラビの話によると、大体二メートルから三メートル以上の高さにもなる魔石だったそうだ。幅も広かった。そして内包している魔力量も桁違い。
まあ、ラビはそんな魔石を見ているのだからこの程度では驚かないのは当たり前だよな。
「分配どうする? 個人的には全部ブラックリリーがもらって欲しい」
「何言ってるのよ。ちょうどニつあるんだから一つずつに決まってるでしょ」
「え、でも……」
「えもだってもないわよ。とにかく、一つずつね」
「……分かった」
このまま何を言ってもブラックリリーの意思は変わらないと判断した俺は、素直にもらうことにした。それにしても、この大きさ……収納しきれるのだろうか?
片手では普通に持ち上げられそうだ。まあ、今は魔法少女状態だし力とかは大きく上がっているはずなので、このくらいは持てるか。ステッキよりも明らかに大きいが、魔石をステッキに近づけてみる。
「普通に収納できるんだ……」
「(そりゃそうよ、それはエーテルウェポンよ?)」
俺が素直にそんな事を言うと、ラビに突っ込まれた。
というかラビ、もうララだっけ? あっちの妖精にはバレているんだし、とんがり帽子に隠れる意味なくないか? それに向こうは普通に隠すこともせず、堂々に俺らに見せてくるし。
「(もしかしたらカマ掛けてるかも知れないじゃない?)」
「(まあ、確かに……)」
たしかにその可能性は考えてなかったな。
でも、ララという妖精は何処か確信じみた感じで言っていたから、そこが気になる。何かを感じたというところか? 同じ妖精なんだし妖精特有の何かがある可能性はあるな。
まあ、相手の出方を見るのが一番が。
それに、魔石を回収したとしてもまだ終わっては居ない。まだ、水戸の方にはクラゲもどきの魔物が居るはず……倒されているならそれはそれで良いのだが……。
「ん。わたしは水戸に行く。ブラックリリーは?」
俺は向かうつもりだ。やっぱりなんだかんだで、あの二人が気になる。怪我とかしてなければ良いが、まずは行ってみるしか無いな。問題がないのであれば、特に手出しはしないで済むってだけだし。
ただブラックリリーは所謂、お尋ね者のような存在となっている。公にはされていないものの、密かにブラックリリーを探していると聞いてる。毎回思うけどそんな情報を流して良いのだろうか。
それはさておき、そんな訳でブラックリリーは行かないほうが良いと思ってるが、そこの所はどうだろうか。
「そうね……本当なら行きたくはないけれど少しだけ嫌な予感がするのよね。それにあなたも、なんか危なっかしいし」
「嫌な予感?」
「ええ。まあ、私だけかも知れないから何とも言えないけど。取り合えず今回はついていくわ」
「大丈夫?」
「さあ? むしろ、あなたのほうが大丈夫って言いたい所だけど」
それを言われると弱い。
今回ばっかりは猛反省しよう。
「冗談よ。さ、行きましょ」
「ん」
俺はブラックリリーの差し出してきた手を掴む。
「テレポート」
そして俺たちは水戸へと向うのだった。
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