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第四章『星月の選択』
Act.32:反転世界の戦い②
しおりを挟む「スターバリア」
フルパワーだ。
魔石は十二分持っているし、贅沢に魔力を使っても大丈夫だろう。それに中途半端では守りきれない場合がある……五芒星のバリアを三重に大きく展開する。
一重目のバリアがクラゲもどきの魔物のレーザのようなビームのようなとりあえず、光線? を受け止める。軽い衝撃が来たが、別にそこまで気になるようなものではない。
今回は三つ全てに魔力を多めに注ぎ込んでいるので、そう簡単には破れないだろう。
「リュネール・エトワール……?」
後ろから聞き覚えのある、ホワイトリリーの声が聞こえた。ホワイトリリーたちも、バリアを張っていたようだが、防ぎ切れるかは分からない。だから乱入した形ではあるが、俺もバリアを展開させた。
今回は一枚目だけで攻撃を防ぎきれたようだ。ゴジラもどきの攻撃より弱いか? 一枚目は破壊されるかと思ったが、あっさり防げたことに逆に驚く。
ここの魔法少女たちでは、防ぎきれないだろうと油断したか? まあ、考えれば俺の乱入は、クラゲもどきにとっては予想外の出来事だっただろうから、それのせいでもあるかな。
「ん。ホワイトリリー、無事で良かった」
無事な姿を見れた俺は、それに安堵する。無事だということはブルーサファイアとの会話で分かってたが、実際この目で見るまでは信じられなかったしな。
「はい……」
俺がそう声をかけると、ホワイトリリーは明らかに安堵の顔を見せる。やっぱり怖かったのかも知れない。本当の事はホワイトリリー自身にしか分からないが、それでも不安になっていたのは確かだろう。
俺はぎろりとクラゲの魔物を見る。
一瞬だけ、向こうが怯んだように見えたが気の所為だったかな? まあ、それは良い。ホワイトリリーやブルーサファイア……茨城地域の魔法少女たちをこんな目に合わせてただで済むと思うなよ。
「(まずは魔法少女たちを捕まえてる触手をやった方が良いわね)」
「(ん)」
最初にそうしたいのは山々だったが、飛ばされたブルーサファイアに、さっき大きな攻撃を受けそうになっていたホワイトリリーたちを見たらまずはこっちを助けるべきだと思ったので、申し訳ない。
一人ずつやるのは効率が悪すぎるし、時間がかかる。クラゲもどきの妨害も入るだろうから、ここは一気にやらせてもらう。
「――メテオスターフォール」
反転世界上空に無数の魔法陣が展開する。虚空より隕石を呼び出し、降り注ぐ。一つ一つの魔法陣から召喚されるのはたった一つではない。その数に上限はないのだ。魔力がある限り、星は降り注ぐ。
俺……いや、わたしは自分の魔法に願う。捕まってしまっている魔法少女たちを助けて欲しい、と。
すると、その願いに応えてくれているかのように星たちはそれぞれの、魔法少女の元へ落ちていく。本体はわからないが、この拘束している触手自体は弱いのか、一発当たるだけで消滅する。
次々と拘束されてしまっている魔法少女たちを解放していく。クラゲもどきが自慢の触手と使ってこちらを妨害しようとしてくるが、一部の星たちがそれを許さない。
「す、凄い……」
「これが、噂の魔法少女の魔法?」
ホワイトリリーではない、他の魔法少女たちの驚いた声が聞こえる。何度か魔法省の魔法少女たちには会ったことがあるが、実際話すことは少ない。
それもあって、全員の名前や顔を覚えている訳ではないのだ。でも、前はそもそも話すら聞かずにその場から去って行ってた。その事については今更ながら申し訳ないと思ってる。
理由はもう知っての通り本当の姿を知られたくなかったから。会話をしたら会話途中で、もしかしたらボロを出してしまうかも知れない。そんな不安が強かった。
でも、今は……。
この身に起きているこの現象はわたし自身が願った物。最初言われた時は受け入れられなかったけど、冷静に今までのことを振り返ってみたら、わたしはこうなりたいと思っていたんだ。
わたしであれば、このままずっと何も変わらずに居られる。そんな強い願望が、願いの木を発動させたのかも知れない。近くで願うのが普通みたいだけど……。
まあ、願いの木についてはまだ調べる余地はあるかな。ラビと一緒に。
「さて」
多分、全ての魔法少女を解放できたはず。未だに隕石たちが降り注いでいるけど、クラゲもどきの本体には全然ダメージが入ってないように見える。
わたしの使うメテオスターフォールは、未だに謎が多い。自分自身がまだ理解できてないって事なんだけど、謎なものは謎だからどうしようもない。
隕石を広範囲に降り注がせるのは分かるのだが、問題はその隕石。わたしが操作してる訳ではなく、願ったりこうして欲しいと思うとその通りに勝手に動くのだ。あ、一応操作に入るのか?
それは置いておこう。
「ホワイトリリー」
「は、はい!?」
「落ち着いて。えっと、多分今ので捕まってた魔法少女は解放できたと思うから、動ける魔法少女たちと一緒にサポートしてきてあげて」
「分かりました。リュネール・エトワールはどうするのですか?」
「ん。わたしはあのクラゲもどきを相手する」
「一人で、ですか?」
「そう」
どれだけ強いかはわからないが、奴を倒さなければ解決にはならない。まあ、この反転世界から抜ければ良いんだろうけど、クラゲもどきは入る力を使えるのだから、出ることも出来るだろう。抜けた所で、追ってくるだけだ。
ホワイトリリーたちは、あのクラゲもどきを長く相手していた。無理はさせられないし、ここからわたしが相手してやる……自分でも分かるくらい怒りという感情が出てきてる。
「私が何を言っても変わりませんよね。分かりました、サポートしてきます」
「ん。それにホワイトリリーはもう長く戦ってる。今はわたしに任せて」
上手く笑えてるかは分からないけど、多分笑ってるはず。
「! はい!」
他の魔法少女の元へ向かうホワイトリリーの背中を見送り、再びクラゲもどきと対面する。どうやらわたしを脅威と見たようでこちらに矛先を向けてきてる。
わたしの居る場所より一定の範囲は、メテオスターフォールの領域。魔力は惜しまない……この降り注ぐ星とともに相手してやる。
これは少し前に知った事なんだけど、このメテオスターフォールという魔法は、常に展開させることが出来るみたいなんだよね。そう、今のこの状態と同じ。
勿論相応の魔力は消費していくけど、最初に発動させる時よりは少ない。
「サンフレアキャノン!」
長引かせるつもりはない……魔法のキーワードを紡ぐと、極太の熱線が放たれる。それだけではなく、メテオスターフォール領域の影響なのか、一部の星が熱線とともに並列して魔物へ飛んでいく。
これは少し予想外だが、威力が上がるなら別に何でも構わない。
「(効いてないわね)」
「本当にね……」
サンフレアキャノンは単体相手なら一番強力な魔法なのだが、クラゲもどきに着弾して爆発しても傷すらも付けられてない。何かの阻まれている……バリアのような何かだとは思う。
「厄介」
バリアなのかは分からない。でも、攻撃を防ぐ何かしらのギミックと言うか能力か何かがあるのは確か。
「スターシュート!」
そのバリアのようなものがどんな感じなのか、スターシュートを放ってみる。そうするとまた、星が並列して一緒に飛んでいく。着弾して爆発はするものの、やっぱり何かに阻まれてる。
「(今一瞬空間が歪んだように見えたわ)」
「空間が?」
「(ええ、はっきりとは見えなかったけど)」
つまり、空間を歪めて攻撃を防いでいるのか。まだ確定ではないけど、空間が歪むならそういう事だよね?
ブラックリリーみたいな空間魔法を使えるのか、このクラゲもどきは。流石は脅威度Sと言えば良いのか……まあ、見えない壁で閉じ込めてたんだし、そう言う系譜の力があっても何もおかしくないか。
「面倒」
この一言に尽きる。
空間の魔法なんてわたしにとっては未知だよ。ブラックリリーが居れば何とかなったかも知れないが……。
って、弱気になっちゃ駄目だ。
さっきわたしは決めたはずだ……わたしはわたしのこの魔法で、自分の大事な人たちを守ると。ホワイトリリーやブルーサファイア、ブラックリリーもそうだ。
魔法少女を守る、そうだろう?
「やってやる……」
脅威度Sが何だ、わたしだって推定ではあるけどSクラス並の力はあるんだ。
「覚悟は、良い?」
わたしは気持ちを整え、静かにそう呟きながらクラゲもどきを見るのだった。
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